企業会計基準委員会 委員長 西川 郁生 氏

企業会計基準委員会 委員長 西川 郁生 氏

当期純利益は現行通り表示



――日本における国際会計基準の導入時期は…。

西川 制度的なものは金融庁が決めていくのだが、SECによると、米国が強制適用するかどうかは2011年に最終判断するとしている。仮に強制適用するとした場合、上場会社については2014年から2016年にかけて段階的に強制適用するという案を考えている。米国はこれまで国際会計基準(IFRS)を受け入れないとしてきた。国外の企業については受け入れを決めていたが、国内企業においてもロードマップ案を公表しようとしている。これまで米国は、米国基準と国際基準の間でコンバージェンス(中身をそろえる作業)を行ってきた。日本も同様に、米国や国際会計基準審議会(IASB)と共同会議を開きコンバージェンスを進めてきた国であり、これまで日本企業にはIFRSを認めてこなかった。このような立場をとっている国は日本と米国の2国のみであるため、米国が適用するという動きになれば、日本も同じような流れになるということは当然考えられる。

――すぐに適用するということではないし、これまでコンバージェンス作業を進めてきたことを勘案すると、それほど違和感はないような気もするが…。

西川 われわれの作業として明確に決まっているのは、2011年までに米国とIFRSが共同で新しい基準を10項目程度作る重要なプロジェクトがあって、そのプロジェクトに日本も積極的に関わり、日本の会計基準もコンバージェンスしていくという作業だ。この結果、2011年までには日本基準もIFRSも米国基準も変わり、コンバージェンスした形に近づいていく。その先については、おっしゃるように違和感がないかも知れない。

――2011年に向けたプロジェクトの進ちょく状況は…。

西川 現状、短期、中期、中長期(2つ)の4つのプロジェクトに分かれていて、1つ目の短期プロジェクトは、欧州で行われている日本の会計基準の同等性評価に基づいている。この同等性評価というのは、日本の会計基準で財務諸表を作成して、今後ともそれをそのまま欧州での資金調達時に使えるようにするために必要となる。日本基準がIFRSと同等であるということを欧州側が確かめるかたちで、EUが他の国に課しているものだ。その評価の結論については年内中に出る。現時点での途中経過としては、EC(欧州委員会)では米国および日本基準は同等であるという規則案を出していて、次のプロセスはその案をEU議会に承認してもらうということになっている。この同等性評価の結論が2008年中に出るということもあって、それに関連する項目については最優先で行った。現在、そのすべての項目について予定通り進めており、企業結合などもファイナル(会計基準公表)に近い状態にある。

――2つ目の中期プロジェクトについては…。

西川 こちらは既存の差異に関連するもので、昨年8月に結んだ東京合意に基づいている。例えば企業結合で、のれんの償却をどうするかということや、日本でまだ行っていない過年度遡及修正などを2011年までに行う計画になっているので、来年以降はさらに議論が進んでいくことになろう。

――課題となっているのは…。

西川 3つ目の中長期プロジェクトとして、IASBと米財務会計基準審議会(FASB)のMOU(覚書)に関連する項目があるのだが、これらについては、先ほどの東京合意の段階では2011年には終了しそうにないものがほとんどだった。ところが、IASBのデービッド・トウィーディー議長がこれらの項目もすべて2011年までに終わらせてしまおうと宣言したため、IASBとFASBの方で完了が加速化されることが予想される。それに伴い、われわれの方もプロジェクトに参加しつつ、日本での議論も進めていこうということで、来年以降その作業が大変になると考えられる。

――一方、金融不安を背景に、米国では時価会計を停止する…。

西川 今回の金融危機では、今まで売買出来ていたマーケットが突然消えてしまい、売れなくなってしまった。マーケットで時価評価しようにも投げ売りするほか値段がつかめなくなってしまった訳だが、時価会計をやめてどうすればいいのかという代替案があるわけではない。マーケットがなくなると、各社ごとに合理的に算定するようになる。その算定方法の仕方の開示など定性的なことを注記するなどして補っていくしかないだろう。時価評価をするためにはリスクやリターンなどの情報がないと駄目なのだが、その元になっている資産のリスクが見えなくなってきている。「見えない」ということは確かに不安であり、それが価格形成ができなくなっている原因といえるだろう。

――証券化商品の時価会計と格付けに対する見解は…。

西川 今回の金融不安の原因は、まず、情報がきちんと伝わっていなかったことにある。どういうリスクがその商品にあるのかを実際に購入した人が理解していなかった。2つ目には格付け機関における格付けのやり方についても問題があったとも言われている。商品についてどういう格付けを行うかは、格付機関としてきちんと原点に立ち返って考えるとともに、格付機関を一体どういう形で監督するのかということも考えなければならない。また、証券化商品についてどのような会計処理がいいのかということになれば、やはり何らかの時価評価になるだろう。基本的に透明性を図る面では大切だ。一方で流動性が欠如した場合にどのように評価していくかは、ひとつのモデルに基づいた評価に影響せざるを得ないため、その部分については、どういう前提で評価していくのか、どういうリスクがあるのかという表示が必要になってくる。

――このところ、地方会計に対する議論も話題を呼んでいる…。

西川 基本的にASBJでは企業会計を扱うということになっている。日本の場合、公会計の会計基準はいままで官主体でやってきていた。地方を中心とした公会計が今のままでいいのかという議論は確かにあり、民間主体でやるべきだという機運が高まれば色々なことも考えていけると思うのだが、いまのところ、ASBJの定款には対象とされていない。ただ、米国では企業会計を議論する委員会と公会計を議論する委員会の2つを1つの民間財団の中に作っている。日本も将来的にはそのような方向性も考えられるだろう。

――中小企業の会計についてはどうか…。

西川 基本的に、会計監査の対象となっている会社法の大会社は、上場会社同様対象外として考える。それら以外の企業になると幅が広すぎて基準というのは無理であるため、現在、日本公認会計士協会、税理士会、商工会議所とABSJで中小企業会計指針を作っている。こちらも有価証券等について基本的には時価会計が導入されている。中小企業にはコストベネフィットという考え方の下、コストに見合う開示を要求している。上場会社の場合は投資家のために情報開示の機能が強く求められるが、中小企業の場合は銀行などがいろいろな手段を通じてその会社の情報を得られる。そのため、上場会社並みの厳格な基準は必要ないと考えているが、リスク商品を取得しているのであればその処理に関して基本的な考え方は変わらない。

――今後、力を入れていくのは…。

西川 IFRSが当期純利益の表示をやめてしまうのではないかという懸念が2〜3年前抱かれ、日本の経済界中心にちょっとした騒ぎがあった。これについてはIASBは方向性を変えて、当期純利益は従前どおり残すということで一致している。今後このような大きな議論が出てくることはないだろう。当期純利益は企業価値の指標として重要なものだ。特に事業をしている場合、自社の株価とバランスシートの純資産がまったく違う。決算を見て時価が決まってくる。それが逆になってしまっては情報開示にならない。時価会計についていえば、それが万能かというとそうではなく、やはりどのような場面でどのような時価を使うべきかということを、もう一度原点に立ち返って考えなくてはならない。(了)