日本格付研究所 専務取締役 金崎 嵩 氏

日本格付研究所 専務取締役 金崎 嵩 氏

組織の独立性、公正性を維持



――先般のG7声明で、金融安定化フォーラム(FSF)から格付会社に対する要請が明らかになった…。

金崎 FSFの報告と併行して、現在、証券監督者国際機構(IOSCO)が行動規範を見直している。先日、われわれもIOSCOのパブコメとして意見を提出したところだ。これまでの行動規範をさらに現状の混乱に合わせて厳格化していくというイメージで、この夏ごろまでにはまとまる見通し。今回の行動規範見直しの背景には、サブプライム問題に端を発した金融市場の混乱があるため、基本はストラクチャード・ファイナンス(SF)に絡んだ内容になっている。このため、日本の格付会社としては、それ程極端に行動規範を変える必要があるのかという問題意識もあるが、要求されていることについては、協力していかねばならないと考えている。大きくは、利益相反問題と説明責任の問題の2つが柱といえるだろう。

――SF商品に関しては格付符号を変えるべきとの要求もあった…。

金崎 格付会社としては、別体系の格付符号を付けるのは決して難しいことではないが、投資家サイドはかなり混乱するのではないか。過去の格付けとの整合性という点でかなり困るだろうから、格付符号の変更については、ほとんどの投資家が反対であろう。そもそもどんな商品であれ、信用リスクを格付けしているという部分は同じだ。ただ、これはSFの格付けだということが分かるように、商品別の違いを示す表示方法が無いわけではない。例えば格付符号の前か後ろに「S」を付けるといったことになろうが、投資家からすれば、普通のコーポレート格付けとSF商品の格付けは明らかに違うため、現状でも見れば分かる。われわれは、投資家に対する情報の提供者なので、投資家がそういったことを希望するのであれば、もちろん応えていくが、投資家目線で考えると、現状の基本的な符号を変えるということにはならないのではないか。

――説明責任を強化すべきということに対する格付会社の受け止め方は…。

金崎 このたびのサブプライム問題では、投資家の多くがそれらの中身をきちんと把握していたわけではなく、AAAという格付けに対する信頼性が非常に高かったということが顕在化した格好になった。一方で、結局のところ、アレンジャーも格付会社も裏付資産の情報を正確に把握していなかったということだろう。RMBSのような一次証券化商品であれば分かり易いものの、CDOスクエアードやキュービックのように証券化の証券化といった商品まで進んでしまうと裏付資産の情報が不透明になりやすい。特に06年以降に組成された一部のサブプライムローンに関しては、格付会社もアレンジャーも、裏付資産の分析が不十分だったとされている。金融工学に依存しすぎて市場や商品そのものが複雑化したばかりに、本来の信用リスクが見えなくなってしまったとも言える。

――日本の格付会社では証券化の証券化は扱っていない…。

金崎 われわれもCDOは扱っているが、いわゆる一次CDOでシンプルなものだ。米国では運用ニーズの高まりから、二次、三次と証券化が進んでいたわけだが、住宅バブルの崩壊で結果としてその高い格付けが短期にかつ大幅に引き下げられ、証券化格付けに対する疑問が広がった。

――その点で、格付会社が利益相反を行ったという指摘もある…。

金崎 格付会社というのは、ある程度パブリックなものであると考えている。それゆえに、営利的には節度が必要だ。しかし、残念ながら外資系の格付会社では、コーポレートよりも証券化商品等に格付けが傾斜し過ぎの傾向がある。それが高収益の背景であれば、利益相反かどうかは別にして、格付会社としての事業バランス面で違和感を覚える。サブプライムで問題になった証券化商品では、通常、格付けが高いとクーポンは低くなるにも関わらず、格付け、クーポン共に高いものもあったという。この点から見ても、格付会社など当事者にリスク認識が不足していたことは否定できない。

――格付けを過信する背景には指定格付機関の制度も大きいと言われているが…。

金崎 格付会社の公共財的な性格と近時のプレゼンスの高まりを考えると制度的な資格要件の必要性は増していると思う。仮に、誰でも格付けできるようになったら、格付けの存在意義がなくなってしまうと考えている。われわれ格付会社は発行体と投資家との間の情報の非対称性を埋める役割を持っているわけで、専門性の高い資源と実績が必要である。そうした要件を満たさない人たちが格付けを行ったら、市場は混乱する。格付けの死を意味すると言っても過言ではない。格付けというのはそれ程営利面で妙味があるものではないし、また誰でもできるという種類のものではない。競争原理による格付け品質の向上は必要だが、格付会社に対するある種の制度的なチェックも必要だ。

――これからの格付会社に求められることは…。

金崎 原点に戻ることだろう。当社としては、原点を見失わないよう努力しているつもりだが、業界全体を見ると、原点に戻って謙虚になるべきだと感じることがある。格付けは、信用力を評価するのだから、その範囲を拡大し過ぎてはいけない。信用リスクをはじめ、さまざまなものを格付けに入れるといった流れがあるが、何でもできるわけではない。反対に何でもできたら、それは格付けではなくなってしまう。格付けの体系が過度に複雑化すれば、投資家が混乱するだけだ。シンプルにして、さらに言えば、信用リスクが把握できないものについては格付けすべきではない。もちろん、企業として利益を追求するのは当然のことであるが、格付会社というのは、ある意味そういった立場にはなく、公共性を伴っていると考えている。だからこそ、あまり営利を追求するような方向に流れると、どうしても格付けが甘くなって、それこそ利益相反が生まれやすくなる。

――営利を求め過ぎると格付けの品質が落ちてくると…。

金崎 そう、過度に営利を求められないよう企業としての独立性を保つことも必要だ。特定の企業が格付会社の株を保有していても、資本と経営を分離すれば問題はないが、それができていなければおかしなことにもなりかねない。このため、当社は、金融機関一社当たりの持ち株比率も極力低くして、ガバナンスの面からも独立性、公正性を保持するよう努めている。歩みは遅くとも、原点を見失わずに一歩一歩前進していく。それが、市場や投資家からの信頼向上につながる近道だと考えている。