日本証券業協会 特別顧問 渡辺 達郎 氏

日本証券業協会 特別顧問 渡辺 達郎 氏

世界の証券市場の発達に寄与



――証券監督者国際機構(IOSCO)の自主規制機関諮問委員会の議長となられて、2期目だと…。

渡辺 IOSCOは監督上の国際的なルールや原則を決めるところだが、その原則を決める前に、自主規制機関の意見を集合として聞くために作られたのが自主規制機関諮問委員会だ。現在、世界の主要な自主規制機関(協会タイプのものと取引所タイプの双方を含む)64〜5から構成されている。委員会は、例年、年次総会と中間会合の年2回の会合を開催している。会合は世界中から人が集まりいろいろな議論をする場だが、その他にもプロジェクト毎の活動や、IOSCOからの諮問に対して諮問委員会としての意見をまとめて提言するような活動も行っている。そういうことを私一人ですべて行うわけにはいかないので、実際は日本証券業協会(日証協)の国際部が自主規制機関諮問委員会の事務局として動いてくれている。議長を引き受けるにはそういったサポートをしてくれる部隊がないと難しく、特に中間会合の費用は議長持ちとなるため、どこでも出来るわけではない。そのため、今までは主に世界最大の自主規制団体である米国のNASDが議長国となっていたのだが、2年前に初めて日本で議長が任命された。任期は2年で、私は2年前の春に香港の総会で選出されたのだが、今年5月パリの総会で再任された。いろいろと大変な部分はあるが、なんとか頑張っていきたいと思う。

――サブプライムローン問題ではIOSCOが格付けの規制や証券化のリスク管理などに取り組み、機構としての注目度をさらに上げたようだ…。

渡辺 実は、自主規制機関諮問委員会はその作業とも関わっている。IOSCOは業界との対話を望んでおり、何度も話し合いを行っているのだが、われわれはその会合に参加して自主規制機関としての意見を述べている。IOSCOと業界と自主規制機関で話し合いながらサブプライム問題への対策を練り上げてきた。先日、日証協から「証券化商品の販売に関するワーキング・グループ中間報告について」という報告書を出したが、それを作る過程でもわが国が諮問委員会の議長国になっていることはプラスに働いている。というのは、日本のマーケットでは証券化市場は欧米ほど発達していないため、今回のような問題が起こる可能性はまだないが、IOSCOと一緒になって問題を考えることによって、いわゆる「転ばぬ先の杖」的な、早めの対応が出来、安全策を作ることが出来た。

――確かに今回の証券化商品への日証協の対応は早かった。国際機関にどんどん参加するのは必要だ…。

渡辺 ただ、サブプライムローン問題の本質は流動性だ。その流動性という部分に関してはIOSCOでも切り込んでおらず、日本の日証協の新たなスキームでもまだ切り込めていない。本当はその部分に対してもっと切り込んでも良かったのではないかという思いも個人的にはあったが、それはIOSCOでの議論が錯綜していて収れんしていないため、日本だけ先走ってもしょうがないというところがあった。

――日本の場合は、まだ2次加工商品が出ていないため、あまり流動性面の影響はない…。

渡辺 これからそういう商品が発達していくという日本の今の段階においては、最初から規制でガチガチに固めてしまっては良くないという問題意識も働き、流動性については今後さらに検討していく形になっている。

――これからの自主規制機関諮問委員会のテーマは…。

渡辺 今回のように時事トピックスのようなもので監督当局の課題に協力する活動の他に、諮問委員会ではワーキング・グループを作り、独自のプロジェクトも行っている。その一つに「Ahead of The Curve」というものがある。これは「転ばぬ先の杖」という意味で、国際的な場で新しい商品などの議論を進めたり、証券界に発生する新たな問題点についての認識や検討をしていく場となっている。もう一つは、自主規制機関の職員の質の向上のための研修だ。自主規制機関の中には新しい機関もあり、形は出来たが一体何をやればいいのか分からないという状況が多々あるため、研修プログラムを作りそれを実行することにした。今までは教材の中味を議論してきて、人を集めて研修を行うことはなかったのだが、大分充実してきたので、実地に研修を行おうというものだ。FINRAのノウハウをきちんと整理して教材が出来ているので私が見ても大変勉強になる。新興国市場で自主規制機関を立ち上げる時にも非常に助けになるだろう。研修プロジェクトには日本からもお金、人、知恵を出して相当協力をしていて、今年12月にワシントンで行われる中間会合に併せて実施される研修には、日本からも2人ほど講師を出す予定だ。

――新興国市場の育成は世界経済の発展のために不可欠だ…。

渡辺 そして、三つ目は私の代になってから始めたことだが、自主規制機関をタイプ分けすることに取り組んでいる。世界には様々なタイプの自主規制機関がある。例えばアメリカのFINRAのように自主規制だけを行っているところもあれば、日本のように戦略部門と自主規制部門が並存しており、それなりに共存共栄しており、スタッフも業界のニーズがよりよくわかるといったプラス面がある組織もある。さらに、ヨーロッパでは、基本的には業界団体ではあるものの、コード・オブ・コンダクトのようなソフトな自主規制でマーケットを動かしているところも多い。世界銀行ではLDC(後発開発途上国)での証券市場を発展させるに伴い、新たな自主規制機関が必要となった時に、常にNASDを理想としてきたが、果たして本当にそうか?米国のようにものすごく発達した市場であれば、そういったガチガチの規制も必要かもしれないが、それ程ではないところにおいては、むしろ半ば業界団体のような、政府にいろいろな要望をしつつ自分たちで整えていくといったやり方もあるのではないかと考えている。そこで私は、世界にある自主規制機関のタイプ毎のそれぞれのメリット・デメリットを整理し、複数選択肢を作るための作業をしているわけだ。これは、フランスの自主規制機関の会長にチェアマンとなってもらい相当精力的に議論をしている。あと半年か1年くらいでまとまる予定だ。そして、そうしたことを通じて、世界の証券市場の発達に寄与していければと考えている。(了)