富山大学経済学部教授 清家 彰敏 氏

富山大学経済学部教授 清家 彰敏 氏

中国は『ハイブリッド経済』



――北京オリンピックも終わり、マーケットでは中国が近く経済政策を発表するのではないかという期待がある…。

清家 中国では、10月以降来年3月全国人民代表大会(全人代)へ向けて、一連の経済政策が発表される可能性があるだろう。胡錦涛政権は2期目に入り、再選がないことを考えると、2010年上海万博あたりから現在の弱体化したブッシュ政権のような状況が一部出てくるとの予測も聞いている。その時に備えて日本企業なども手を打っておかなくてはならない。江沢民政権時代に比べて現在の中国は、情報が様々な形で公開され、オープンになってきており、主席を降りた後も院政を敷くということは難しいといわれている。また、現政権は60歳代が中心で、その部下にあたる50歳代は文化大革命で学歴がなく弱いため、政策立案能力などで米国などの海外留学組である30〜40歳代に突き上げられており、必然権力基盤は弱くなりがちだという見方もある。

――若い彼らの勢力を抑えるためにも、きちんとした政治的基盤が必要だ…。

清家 中国経済は加速している。東京オリンピックは1964年で大阪万博は1970年、その間は6年だった。そして北京オリンピック2008年、上海万博2010年と考えると、中国の成長は日本よりも3倍早いとも見做せる。これは圧縮成長だ。さて、その後日本では石油ショックが1973年にあった。そうなると中国では2011年に石油ショックか?これは私が中国での講演でよくする話だが、みんな笑う。しかし真顔で聞いている。

――圧縮した成功というものは、崩れやすいものなのかもしれない…。

清家 確かに急成長のひずみはあるだろう。それに対して中国政府でも色々な政策をとっている。それは1960〜70年代の日本の政策によく似ている。現在、北京、上海、広東にある工場を地方に移し、北京、上海、広東は研究開発・サービス・金融拠点にするという政策があるが、これは田中角栄元首相の「列島改造論」と同じだ。中国全土時速300キロの高速鉄道建設計画もまったく同じである。中国は日本の失敗を学び、成功を真似ている。

――そう考えると、中国はまだまだ成長余地が大きい…。

清家 私は北京で中国の官僚の方とお話する機会が多く、助言を求められる立場だが、中国人官僚には「絶対に失敗はしない」という自信満々のところがある。失敗したことがないから言える言葉なのだが、本当は、失敗して転んだ人にしかわからないこともたくさんある。日本は失敗を経験している。中国は成長余地が大きいと考えるのか、どこかでその成長が止まるのかという判断は非常に難しい。

――オリンピックの開会式では、中国がひとつにまとまって、さらに発展していくという印象が強い…。

清家 中国の崩壊というシナリオは日本ではよく聞かれるが、欧米や中国国内にはない。私は中国崩壊論に立って回避されるリスクよりも、中国成功論に立たなかったことで被るリスクのほうが遥かに大きいと思う。中国が成功する時にどういう政権になっているのかが楽しみだ。私見では、今後20年、日中の経済が拮抗、競争、並立する時代が続き、その後両国の経済は国家を超えて融合していくと予測している。中国は、現在共産党員6千万人が政治の中核となっている。これは中国の人口の約20分の1を占めるが、入党資格が広がり、ベンチャー経営者も受け入れたりしているので、かつての日本の自民党のように右派から左派まで全てが共存する党になる可能性もある。これはあくまでも私論であるが、共産党内での政権交代があってもおかしくはないと思っている。

――日本でも、ある意味では一党独裁だ…。

清家 中国で共産党に入るためにはいろんな審査がある。リーダーシップをもった人間だと周りから認められた人が推薦を受け、ロイヤリティをもって共産党員として活動していく。現在では、世界に広がる大規模ビジネスで成功をしている人(資本家)なども入党するなど様々だ。共産党は連続的に時代に対応して変化している。そして、それは少なくとも民主化の方向でもある。一方で、貧富の差は非常に激しい。政府に対して不満を持つ人も多い。しかし、その不満は中央政府にではなく地方政府やその書記などの地域指導者に向けられる。江戸時代の水戸黄門をイメージしてもらうといいが、幕府ではなく悪代官に対する不満だ。悪代官を懲らしめてくれれば生活はよくなっていくと信じられている。現在中国では抗議行動が何万件とおこっているが、中央政府に対する反体制運動とは言えない。また、中央の富に比べて地方は弱体化しており、反逆、分裂反乱を起こす財力が徐々に地方から奪われている。地方の財力の弱体化は、経済成長が起こるとき各国で共通に起こる現象である。中国では地方の金融システムが弱く、日本のように地方で金融がお金を蓄えるという仕組みになっていないことも弱体化を加速している。たとえ地方に投資されても、結局上海などに戻ってしまう。地方にお金が貯まらない構造になっているわけだ。

――現在、日本企業の間では中国への過度な集中を避ける「中国プラス・ワン」という展開が積極化しているが、この点、中国経済への影響は…。

清家 日本の経済を「モノトーン経済」とすると、中国は「ハイブリッド経済」だ。中国人を中心としたビジネスはGDPの約半分で、残りの半分は様々な外資の企業活動が占めている。中国は経済の主役が多い。例えば日本企業が中国から撤退したとしても他の国の企業でカバーすることができる。国家を組織・人的資源論で説明すると、日本は国際人材、政官、産業指導層の3つが歴史を見ても弱く、未来もこの3つが強くなることは考えられない。中国はこれらが逆に強く、特に国際人材は非常に豊富だ。日本のように国内トップクラスの学校で学んだ人材が、研究者以外ほとんど日本にいるといった現象は中国にはない。中国トップ大学の同級生の半分は海外へ行っている。そして中国の政官は強い。強い政府と自由な経済が中国の発展の原動力といわれる。さらに中国の産業指導層は、日本の経団連のようなモノトーンではなく、米欧、日本、東南アジアの海外リーダー、中国、香港などのプロパーのリーダーが多様、多層の競争組織を構成している。様々な国籍の産業リーダーがアイデアを出し合い、どうインフラを作っていくかを考えている。多様なエリート同士が競争しているのが中国なのだ。中国の指導層に5000年の統治原理があるとすれば、それは、中国の未来を創造する企業や人材は、中国でもどの国の企業、人材でも構わないといった大陸の大らかさかもしれない。それは中国史そのものだ。中国の産業指導層は、国家を問わず、ビジネスチャンスに対し戦闘的に、世界を又にかけディスカッションを行い、世界の何処が面白いかを常に探している。日本も大いに学ぶところがあり、日本にも2000年の統治原理があるはずだ。(了)

【経歴】
1950年生 筑波大学大学院修了
民間企業、政府の研究所、委員を歴任し富山大学で政府、地方自治、企業における産業政策、組織論を研究。北京大学客員教授、社会科学院特別高級研究員など中国官学の要職を併任し経済分野での親中派の代表。日英中韓語で著書、論文多数。2009年3月北京大学開催「アジア太平洋情報経営コンファレンス」実行委員長。