スパークス・グループ社長 阿部 修平 氏

スパークス・グループ社長 阿部 修平 氏

日本の実体経済は堅調



――サブプライムローン問題の影響で世界の株価が大幅に下がった。現在の世界の投資環境をどう見るか…。

阿部 サブプライムローン問題が発生して一年経つ。まだ下がって行く過程にはあっても、下がる角度が緩やかに予想の範囲に収まりつつある。アメリカ経済の底打ちがどれになるかも含めて、今年後半にはかなりはっきりしてくると思う。ただ、これまでの20年の世界経済の構図、形というのはやはり、今後ものすごく大きく変化するのではないか。過去10年で振り返れば、世界のGDP(国内総生産)の総合計は30兆ドルだったが今はそれが60兆ドルになった。10年で倍だ。BRICsを中心とする新興国のGDP比率が半分を占めるまでに成長した。そういう新しい構造、米国が全て主導するということではない形を基盤とした経済にさらに大きく移行して行く時期に入るのではないか。一方で金融市場でいうと、誰かが信用創造をベースにお金を供給していかないと相場は立たない。80年代は日本のバブルがお金の元だったし、90年代から現在まではやはりアメリカが信用を供与していた。ここからは新興国、それから資源を持っている国も、その中に単に資源から得た所得を世界に投資するというだけでなく、自国で信用創造しながらお金を供給して行く役割を果たすことになるのではないか。

――コアの国がいなくなったというイメージか…。

阿部 アメリカ一国をもって世界が寄って立つという時代が終わった。そういう意味で昨年は非常に大きな時代の節目だったと思う。

――アメリカの対応は早い…。

阿部 アメリカの対応は圧倒的に早いし、アメリカがぜんぜん駄目になるということはない。アメリカはアメリカとして、その地位を保っていると思う。一つの国が世界をしょって立つという役回りからはやや肩の荷が重くなりすぎたのではないだろうか

――対応が早いといっても、日本でも経験しているが、資産価格で一度やられると立ち上がりもなかなか難しい…。

阿部 やはり金融機関という私的な企業が最終的に法的に支えられなければならないというところで、手続き的にも世論を形成するという意味でも、必要と思われることが先手、先手で行われるようなことにはなりにくい。

――日本に比べ、アメリカはFRBが素早い対応を取っていろいろとやっているので回復も早いと思うが、アメリカのサブプライムローン問題に対する対応をどう見るか…。

阿部 日本よりは対応が早いし、目標がはっきり定まっている。結局、不動産の価格上昇に支えられた繁栄だったということだ。欧州もしかりだ。日本もまったく同じだった。しかし、日本の失敗をみていても不動産価格が上がっているうちはそれを止める必然性がない。それが高すぎる、低すぎるとはなかなか言えない。それによって経済も良くなっているし、皆がハッピーなのだから。しかし、やはりどこかに限界がくる。経済の歴史というものはこういう事を繰り返すのではないか。実体経済と金融経済のカイ離がこれだけ大きくなると、金融経済として必要なリターンを満たすためにはどこかで必ず価格が変わっているところがなければ帳尻が合わない。90年以降、日本を除く、全部のところが上がって皆がハッピーだった。なかなかそれを止めるというのはその最中は難しい決断だし、止めることはできなかった。

――私も20年以上前の日本のバブルの時、日銀の幹部に対し、土地の値上がりに対応するよう求めたことがある。しかし、「土地と株の価格が上がって困る奴がいるのか」と逆に反論された…。

阿部 景気を良くしようと思ったら、不動産や株の価格に対し、もう少し敏感でないといけない。この1年で日経平均は3割下がっている。約200兆円価値が減って、それはお金を借りる際の信用の元だ。その縮小を一方で許しておいて景気が悪い、悪いというのは筋が違うと思う。

――日本の今の株式、投資環境をどう見るか…。

阿部 状況は何を見ても良くはなっていない。市場の期待レベルも低い。そういう低い期待のレベルに対して、どうかというと、低い期待レベルということを加味しても安過ぎる。これは安いということが呼び水になるレベルだと思う。期待のレベルが上がってくる上昇カーブ以上のカーブで上がっていけば、それが経済を刺激する効果を産むことになる。そこに水を差さないようにすることが政府としては重要になってくるのでは。むしろ、そういう期待を高めて行く政策を打てるといい。

――アメリカで2月に大手証券会社が経営危機になってから、株価が大幅下落したが、あれ以降、値を上げたのは日本株だけだ…。

阿部 日本株は今年に入ってから相対的に良いパフォーマンスを維持している。これは実体経済で見ると相対的に日本が一番良いためだ。企業のバランスシートが傷んでいる度合いも一ケタ違って、日本は少ない。これまで日本はずっと悪かった。欧米は良かったなかで悪化しているのでその角度が大きい。もっと中長期的に言えば、エネルギー効率では日本は圧倒的に高い。インフレに対する対応力が高い。構造的に日本が大幅なインフレになるというリスクはそう高くはない。そういう中で賃金も消費者物価指数も、土地の価格もやっとマイナス圏からプラス圏に上がった。このため、外的な要因でそうなったにしろ、デフレという異常な状態から正常化してきた。

――日本経済にとっては今の世界的なインフレは追い風だ…。

阿部 これまで企業の物の値段、企業物価指数を見ると、10年間近く、ずっとマイナスが続いた。つまり、企業は売値を上げられない。むしろ下げてきた。そういう中で利益は出ているから、その間、利益率は上がっている。利益率が上がってきた一番大きな要因は賃金を圧縮してきたということだ。しかも、ここにきて値段が上がり始めている。これは上がってくるオイルや農産物など資源価格、食料品価格が上がっているのを反映していると思うかもしれないが、実際にそれ以上に値段を上げている。このため、こういうなだらかな、ある一定の速度で上がってゆく場合は企業の収益率もさらに改善して行くと予想される。
また、賃金ももうそんなに下げることができない。逆に、改正パート法、格差解消を目的とした法律の施行で正規雇用が増えている。ボーナスまで全部含めると、賃金は上がっていないのだが、しかし、固定給、給与の部分が上がっている。

――世の中的には増収、減益という見方があるようだが…。

阿部 今は間違いなく減益だ。こういう状態で原材料価格が上昇している間は減益の期待を市場から払拭することは難しい。しかし、なだらかに上昇している限りにおいては増収、増益に転換して行くと思っている。

――日本の経済は2期連続で3%以上の経済成長を達成したと欧州人に話したら驚いていた。回復した日本経済の実態があまり知られていないようだが…。

阿部 大局的に見れば、日本の株価は今が底値だ。世界中の人もそう思っている。それを呼び込む為の十分なイベント、ビジョンがない。しかし、安いということが呼び水だ。ビジネスは毎日営まれる実質的な活動だ。それと比較して価格が安いことは呼び水となる。

――日本の政府は何かあるとすぐ円安にするが、日本の株を買っている外国人はそのたびに損することになる。その一方で、政府が外国人株主を増やすためのキャンペーンを張っているのは矛盾している…。

阿部 自国の通貨が弱くて良いと考えるのは日本ぐらいではないか。欧州のように通貨を強くすることを考えるべきだ。その旗を降ろしてはいけない。一方で、ドルに対して、かなり警戒感が出たようだ。通貨当局同士があまり過度なドル安信仰を刺激するようなことはしないというのは短期的には良いと思うが。

――日本の金融行政に対し、これだけは言っておきたいということは…。

阿部 海外が一番、気にしているのは買収とか、敵対的買収に企業が過度に反応してしまっていることだ。 政府や司法には、企業が投資家に対し敵対的に動くことに対することに過度に理解を示すようなことがないようにはしてもらいたい。

――外から見ると、日本の企業は防衛的と映るのか…。

阿部 そうだと思う。なかなか変われない。島国根性もあるし、会社を自分たちのものとは思ってないとしても、外から干渉されるのが嫌なのだろう。

――アデランスでは社長交代劇があったが…。

阿部 所有している人と執行、託されている人との間に一定の緊張感がなくてはならない。それは一緒にはできない。アデランスが社長が変わってうまくいくかどうかは分からないが、日本の企業のガバナンスにおいても、そういうことが起こりうるんだと世界中の投資家に理解されることが重要だ。

――先日、シンガポールに行ってきた。日本の金融庁はうるさくてかなわん。シンガポールの方が税金(法人所得税は18%)も安く、規制もないので楽だというような意見を現地で聞いてきた…。

阿部 投資に対する日本の税金の問題はあると思う。今の日本の税金の体制、形が海外からの資金流入を阻害している一因であるということは、ある部分については言えると思う。とりわけ法人税を下げないといけない。いろいろな理屈を言っている場合ではない。個人の所得税の方はあまり税金を払っていない人もかなりいることもあって、なかなか上げることができないのだろう。そうなると、消費税を上げなくてはいけない。消費税を上げて法人税を下げるということが政権政党の政策として打ち出されなければいけない。それに賛成か反対かということで民意を問う時期に来ている。しかし、下手すれば、法人税は下げなくていいという人が多いかもしれない。そうなると外国人からは見切りをつけられる可能性もある。

――ヘッジファンドに対する規制についてはどう思うか…。

阿部 われわれもヘッジファンドを運営しているが、基本的には規制をすべきでないと思う。基本的には市場のことについてあまり規制をすべきでないと思っている。資産価格などの上昇が基礎的経済のべースを破壊するようなことにならないようにすべきではあるが、取引自体は基本的に自由が望ましい。例えば、石油の価格一つとっても、石油がいくらぐらいになれば、経済が立ち行かなくなるということを市場というのは分かっていると思う。その価格をつけることができる根幹の経済を破壊するような形にはならない。だが、それによって、変わらなければいけないことを変わるように促す。たとえば、前のように安い価格でいくらでも石油を消費したら、20年後の世界の成長はありえるのか?つまり、上昇した価格に対応すべき経済を構築していくことが政府の仕事であって、価格そのものを抑制すべきではないと思う。

――ヘッジファンド、ある程度開示ぐらいしてもらわないと困るとの意見もあるが…。

阿部 開示がどうなるのかなどの、どういう手続きになるかなどの技術論を抜きにすれば、金融不安を勘案するとある程度の開示は必要だと思う。でも、株主の名前を全部出すということは現実的ではない。