ベトナム国家証券委員会 委員長 ウー・バン 氏

ベトナム国家証券委員会 委員長 ウー・バン 氏

ベトナムは通貨危機にあらず



――ベトナムの株価が下落しているが、この背景をどのように分析するか…。

バン ご承知の通り、ベトナムの株が下落している理由は幾つか挙げられる。第一に、全世界の株価が下落していることが背景にある。とりわけ、ベトナムはWTO(世界貿易機関)に加盟したことによって、世界経済や株式市場の影響を受けるようになった。また、昨年の夏までベトナムの株式市場が過熱し過ぎたため、金融の引き締めが行われたことも挙げられる。昨年4月の時点では、証券投資に貸付できるのは総貸付の3%だったが、これが2%とより厳しくなった。政策実施前の総貸付は30兆ドンだったが、10兆ドン程度にまで下がった。さらに、インフレ抑制のため、金利が引き上げられたことも大きい。

――その結果、平均株価は3分の1以下に下がった…。

バン 加えて、ベトナム人の心理的な要因によるものも大だが、傾向として皆、金を持ちたがる。金の値段が上昇したこともあって、資金が少しずつ他の市場から金市場の方に流れている。一方で、2007年末から2008年年初にかけ、大手企業がIPOを行った。大手銀行、ベトナム外商銀行(VCB)、大手ビール会社などがIPOを実施したので、かなりの資本がIPO市場に流れたことで需給関係も甘くなっている。また、ベトナムの場合はほとんどが個人投資家だ。センチメント(傾向)として、他の人が売ったら自分も売りに走る傾向がある。その結果、かなり割安になっており、額面を割った銘柄も出ている。今が買い時と考えているが、やはり投資家心理の問題があり、なかなか買う人がいない。

――ベトナムは通貨危機にあるとの指摘もあるが…。

バン ベトナムだけでなく、経済危機、困難に直面している国が幾つかあると思う。外国のレポートが「ベトナムは通貨危機にある」と報告しているが、それが正しい指摘とは言えない。彼らは十分な情報に基づいて分析の結論を出している訳ではない。1997年の通貨危機では、短期債務の外貨準備に対する比率が高く、1.7〜2.2倍ぐらいだった。一方、ベトナムへの間接投資のうち、資本を引き上げる可能性がある金額は25億ドルに相当する。それに短期負債を加えても、外貨準備の3分の1に過ぎない。もう一つは2008年の最初の5カ月で、144億ドル相当の貿易赤字を出した。しかし、それは世界的な原料、設備の値上がりによるものと我々は見ている。特に鉄などの原料はこの5カ月間で価格は2007年の倍となった。車とか日常品が値上がりしたが、全体額と見ると影響は限定的だ。貿易赤字の状況も今年末までに改善されると見込んでいる。政府と政府関係の機関が投資のポートフォリオを削減しようとしているところであるからだ。先ほど申し上げた原料などの需要も下がっていくと予想される。また、最初の5カ月間で輸入した原料の中には一年を通し使えるものもあるので、これ以上輸入する必要もなくなる。必要性の低い製品、車などの数を削減する政策を採っている。

――輸出については…。

バン 輸出に関してはいくつかの政策を用い改善を試みている。一つは税に対する改善、第二に信用に対する改善。ベトナムは米をたくさん輸出している。また、原油、石炭もかなり輸出している。今年末までに、これら輸出をさらに推進させたい。結果、貿易赤字も減り、収支のバランスも取れるようになるだろう。今年末まで間接投資は増えることはないが、直接投資は増えるだろう。今年の直接投資の実効額は100億から120億ドルぐらいとなるだろう。1カ月平均で10億ドル規模が実施されると見込んでいる。貿易赤字の問題は、全体的なバランスは取れるようになると思っている。また、懸案のインフレ上昇だが、6月のものは正式な数字は出ていないが、5月と比べて、そう差があるとは思えない。とはいえ、高いインフレ率に我々は深刻な困難に直面していることを認めるしかない。政府および関係当局の協力が必要だと思う。その結果、先ほど触れられたベトナムが通貨危機だとする外国のレポートは十分な情報に基づいたものとはいえないと考えるが、投資家にはかなりのインパクトを与えた。そういうレポートを出している企業にはこちらから接触し事情も説明した。レポートは十分な情報に基づいたものではないと指摘したら彼らも理解してくれた。中長期的に見れば、ベトナム経済は潜在的に秘めたものを持っている。

――ベトナム株式のディスクロージャー、市場の透明性についてはもう少し進める必要性があると思うが…。

バン ご指摘の通り、前首相が始めたディスクロージャーの体制はまだ十分に機能していない。ベトナムの株式市場はまだ生まれたばかりで長い間、計画経済下にあったので、行動を起こすにも様々な制約があり、困難に直面している。ベトナムだけでなく、他の国も同様の悩みを抱えているだろう。私たちの方もディスクロージャー、情報の透明性維持など、様々な努力をしている。ベトナムの企業にとっては嫌なことだろう。なぜなら、今までこれら企業は会計監査もしていなかった。情報の提供もしてこなかった。長い間そうしたことを怠ってきたので証券市場が設立されたからといって一気に変えるのは不可能だ。しかし、6年前と比べると大分改善されたとは思える。ベトナム株式市場が誕生した1年後の2001年、外国企業にも依頼して、株式会社の管理ルールのモデルを作成してもらい、上場企業に適用させてみた。2005年にベトナムで会社法が誕生、コーポレート・ガバナンスという項目が盛り込まれた。2007年にはベトナムに証券法が生まれた。内容については世界銀行、米証券委員会のアドバイスを多少受けた。まだ課題も残っている。情報公開、報告義務といったことはまだ不十分で問題だ。将来的にディスクロージャーの体制をもう少し厳しくしようと思っている。加えて、監査などの実施も促進させたい。ただ、古い証券法の罰則は軽く、不十分だったため、皆、法を犯すことを恐れずにいた。もっと厳しく取り締まろうと思っているので、来年以降、状況は改善されるだろう。

――人材面では…。

バン 証券委員会の懸案は人材が不足していること。監査も技術的に問題を抱える。つい最近、証券委員会直轄の株式市場監査のための委員会を作った。今注目されているのが世界銀行の支援を受け進めている監査システム向上のためのプログラムだ。米国やスイスやルクセンブルクなど他国の支援を受けながら、人材育成の強化を試みている。証券市場の情報のみならず、関連当局、他の部署も含むマクロ経済的な数字も公開する必要があるとみている。

――日本は世界一の金持ちだ。そのお金がベトナム市場に入り活用されるには日本の証券会社の進出や我々のような報道機関のベトナム進出が不可欠だと思うが…。

バン 外国からの投資、特に日本からの投資をいつも高く評価している。外資全額の比重で見ても、日本からの投資がかなり高い比重を占めている。他の国と比較して、ベトナムは外国の間接投資に対する法律規制はかなり緩和されている。ベトナム市場の情報を海外に流すためには皆様、報道機関の協力が不可欠だ。本日のインタビューを高く評価し、また歓迎する。

――証券市場で重要なのは税金面だ。キャピタルゲイン課税を導入すると聞いたが…。

バン 最近、国会で法案が可決された。来年から実施する見込みだが、徴税には二つのやり方がある。一つは取引する際に手数料として徴収する。そして、二つ目が利益に対して課税するキャピタルゲイン課税だ。課税の必要はもちろん認めるが、最初は低いレベルでスタートした方が良いと我々は考えている。外国からベトナムへの送金に対する課税、株取得後の1年保有ルールは概に廃止している。また、ベトナムで様々な海外の(証券)会社のオフィスが置かれている。ベトナムの証券会社にも多分、たくさん投資しているのではないか。その投資分についてはまだ課税していない。企業の法人税は正式に28%から25%に減税した。上場会社、証券会社に対する税金も以前はあったが現在、それらの税金は破棄した。

――キャピタルゲイン課税を少し上げるということだが、現在、ベトナム株式指数が下落している中で上げて大丈夫なのか…。

バン 実は今、2009年の課税率引き上げ実施を考えている。ベトナム財務省が投資家の意見を聞きながら、市場の動きを見ており、その上で正式に実施するかどうか決めたい。

――OTC市場の整備について、何か具体策は…。

バン 長い間にわたり、OTC市場は高いリスクを抱えていた。その問題点も認識している。OTC市場を管理、監視できるようにするための項目も証券法に盛り込んだ。その中の一つの項目はIPOされた会社であろうと、未上場会社であろうと情報の開示を義務づけ、財務面の管理やガバナンスを行わせるようにしている。証券法によって、パブリック・カンパニーはデポジットをベトナムの証券決済機関(BSD)に行わなければならない。上場していないパブリック・カンパニーの取引システムを現在検討中で、恐らく今年7月か8月には実施できるのではないか。新しいシステムが導入されれば、市場全体の透明性、明確性が向上すると期待している。先日、首相がOTC市場に関する新法への新しい指示を出した。我々、証券委員会もプライベートプレイスメントに関する規則も検討している。

――最後にベトナム市場発展の抱負についてお聞かせ願いたい…。

バン 第一に、ベトナムの株式市場は長期的な安定に向けたシステム向上を考えている。2007年年初から証券法が施行されているが、今年から1年間、同法を再検証し、何か新たに加えるべき条項があるかどうかを検討中だ。加えて、技術面。市場全体で用いられている技術は最新のものではない。引き続き、国有企業の株式会社化も実行していかなくてはならない。先般の株式市場全体の下落により、国有企業の株式会社化も減速した。今、市場を支えるのにはどの法、政策が最も適しているか、政府および関連当局が協力しながら模索している。市場全体の再編なども考えている。また、証券取引所は現在、証券委員会の直轄化にあるが、独立させて株式会社化することも考えている。先ほど、ご指摘された情報開示、監督監視の問題も長期的な視野に立ち考えている。今年末までにインフレが抑制され、貿易赤字も減り、外国為替も改善されれば、株式市場も良くなっていくと思っている。現状だけ見れば、外国人投資家はまだベトナムの株を購入する傾向にあると思う。我々は長期にわたりベトナムに投資してくれる外国人投資家を歓迎する。もちろん、現在は株価も下がっているので損失を出した外国の機関投資家も多数いると思う。上場企業の経営がうまくいけば、長期的に見て、利益が得られると思う。

【ベトナム株式市場】

ベトナムには2カ所の証券取引所がある。主要銘柄が上場するホーチミン証券取引所は2000年7月の設立で、08年3月時点の銘柄数は153、時価総額は176億ドル。中小企業中心のハノイ証券取引所は2005年3月設立で、銘柄数129、時価総額61億6000万ドル。外資出資制限は、上場企業一般が49%、銀行30%までとなっている。個人投資家による取引が大部分で、口座数の99%、取引額の70%を占める。ホーチミン証取のVN指数は07年3月に過去最高の1170ポイントに達したが、今年に入り約60%も値を下げ370ポイントを割り、現在はやや回復して約440ポイントとなっている。