ウミは出し切れるか

ウミは出し切れるか

次の火種は?


続・サブプライム展望記者座談会


――サブプライム問題はそろそろ落ち着いてきたのか…。

 そもそもサブプライム問題とは何か、という原点に戻って考えてみると、低所得者の住宅ローンで、さまざまな要因によってそれが返せなくなってしまったということだ。とはいえ、5人のうち3人ぐらいはきちんと返済するだろうし、残りの2人にしてみても家を売れば、半分もしくは3割は回収できる。このため、本質的な損失率は2割くらいではないかとも言われている。

 2割の損失と仮定すれば、評価損に比べてかなり少ないことになる。

 その通りだ。評価損は評価損でしかなく、不確実性な要素がたくさん含まれてくる。とりわけ、サブプライムは証券化によりいくつにも商品分けなどをしているため、それらをすべて足していくと、20の損が30にも40にもなるという現象が起きている。価格変動もその原因の一つだ。

 価格変動については、徐々に落ち着いていくのではないか。問題は、2割の損失部分に対してデリバティブによるリスク移転が大量に行われていて、そのデリバティブを裏付けとしたCDOが、世の中に相当出回っていることだ。サブプライムの価格自体はこれまでにかなり下がっているので、これ以上大きな影響は出ないだろう。また、ABXと呼ばれているサブプライムRMBSのインデックスがあるが、これについても損失がかなり表に出ていることを勘案すると、将来発生する可能性のあるものに関しては、既にほぼ見えつつある。

 後は各金融機関がどこまで実際にこの損を開示するのかということだ。真っ当な金融機関であれば、きちんと時価評価をするであろうから、今後3カ月〜半年の間には、すべてのウミが出尽くすといえるだろう。しかし、中小の金融機関がどこまで損を開示できるかは今ひとつ不透明だ。

――ベアー・スターンズの実質破たんについては…。

 ベアー・スターンズの破たんのきっかけになったのは、カーライルが運用していたオランダ上場のファンドだ。そのファンドの中身は、アメリカの政府の保証とも言える商品で、住宅ローンの証券化だった。

 確か、米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)だ。

 そう。ファニーメイと米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が保証しているCMOという特殊な商品で、信用度としては問題が無いにもかかわらず、過度な信用収縮が起こったために値段が下がった。極端な話、米国債以外は買いたくないというような市場環境の下、どれだけ信用度の高い証券を持っていても、ベアー・スターンズの資金調達には不充分だろうという連想が働いた。

 このため、ベアー・スターンズの破たん懸念とそれに伴うJPモルガンによる買収価格に関しては、実態の無い評価損を反映したに過ぎないという意見もある。実態の無いというのは、損失が最終的に顕在化する可能性が極めて低いという意味だ。それにしても、価格というのは需給関係でしかなく、需給関係というのは心理学の世界でもある。つまり、今後どのように展開するのかは誰にも分からず、疑心暗鬼につながりやすい。

 ファニーメイやフレディマックが関与しているCMOなどの商品に関しては、ABSのCDOで見られたスーパーシニアといわれるものに近いというか、格付けが高いうえにそれほど複雑に見えない商品なので、かなりの額の証券が発行され、投資家に保有されている。その大量に出回っているものが、需給関係だけで値段が下がるということは、可能性の世界ではなく『蓋然性』の世界に入っており、今後の焦点といえよう。

――サブプライム以外に今後火種になると思われるのは…。

 オルタナティブA、通称オルトAと言われている住宅ローンのABSが火種といえば火種だ。

 それと、今の米国のCMBSの状況は、サブプライムが騒がれ始めた時と似ている。というのも、融資の条件がどんどん緩くなっているにも関わらず、余程のことがなければ心配ないと言われている状況が、既に1年半くらい続いている。基本的にはサブプライムと同じことが起きていて、なんだか怪しいけれど大丈夫だろうと言っているうちに、ズドーンと落とし穴に落ちるなんてことがあるかも知れない。また、CMBSについては、格付会社も、融資条件を緩くしているために今後悪くなる可能性はあるが、それほどひどくはならないと考えているようだ。

 その一方でCMBXと呼ばれる米国のCMBSのインデックスについては、既にかなり下がり始めている。4月初めに発表されたUBSやドイツ銀行の評価損にも多少反映されているようだが、今後、さらにCMBS関連の損失が広がる可能性は高いだろう。

 海外のレバレッジドローンに関しては、さすがに底を打ったであろうと言われているが、多くの金融機関は昨年末の時点で100に対し95程度までしか評価を下げていない。しかし、この3カ月間でさらに10%ぐらい値下がりしているので、まだまだ予断を許さないというのが実情ではないか。余程のことが無い限り、大量にデフォルトが発生するというシナリオは考えにくいが、3月から6月にかけて、各金融機関がさらに評価損を出してくることを考えると、そこから生じる心理的な需給関係によって値段が下がるというリスクは念頭に入れておく必要がある。

――世界的な損失の規模は、日本のバブル崩壊と同じぐらいとも言われてきた…。

 Gサックスのリサーチで、今後、欧米の金融機関が120兆円に上る損失を計上するのではと言われるなど、ここにきて大きな数字が飛び交っている。

 米国の投資銀行の損失として出ている大きな数字の根拠は、会計上のレベル3と言われている部分について、これまでどれくらい損を出しているかということだ。正直なところ、投資銀行が何かを積極的に隠しているとは考えにくい。リーマンやベアー・スターンズなど、市場で話題になりがちな銘柄についても同様のことがいえる。

 年初のこの座談会では、今年はトリガーが入っているCDOなどを抱えているAIGや、スーパーシニアを持っている大きな金融機関が危ないという話をしたが、おおむね予想通りの展開だ。

 しかし、ファニーメイやフレディマックの決算を見ると、まだまだ評価損の開示が甘いなと感じる。1日のUBSの決算でも、やはり12月の決算では出し切れてなかった、ということがはっきりした。

――景気が悪くなれば、資産価格はその分下落するため、損の規模は現在拡大中といったところだろう。

 今後、想像以上の莫大な評価損が出るとしたら、先ほどの『蓋然性』が高まるか。

 そうだ。評価損というのは、心理的にせよマーケットが崩れれば出る性質のものであるゆえ怖いといえる。みんなが疑心暗鬼になって、売りまくって評価が下がれば、300兆円なんていうとんでもない数字も出てくる。

 このため、各金融機関にどのくらいのエクスポージャーがあって、どのくらい評価損が出てくるのかは引き続き注視すべきだ。今までのサブプライム、これからのオルトA、CMBS、レバレッジドローン、これらだけを見てみても、まだまだ出尽くしてはいないと思うが、今後3〜4カ月の間に出尽くしてしまうと仮定すると、不安要素は心理的なものからマーケットの値段が下がることだけだ。

 その一方で、今出てくる損の幾分かは、実現損とならずにいずれ戻ってくるが、マーケットがそのことに気がつくまでに、さらに半年くらいはかかるだろう。

――日本のバブル崩壊の時は、プライムローンまで被害が広がったといえるが、米国についてはどうか…。

 プライムローンについては直接の関係は無いが、間接的な影響は免れないだろう。と言うのは、住宅価格が下がるので、本来だったら家を売ればお金が返せた人、あるいは借り換えればお金が返せた人が、それらをできなくなる。加えて、米国の景気後退により収入減の影響も出てくる。

 それでも、普通に働いている人は、自分の収入に見合った家を買って住むものであるから、プライムのマーケットが極端に崩れることはないだろう。

 ファニーメイとフレディマックが潰れない限り、プライムの市場にまで被害が及ぶことは無いということか。米の景気後退を考えると、少し楽観的過ぎるかな…。

――現時点では米銀などには公的資金の注入はされていないが、今後はあり得るのか…。

 公的資金の注入はスピードが重要だ。日本の場合に、なぜ公的資金が必要だったかというと、ダラダラと危機にフタをして根本的な解決を引き延ばす体質が国にも銀行にもあった。それに対して米国のすごいところは、出せる損はすべて出せという体質であり、それにより透明性が確保されたのであれば援助をしようという人がいることだ。

 公的資金を入れなければ損切りできないというシナリオは米国にもあるだろうが、やはり建国の精神として公的資金は避けたいという思いの方が強いのではないか。

 民間のことは民間でどうにかしろというわけだ。

 日本で15年かけて起こったことが、米国では1年で起きている。その処理スピードが、米国の最大の強みだ。

 自分たちでウミを出そうとするし、周りも出させる。そういった自主的な姿勢があるから、公的資金を入れるよりも民間同士の資金注入のほうが、早期に資本の充実が図れると言えるのではないか。

 当時の日本の金融機関は、時価評価をせずに、適切なタイミングで適切なディスクローズをしなかったから、海外からのフォローもないまま潰れていった。

 国富(ソブリン・ウェルス)ファンドとして米国の金融機関に出資している中には、アラブ諸国、つまり、イスラエルと敵対している国もある。原則として親イスラエルである米国の金融機関が、いわば敵対している国々の政府系ファンドからどんどんお金を受け入れるあたり、あの国の度量の広さを感じずにはいられない。

――一方で、大統領選を控え、公的資金の注入を含めた政府の対応が遅れるのではないかとも懸念されている…。

 大統領選に関しては、債務者、つまり個人をいかに助けてあげるかということに焦点が当たっている。しかし、債務者を助けたところで、世界の金融システムに安定は訪れない。債務者の救済が巡り巡って経済の安定に寄与することはあっても、根本的な解決にはつながらない。

 今、米国で起きていることを見ると、行き過ぎの是正という気がする。今まで誰にでも貸していたものを少し絞っていったら、適正よりも厳しくなってしまったということに過ぎない。もちろん、銀行同士がお金を貸さないというのは大変なことではあるが、とは言っても、FRBのスピーディーな対応を見る限り、まぁ大丈夫だろうというのが正直な感想だ。

――日本の金融機関についてはどう見ているか…。

 日本の金融機関については、想定内というかそれほど大きな損失は出ていないという印象だ。

 いや、まだまだ油断はできない。この3月決算でびっくりするような数字が出てくるという見方もある。

 今のところは合計で5000億円くらいだが。

 しかし、昨年12月までの第3四半期までの決算を見ると、みずほ銀はモノラインによる評価損をかなり出している。三井住友銀も同様で、多少は出しているが、この1―3月で、フィジックというモノラインの格付けがAAAからBBに下がっているし、レバレッジドローンの暴落も大きい。つまり、レバレッジドローンを裏付けにした証券化商品も危ない。とにかく、この3月決算では、海外の金融商品がらみで相当な損を出しているはずだ。

 下手をすると、数兆円規模まで膨らむということか。

 可能性は否定できない。特にこれまでの損の出し方というのは、海外がらみの損をすべて出しているわけではなくて、サブプライム系の評価損を出しているに過ぎない。オルトAに関しては多少出しているかも知れないが、プライムの住宅ローンなどについては出していない。また、株の含み益もない。国債を持っていればまだ救われたものの、金利が上がると思っていたため、デュレーションをかなり短くしていた節がある。三井住友銀に限ってはうまく運用しているという話も聞くが、それにしても債券の含み益はたかが知れている。赤字決算とまではいかなくとも、海外がらみの損失は少なくはないだろう。

 滝野川信金のように小さな金融機関では、かなりの打撃を受けるところも出てくるかも知れないな。

 スーパーシニアの話と同じで、「格付けが高いから安全」ということを理由に多額の投資を行っていたものの、値段がこの3カ月で急速に下がっているので、真剣に評価損を出したら相当大変なことになる。先般の中間決算を見てみると、サブプライムに関係なく、時価評価が義務づけられていないものも多いので、正確な評価損は出ていない。それゆえに、この3月決算にはかなり注目している。

――マーケットで個々の商品について多額の評価損が発生する蓋然性が高まっているが、それが『合成の誤謬』となって、大恐慌の方に振れれば、大変なことになる。とにかく、サブプライムは一息つくだろうが、今後もマーケットから目が離せないということだけは変わらないな。