サコムバンク証券 社長 グエン・ホー・ナム 氏

サコムバンク証券 社長 グエン・ホー・ナム 氏

ベトナム経済の低迷は一時期なもの



――日本の投資家に期待するところは…。

ナム ベトナムと日本との間には長年にわたるビジネス関係がある。10年前からベトナムは多額の政府開発援助(ODA)ローンを日本から受けている。我々はこれら資金を効果的に使い、数多くの工場、病院など、インフラ作りに役立ててきた。また、ベトナムの証券取引所は8年前にできた。しかし、日本からの投資はまだ少ない。ODAをはじめとした従来の日本からの投資活動を基礎として、今後は証券市場へも多くの投資が行われていくことを望んでいる。日本人はここ数年、中国の投資に関心を向けてきたが、チャイナ・プラス1の選択肢、日本の投資先としてベトナムに関心を向けて欲しい。

――日本からの証券投資の現状は…。

ナム ベトナムには約35万の口座があるが日本人の口座はまだ、わずか2000しかない。今後5年の間に、これを10万口座に増やしたい。決して無理な数字ではない。なぜなら、これまで海外からの直接投資で日本はナンバー1だった。間接投資である株投資が増えないわけはない。ベトナム株式市場の魅力を分かってもらえれば、日本の投資家は長い間にわたり投資する投資家になってくれる筈だ。

――現在のベトナム株はかなり下落している…。

ナム 株価はピーク時の三分の一に下落した。その結果、非常に魅力的な市場になっている。ベトナムのマクロ経済は大変難しい時期に直面している。しかし、これは一時的なものだ。長期的視野に立てば、ベトナム経済はまだまだ可能性を秘めている。まだまだ成長の余地がある。ゆえに、ベトナム株式市場は長い目で見れば良いモメンタムを秘める。ベトナム政府は今、国有企業民営化の最終局面に入ったため、機関投資家、個人投資家により多くの投資の機会を与える政策をとっている。我々はすでに国有企業の民営化を経たロシアおよび、その周辺国の前例に習っている。

――ベトナムは通貨危機だという一部レポートもあるが…。

ナム その分析は間違っており、3つの点を強調しておきたい。まずはインフレ。特に今年のインフレ上昇率は高い。預金金利を上げてもコントロールできないので経済は今年も来年も安定しない。が良く見てみると、かなり違った絵が見えてくるはずだ。ベトナムは2007年、世界貿易機関(WTO)に加盟した。世界の標準にベトナムが今入ってきたところだ。WTO加盟前は外の市場と比較して、すべての物価が安かった。数年前にベトナムに来たことがあるのなら、他国と比較して物の価格が安かったのを覚えているだろう。WTOに加盟したことで物価は世界の標準レベルに合わせ引き上げられることになった。第1に、米を含む食料価格。次に石油価格。2008年の消費者物価指数(CPI)の上昇率が16%と予測されているが、石油はCPIの10%を構成する。米価はCPIの43%を構成する。今年度、石油は約50%増となり、米価は100%上昇した。結果、ベトナムのインフレ率は上昇した。しかし、ベトナムが石油と米を輸出している点を忘れてはならない。我々は毎年2000万トンの原油と300万トンの米を輸出している。WTO加盟前、原油価格や米価がベトナム国内で問題になったことはない。

――WTO加盟がインフレの要因の一つだと…。

ナム WTO加盟のため、グローバル経済に統合される過程での調整が行われているが、これは過渡期の、一回だけのものだ。その後は安定する。この点、米価と原油価格を除いたコアCPIの上昇率は10〜11%だ。預金金利は14%で、コアCPIより3%高い金利だ。長い間にインフレは収まる。今年のインフレ率は高くなるかもしれないが、長い目で見れば、インフレは沈静化する。ベトナムにとり問題とはならないはずだ。

――概に実質金利は高くなっていると…。

ナム 第2に指摘されているのは為替の問題だ。1−5月期のベトナムの貿易赤字は140億ドルだった。年間で赤字額は300億ドルぐらいまで増える。一方で外貨準備は200億ドル程度だから、これは相場のプレッシャーになる。だからベトナムが通貨危機というのが彼らのロジックだ。しかし、我々の分析によると、ベトナムの貿易赤字は最初の5カ月で140億ドルとなったが、内30%は機械設備だ。これは将来への投資だ。機械設備の8割は外国企業から輸入している。海外直接投資(FDI)によって集まったお金が外に向かっている。昨年のFDIを見ると、200億ドルが海外から入ってきた。ナイキ、インテルといったビックネームがベトナムに進出してきている。彼らはベトナムに工場を建て、機械設備を輸入したりしている。輸入は確かに増えているが、それはFDIによってまかなわれている。

――貿易赤字は設備投資が主因だと…。

ナム ベトナムは原油精製所をズンクアットとギソンの2箇所で建設、計画している。これができれば、ベトナムは世界的な原油価格高騰に影響されずに済む。最初の精製所が2009年の第1四半期に、2つ目の精製所も2010年の第4四半期には操業を開始する。ベトナムは精製した石油を生産、販売することができるようになる。今、ベトナムの輸出で一番多いのが原油で、輸入で一番多いのが精製油という矛盾が解消される。今年、政府はたくさんの機械設備を石油精製所建設のために輸入しなければならない。輸入額が押し上げられる。しかし、そのお金ですら政府開発援助(ODA)で賄われている。今年の貿易赤字は200億から250億ドルの巨額になるだろう。ほとんどが機械設備のためのものだ。そのお金は長期のODAとFDIで賄われている。現在、1月から5月の国際収支は黒字になっている。144億ドルの貿易赤字を計上したが、10億ドルの国際収支黒字となった。よって、外貨準備には何の影響もなかった。我々はドンが3%程度安くなると見ているが、それはあくまで輸出を奨励するための政府の方針に過ぎない。

――貿易赤字は長くは続かないと…。

ナム 3つ目の問題点として、他国の分析レポートがベトナムの問題点して挙げるのは、我々の金融システムだ。昨年は過剰投機で不動産の価格が高騰した。銀行の貸し出しも増えた。結果、金融システムが脅かされた。しかし、我々の現状を1997年の通貨危機の被害を受けたタイやマレーシアと比べると、絵(全体像)はまったく異なってくる。タイ、マレーシア、インドネシアは通貨危機までの10年間、貸し出しは増え続けた。確かにベトナムの貸し出しも増えているが05〜07年の3年間の成長だ。アジア通貨危機前、1986年から97年までの10年間、タイ、マレーシア、インドネシアの不動産市場は拡大してきた。過熱しているといわれるが、ベトナムの銀行の不動産関連の貸し出しは全体の10%に過ぎない。加えて、ベトナムは貿易赤字を埋め合わせるための、海外からの短期の借り入れを一度もしたことがない。海外債務は現在GDP比で7%しかない。1997年のアジア通貨危機時、タイはGDP比で対外債務は26%もあった。確かに現在、ベトナムの経済は難しい状況に直面している。当然、リストラも必要だろう。より効率性、透明性を持つことも求められるだろう。だからといって、ベトナムが通貨危機を迎えるとは思っていない。

――ベトナムは通貨危機にはならないと…。

ナム これらベトナムが通貨危機だと指摘するエコノミスト達が市場の不安を煽り、人々が過剰反応するから、株価を本来あるべき適正価格よりもさらに、深く押し下げられる。この3つを考慮すれば、今年の経済状況が良くなくとも、来年以降、経済は安定し、株価は、長期投資の観点から見ても安定し成長し続けるだろう。

――ということはベトナムの株式市場は今年が買い場ということか…。

ナム その通り。借金でなく自分のお金を入れるのだったら、今後2〜3年はとても魅力的だ。普通の投資家は株価が上昇している時に高いお金を出して買い、株価が下がると売る。数少ない、賢明な投資家のみが市場が底の時が買い場で、上昇した時が売り場だということを理解している。投資家はより冷静な判断をすべきだ。株価が上昇する時はより貪欲となり、株価が下がると恐怖心にさいなまされる。そういう心理になるから多くの投資家が成功しない。

――ベトナム証券業界の再編と御社の生き残り戦略は…。

ナム 投資家だけでなく、ベトナム国内の証券会社も生き残りを試される厳しい時代を迎える。現在、国内には91の証券会社があるが、内60社ぐらいは倒産するだろう。わが社はベトナム国内の過度の競争に勝ち抜くだけでなく、グローバルに通用する会社となるべく、会計監査も世界標準を満たすよう心がけている。我々は会計監査を世界四大監査法人の一つ、プライスウォターハウスクーパスに依頼している。ベトナム国内の証券会社で四大監査法人に自社の会計監査を依頼しているのはわが社だけだ。透明性、ディスクロージャーの維持に懸命に努めている。

――最後に、日本の証券会社との業務提携の可能性について聞きたい…。

ナム サコムバンクはベトナムを代表する投資銀行の一つだ。我々は日本のパートナーと働くための、あらゆる機会を開放している。投資銀行であろうと、ファンドマネジャーであろうと、証券会社であるに関係なく、日本の投資家とベトナム市場との間のギャップに橋をかけたい。われわれはベトナム企業のIPOに投資したい人たち向けに、アドバイザリー・サービスを提供することもできる。協力関係を構築し、ウィンウィンの関係を作ることが我々の基本原則になっている。

――サイゴン証券は大和証券と業務提携をしている。御社は…。

ナム サコムバンク証券はサコムバンク銀行の100%子会社だ。しかし、早ければ来年、遅くとも2010年にはわが社を上場させる予定だ。長期にわたり協力できる、日本のパートナーを今探している。我々は利益のみを求めているのではない。株式市場での経験などをパートナーとして提供してくれるところを求めている。長期にわたる関係を持続し、双方に価値をもたらすパートナーシップを構築してゆきたい。我々も日本の証券会社にとり、価値のあるものを提供できる。一方的な関係でなく、双方が恩恵を被れる関係を作りたい。