長島・大野・常松法律事務所 弁護士 南 繁樹 氏

長島・大野・常松法律事務所 弁護士 南 繁樹 氏

企業のあるべき論問われるM&A



――三角合併が解禁されて1年余り経ち、株主総会でもM&Aがらみの議案が採り上げられるようになった…。

 株主総会の傾向としては、一昨年は会社法施行に伴う定款の変更等が多数あり、一昨年から昨年を通じて、敵対的買収に対する防衛策がらみの議案がかなり増えてきた。それらが一通り落ち着いてきて、今年はそれ程大きな動きはないのではないかという印象を持っている。その理由のひとつとしては、会社の方でも配当性向を高めるなど、株主に目を向けた経営をする傾向が出てきていることが挙げられる。防衛策に関しても、企業年金連合会による議決権行使基準などが明確化されたうえに、東証への事前相談が確立してきていることもあって、一般株主や機関投資家が受け入れやすい防衛策を設計するようになってきているといえる。会社側も、事前に反対の芽を摘むというか、あらかじめ株主の承認が得られるよう、議決権行使助言機関に説明を行うなど用意周到になっている部分がある。もっとも、5月29日にアデランスの取締役選任議案が、社外取締役を除いて否決されたことには驚いた。

――株主が納得しやすい防衛策とは…。

 顕著な例としては、ブルドックソースで採用された差別的行使条件付きの新株予約権について企業年金連合会が反対している例がある。これは、敵対的株主に対し金銭的な賠償をするという形の防衛策が最高裁では適法であると認められたわけだが、それに対し企業年金連合会は、乱用的買収を誘発する恐れもあるとして反対の意向を明確にしたため、同様の設計の防衛策は姿を消すようになった。一方で、買収者に金銭を払うようにはなっていないが、損害を与えないように工夫された設計の防衛策が出てきている。丸三証券の防衛策がその例だが、新株予約権の行使が認められない株主であっても、株式を売却したときは、売却した株式数に相当する範囲内で新株予約権の行使を認めている。今後はそういった微調整を行いながら、最高裁の判断を念頭に置きながら、企業年金連合会等の機関投資家の懸念にも対応した形での防衛策が工夫されてくるのではないかと思われる。

――M&A防衛策の背景には、企業は誰のものだという考え方があると思われるが、日本の現状を踏まえ、その点についてはどういった意見をお持ちか…。

 資本主義というものがアメリカでも少し行き過ぎになっているのではという声も一部聞かれるが、大局的にみると、株主に対する利益配分と労働者に対する配分が、それぞれ適正なレベルかどうかということだろう。日本では、労働者に対する配分が比較的高かったとの見方もある。従業員から生え抜きの人間が経営者になるという文化的な背景も関係していたように思われる。他方で株主としての機関投資家、特に年金というのが重要な地位を占めるようになった。これは、高齢化社会が進行するにしたがって、年金ファンドが退職者の生活を守るという点で、社会的にも重要視されるようになってきたからだ。このようなことを背景に、現在は、資本分配率が高くなる傾向にあると思われるが、それが行き過ぎていないかが政治的な問題とされている。労働と資本との間で、また長期的経営の安定と現在の株主への利益還元との間で、どのようなバランスで利益を配分するのが適切かということを模索する過程にあるのでないか。

――現在、JパワーとTCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド)の動向が注目されているが、フランスの電力会社などは政府が黄金株を持つことで、買収防衛策を採っている…。

 日本でも国際石油開発(現国際石油開発帝石ホールディングス株式会社)は黄金株を採用していて、経済産業大臣が黄金株を一株持っている。Jパワーにおいても同様の措置が可能であったが、敢えてしなかったという経緯がある。今後、長い目で見れば、まだまだ民営化されていく分野はある。その時に黄金株を導入するかどうか、また適切な資本構成はどうであるかということについて、もっと議論がされてしかるべきだといえよう。

――日本でもM&A慣行が根付きつつあるなか、今後見直すべきところは…。

 ライブドア、村上ファンドという時代を経て、王子製紙の北越製紙に対する買収提案があったときに、また新しい時代が始まるのではと言われていたが、実際にはその後、敵対的な買収の試みというのはそれ程多くない。他方においては、株の持ち合いが進行し、日本市場が外国人投資家にとって魅力が薄れており、将来的には資金が中国・インド等の他の市場へ流れていくのではないかとも言われている。そういったなかで、株主への利益還元がどのくらいであれば適正なのか、業績が振るわない企業に対して株主がどのようにプレッシャーをかけるべきなのかという文脈において、敵対的買収というのが、どの限度であれば許容されるのかが議論されていくのではないか。高齢化社会は必ず進行していくので、年金運用が国民の生活を支える意味でより重要になってくる。株式市場はそれを支えるとても大きな市場といえ、資本効率の向上というのはどうしても避けられない課題ではないかと考えている。

――M&Aの法整備で今後変えていかなければならないのは…。

 防衛策の適法性の基準は非常にさまざまな利益が絡むため、とても繊細な作業になる。買収をする側と防衛する側の意見が真っ向からぶつかることを勘案すると、妥当な線をあらかじめ合意するということは簡単ではない。そうなると、いずれ司法判断を待たなくてはならず、細かい事案に応じた判断基準というのが徐々に出てくるのではないか。

――資本同士の戦いになった時には資本の大きいほうが有利であるから、日本企業も資本を大きくしなければならないという見方もある…。

 現在も買収合戦を行っている鉄鉱石等の資源メジャーが、買収による巨大化で交渉力を強めている。そのため、日本の鉄鋼メーカーなども原料の大幅な値上げを呑まされている。こういった傾向が続けば、日本という国は買いたいモノを買えない、資源が入ってこない、食料が手に入らないというようなことにも成りかねないので、日本でも大手に対する交渉力を持つような企業連合を創っていかなければいけないという問題はある。例えば、日本の鉄鋼メーカーが統合して交渉力を強めなければ、復活した収益力が低下してしまうかもしれない。そのためにも積極的にM&Aを進めていかなければ駄目だという意見もある。市場が全世界へと広がるなか、労働と資本とのバランスを含め、企業のあり方が改めて問われているといえよう。