日本アセアンセンター 事務総長 赤尾 信敏 氏

日本アセアンセンター 事務総長 赤尾 信敏 氏

ASEANの架け橋としてさらに貢献



――日本アセアンセンターの設立の経緯は…。

赤尾 1977年に福田赳夫総理がマニラで、日本とASEANとの「対等のパートナーシップ」、「心と心のふれあい」など、3原則を揚げた演説を行った。以来このASEAN重視姿勢は、その後の歴代内閣に継承された。このような日本ASEAN関係の重要性にかんがみ、また、それを発展させていく基盤として、日本アセアンセンターは1981年に設立された。正式名称は、「国際機関日本アセアンセンター(東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター)」であり、ASEANから日本への貿易促進ならびに日本からASEANへの投資、観光促進など経済関係の強化に務めている。

――日本とASEANの経済交流の活発化をメインの事業としている…。

赤尾 それに加えて、ASEANの広報活動にも力を入れている。ASEAN各国は、駐日大使館を中心として自国のPR活動を行っているが、10カ国全体、つまりASEAN全体の広報を行うところはない。当センターでは、例えば、日本とASEANとを統計の上から概括的に把握できる資料も発行しており、これはASEANと日本に関する統計資料としては唯一のものとなっている。また、2007年の第10回日本ASEAN首脳会議において、ASEANを始めとする東アジア首脳会議参加国を中心に、今後5年間に毎年6,000人程度の青少年を日本に招く350億円規模の青少年交流計画が安部前総理により発表された。これを受け、当センターも青少年交流を含む日本とASEANの人物交流促進にも積極的に取り組んでいくことになった。制度的にも人物交流、また観光と投資事業の双方向化を新たな活動目的とするため、当センターの設立協定を改正する手続きを進めている。改正協定は3カ国が既に受諾書を寄託し、残る国々も国内手続きを進めており、早ければ年内にも発効する見通しである。

――協定の改正には各国の国会への提出が必要になる…。

赤尾 国によって異なるが、今回の改正には義務的拠出金の分担率の変更が含まれていることもあり、日本の場合は国会での承認が必要である。これまで日本とASEANで9対1だった義務的拠出金が7対1に変更される。設立当初はASEAN5カ国がメンバーだったのが、現在は10カ国になっていることや、ASEAN全体のGDPが1兆ドルを超え、経済的なウエートも変化していることを踏まえ、分担率の変更に至った。

――貿易・投資・観光促進を軸にした具体的な取り組みは…。

赤尾 ASEAN製品の対日輸出促進の一環として、6月11日〜13日に東京ビックサイトで行われた「インテリアライフスタイル」展に出展し、約30社のASEAN企業の製品を紹介した。特別展示コーナーでは、昨年11月から日本とASEAN各国のデザイナーが協力して開発してきたASEANブランド製品の展示も行った。ASEANブランドとは、タイやフィリピンなどの個々のデザインではなく、ASEAN各国が協力してひとつのブランドを開発して売り出そうというものであり、現在、当センターではASEANブランド製品の有望性の調査を行っている。また、当センターの1階と2階に設けられた常設展示場では、ASEAN製品やサービスの紹介、各種イベントを開催している。常に日本人の消費動向や流行に合わせた活動を行うよう心がけており、7月25日まで「ASEANヘルス&ウェルネス展2008」を開催している。同展示会はASEAN各国のスパサービス企業ならびにスパ関連製品等の製造・輸出業者を紹介するもので、日本人の健康志向に注目して2年前から始めた。

――ベトナムやタイをはじめ、ASEAN各国には勢いがある…。

赤尾 シンガポールは日本同様少子化の傾向が強いが、他の国は人口増加率も高く、現在ASEAN10カ国の人口は、5億7,000万人に達している。一人当たりGDPで見ても、シンガポール、ブルネイ、マレーシア及びタイは中国よりも高い。フィリピンやインドネシアは中国を下まわっている。ASEAN全体では、2007年の数字で約2,225ドル。同年の中国の一人当たりGDP(約2,460ドル)と比較しても、それ程大きな差はなく、決して低い数字ではないことが分かる。しかし、10カ国がバラバラのままでは、中国やインドにはかなわない。そのような考えのもと、ASEAN10カ国を「ひとつの市場、ひとつの生産拠点」にするという目標を掲げ、2015年までにASEAN共同市場をつくる計画を進めている。モノ、サービス、投資、カネ、熟年労働者の5つの分野で、障壁のない自由な流通を伴った単一市場、単一生産拠点をつくり、そうすることで競争力を高め、中国やインドとの競争に生き残るのが狙いである。

――ASEAN単一市場をつくって生き残りをかける…。

赤尾 貿易事業におけるデザイン強化も戦略のひとつで、低賃金の大量生産では、中国やインドにはとても勝てない。したがって、もっとデザイン力を向上して中身で勝負しようというわけである。食品についてもASEAN各国のものは安全というイメージが強く、実際、タイの工場などは日本人が品質管理を行っているところが多い。中国の冷凍餃子事件以降、タイから日本への輸入が増えている。ベトナムについても、日本企業が関わっている品質管理については問題ないと言える。また、貿易に関しては、インターネットを使ってASEAN製品や企業をまとめて紹介できるシステムの開発も行っている。

――投資事業においては、どのような取り組みをしているのか…。

赤尾 ASEANの国々には、資本や技術では日本とは比較にならないが、広大な土地や豊富な労働力がある。一方、日本には資本や技術があっても、少子高齢化で若い労働力が不足している。つまり、双方は補完関係にあると言える。中国がそのような関係にあったが、知的財産権の侵害、労賃の高騰、外資誘致策の変更など多くの問題を抱えている。その点、ASEAN諸国については、技術を盗まれるというような心配は少ない。2000年代になって、中国への投資が集中したが、一極集中ではリスクが伴うこともあり、中国ともうひとつ他の国へ投資してリスクを分散する「中国プラス1」政策の重要性が認識されるようになった。そのプラス1の投資先として、タイやベトナムが脚光を浴びたという経緯があるが、最近はフィリピンやインドネシアなどへの関心も高まってきている。現在、ベトナムはブームのピークで、労賃が上がり、工場を建てたくても鉄骨やセメントなどの資材が足りないという状態だ。それを受けて、日本企業が新たに関心を寄せているのが、ベトナム周辺のラオス、カンボジア、ミャンマーである。ラオスには、既に30社程日本企業が進出しているし、カンボジアには日本の会社が工業団地を作っている。今後、ますます進出企業は増えていくだろう。

――日本各地で投資セミナーも開催している…。

赤尾 ASEAN各国から大統領や首相、経済閣僚を招待して、国別に毎年1〜3カ所で投資セミナーを行っている。特にベトナム、タイ、マレーシアのセミナーでは、毎回400〜500人の参加者が集う盛況ぶりだ。カンボジアやラオスへの関心も高く、投資分野での日本の貢献が期待されている。今後も、貿易、投資、観光促進を柱に、ASEANの魅力を最大限にアピールし、日本とASEANの架け橋としてさらなる経済連携に貢献していきたい。