夏休み記者座談会

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円売り介入の決別宣言を



――シティグループの決算が発表されたが…。

 4〜6月期の赤字額は前期に比べ減少したが、なお住宅価格が下落している米経済を勘案すると、これで金融不安が収束すると見ている向きは少数派だ。

 これで収束するなら、米当局が金融機関の株の空売りを禁止するような市場介入は必要ない。むしろここで空売りさせて、踏み上げを誘うような作戦を立てるはずだ。空売り禁止の市場介入は米当局の苦しい立場を反映している。

 確かブルームバーグ電だったが、市場原理の信奉者であるポールソン財務長官がとった今回の介入について「塹壕に入った者は誰しも無神論者ではいられない」という諺があるが、「信用不安が起こった時には誰しも自由主義論者ではいられない」という大学教授のコメントを取り上げていた(笑)。

 市場メカニズムは万能ではない。行き過ぎた結果、様々な問題を引き起こすということは過去の資本主義の歴史で経験済みだ。ただ、どこまでが行き過ぎで、どこからが過剰な市場介入なのか振り返ってみないと分からないことが多い。この点、日本の大新聞はかつての日本の金融不安の時に、空売り規制を市場介入といって批判したが、今回の米のケースではまったく批判していない(笑)。

 同様に、日銀の審議委員の欠員は国際的な日本軽視を助長するといった報道がされていたが、それでは3人も欠員が出ている米のFRBはどうなるんだと。つまり、日本の大新聞は日本のことは叩くが、外国政府のことは叩かないといった、自虐的な論調が「日本パッシング」を助長しているのではないか。

 だからというわけでもないだろうが、日本のGDPが昨年10〜12月期と今年の1〜3月期に、2期連続して3〜4%成長を遂げていることを知らない欧米人も多い。もちろん日本のGDPは世界的に発表されているのだが、かつてのように日本に関心が無いから、そうした事実もつい見逃してしまって、未だに日本の成長率は1%前後で停滞していると思い込んでいる。このため、世界の人々が日本経済を見直した時に、再び日本株価や円相場は高くなると思う。

 Bは愛国心が強いな(笑)。確かにそういう面は否めないが、しかし日本の場合は公共セクターの改革がまだ始まったばかりで危ういから、円は積極的には買い難い。国家予算は毎年20兆円もの赤字を垂れ流しているし、巨大な赤字要因である医療と年金の問題はともに解決の途がまだ完全には見えていない。それになによりも社会保険庁や国交省、防衛省に次いで、今度は教員採用でも不正が発覚するなど、公務員の不正が絶えない。そんな国の通貨はとてもじゃないが買えない。

 年金や医療の問題は日本だけの問題ではない。しかし、高い高速道路の通行料や税金など公共セクターの高コストを合理化しなければ、いくら民間企業が合理化しても世界の競争には勝てない。公共セクターの合理化が遅れれば遅れるほど、グローバルな企業は安いコストを求め海外に出てしまい、その結果、日本に残るのは政治家や公務員と負け組や老人だけになってしまう恐れが徐々に強まっている。

 しかし、公務員改革についてもあまり悲観的に見る必要は無いのではないか。数々の不正が明るみに出ているのは、それだけ国民が問題意識を持ってきているためだ。10年以上前であれば、公務員がそんな悪いことをするはずが無いということで片づけられていた。また、民主党が参議院で主導権を握ったことも国民の危機意識を反映している。公務員がだめなのはその監督責任者である与党自民党に能力が無くなってきているからで、自民党に一回冷や飯を食わせて、お灸を据えなければ駄目だという考えを持つ国民が急増している。

――日本人は意識を変えるのに時間が掛かるが、一度変わってしまうと、それこそ手のひらを返した様に過去の価値にこだわらないところがある。どちらかと言えば女性的なのかな(笑)。

 その意味では円相場に対するマスメディアの報道姿勢も早く変えないと。円高に振れる度に、「円高直撃」、「円高で悲鳴」といった見出しが大手新聞を飾る。しかし、いったい何人が直撃されていて、何人が悲鳴を上げているんだと言うことだ。円相場に対するそうした捉え方は、過去のものであり、日本経済の現状とはかなりズレている。今や周知の通り世界各国は新興国を含めて、自国通貨を高くして原油などの原材料高に対抗していく姿勢を鮮明にしている。あの米国のFRBですら外為介入を口にする状況だ。

 確かにマスコミの勉強不足は甚だしい。しかし、だからこそ弊紙が売れるのではないか(笑)。

――おいおい。弊紙だってまだまだ勉強不足のところが山ほどある。しかし、弊紙ではかねてから主張しているが、円安政策からの転換を明確に打ち出さなければ、様々な矛盾は解決しない。巨額な無駄が発生し、しまいには日本経済が破たんしていく危機にもつながる…。

 無駄といえば、国債の海外PRや日本への株式投資の呼びかけはまず無駄だな(笑)。海外の投資家は円の下落は無い、あるいは将来は円高になるという期待があって初めて日本に投資するのであって、何かあるとすぐに円売り介入をして円を安くするという日本への投資は考えられない。よって、まず行うべきは日本政府による円売り介入の決別宣言であり、その象徴である100兆円規模の円売り介入残高の取り崩しだろう。

 いや、国債の海外PRや日本への投資の呼びかけは、単にそうしたことに予算を使いたいだけで、深く考えての事ではない。何故ならば、仮にそうしたPRなどが効果を発揮して円高になってしまい、1ドル=100円を超え90円台になってしまうと、100兆円の外為特会には含み損が生じてしまう。そうなると今度は財務省の責任問題だ。もっとも、財務省が海外の投資家にコミュニケーションを取ることは、市場をあまり知らない彼らにとっては必要な事ではある。

 しかし、ドルのトリプル安懸念のある今の局面で、円売り介入の決別宣言や介入残高の取り崩しを行うのは勇気がいる。それに、既得権益に寄りかかっている経団連の年寄り達が許さないだろうし、米当局も神経をとがらせている。

 とはいえ、そんな中でEUも利上げに踏み切った。また、1日の世界の外為取引は数百兆円規模で、仮に日本政府が毎月1兆円ずつ売却したところでどうってことは無い。そうしたことにおびえて、外為特会の残高を取り崩せないとしたら、それこそ将来の国民に大きなツケを残すことになる。

 私もその考えに賛成だ。FRBには100円台の間はドル売り円買いをするが、100円を下回ったら逆にドルを買い支えるから、そのためにもドルを売らせろと説明すればいい。

 それに、円安政策を採り続けながら金融大国にするという金融庁のスローガンは、これまた矛盾の塊だ。日本の巨額な対外資産を有効活用することが金融大国への道であろうが、円安政策は対外資産を大きく目減りさせる。そうしたことをきちんと考えずに単にスローガンだけ打ち出すのは予算の無駄遣いではないか。

――まあそう怒るな(笑)。そういったスローガンを打ち出せるような意識になってきただけでも前進だ。金融庁の市場オンチも組織を抜本改革しなければ直らないだろうが、その改革の日もだんだんと近づいているという見方も少しは出来るのではないか。