日本証券アナリスト協会 専務理事 萩原 清人 氏

日本証券アナリスト協会 専務理事 萩原 清人 氏

日本経済に重要な役割



――10月10日に「日本証券アナリスト大会」が行われた…。

萩原 これは年一回の大会で、経済界のリーダーをお招きして開催している。日本証券アナリスト協会の会員数は現在、証券アナリストである検定会員(CMA)が2万2000人余、法人会員が500社程度だ。ちょうどマーケットが荒れている時だったが、にもかかわらず今回は今までで一番参加者が多かった。今年のテーマは「グローバル化の中での企業経営と魅力ある金融市場」で、サブプライムローンの問題を意識し、現在の金融不安の状況の下でいかに国際競争に打ち勝っていくかという議論を行った。かつてのバブル崩壊とその後の長く暗い時期が尾を引いてなかなか今一歩踏み出せないでいた日本だが、今はそういう傷んだ部分を早めに直した経験を持っているということで、むしろ日本の金融界が発展するチャンスともいえるだろう。

――今後の協会の方向性は…。

萩原 協会が今の証券アナリスト資格(CMA)制度を始めて30年になるが、開始から15年たって一度、当初の教育プログラムを全面的に見直した。近年運用手法やそれらに関する理論は急速に進化しており、教育プログラムに関しても毎年小幅の見直しを行っているのだが、大きく骨格を変えるには大変なエネルギーが必要だ。しかし平成14年から数年かけて2回目の全面的な見直し作業を行い、一昨年から今年にかけて新たな教育プログラムに移行した。具体的には、コーポレートファイナンスのウエートを高めたり、ミクロ経済学、行動ファイナンスを取入れたりしたことなどだ。加えて、勉強のし易さを工夫した。この試験は相当集中して勉強しなければ受かるのは難しいのだが、資格を取る人は社会人がほとんどだ。そのため、協会から出している教材だけをしっかり勉強すれば合格するように、密度の濃いテキストを作るとともに、1次試験を年2回にした。我々が目指すのは、こうした対応により証券アナリストの裾野を広げることだ。

――証券アナリストの裾野拡大のために…。

萩原 日本の大学生で金融機関に進むのは文系が多く、つれて数学が苦手な人間が少なくないのだが、証券アナリストの勉強にはもちろん数学が含まれている。また、証券アナリスト通信教育講座のレベルはかなり高い。そのため、まず、証券アナリスト通信教育講座に入る一つ前の段階として基礎講座を設けている。これは数学を極力避けて、証券分析とポートフォリオマネジメントに限定して理解してもらうプログラムとなっている。さらに、そうはいっても数学の知識がないとこの世界は難しいため、スクーリング方式での数量分析教室を始めた。そうしたことで裾野を広げていき、証券アナリストという資格のレベルを維持しつつ、将来的には国民教育的なものにしたいとも思っている。さらに、個人の証券市場への参入促進も欠かせないことから、個人に証券アナリストの役割や協会の役割を理解してもらうよう講演会やセミナーなど色々なものをオープンにした。また個人向けの会社説明会の開催にも本格的に取組んでいる。日本の証券市場が発展しないことには証券アナリストの活躍の場もない。

――少子高齢化の日本において、戦後60年で稼いだ金融資産をどう使うかは大きなテーマであり、その意味において証券アナリストの役割は大きい…。

萩原 確かにそうだ。国民経済的に見て個人の金融資産を活性化させることが重要だ。そのために証券アナリストが果たすべき役割は極めて大きい。現在この分野で強大な力を誇るのはもちろん米国だが、その米国のアグレッシブな活動にも負けないように、我々はアジア主要国とヨーロッパ大陸、アフリカ、中南米諸国と連携して国際公認投資アナリスト(CIIA)という資格制度を作っている。設立して8年目になるが、当協会の検定会員(CMA)のうち、現在2000名ほどがCIIAとなっている。実はアジアできちんとした証券アナリストを育成できている国はそう多くないし、国によって非常に差がある。そんな中で日本のアナリスト協会は、世界で米国に次ぐ2番目に大きな組織であり、リーダーとして証券アナリスト教育の整備・拡充に取組んでいるし、それは我々の使命でもある。米国をお手本にしながらも、それに飲み込まれないようにしなくてはならないといっても良い。

――当面の協会の目標は…。

萩原 今の目標は、証券アナリスト資格であるCMAのブランド力をさらに高めていくことだ。そのためには、すでに資格を取った人にもっと勉強をしてもらって力をつけてもらわなくてはならない。このため、継続学習の一環として協会では月刊誌「証券アナリストジャーナル」に加え、年間80回に及ぶセミナーなどを行っている。同時に、証券アナリストの存在や役割を周りに知ってもらうことも必要であり、今後は経営者に証券アナリストの存在・役割をPRしていく方針だ。日本の経営者には企業価値をどう高めるかという意識が明らかに薄いし、企業財務の重要性を理解していない人も少なくない。また先日、ある金融機関を表敬訪問した時の話だが、「証券アナリストは銀行にとって役に立つのですか?」といわれて愕然とした。アナリストの基本的な機能の一つは企業の現在価値、将来価値の測定にある。そのために経済、財務分析、証券分析とポートフォリオマネジメント、さらには職業倫理を学んでいる訳だ。これこそが本当の審査であり与信活動だと思うが、そういうことを知らずして、運用難だといっている金融機関がどれだけ多いことか。理解不十分なままに複雑な商品で運用して、多額の損を出しているといったケースもこうした延長線上にある。

――資格の多様化について…。

萩原 証券アナリスト協会ではCMAの価値を高め、活躍の場を広げるために、プライベートバンキング分野の教育に力を入れるべく去年からセミナーを始めている。当協会の親密連携先であるスイス証券アナリスト協会では、すでに2004年からこうした富裕層向けにアドバイスを行う資格制度としてCertified International Wealth Manager(CIWM)を開始しており、当協会においても、資格制度導入の適否を含めて本格的な教育プログラムの整備について検討していく予定だ。これまでのところ、日本は税の部分が複雑で難しいこともあり、なかなか彼らと合流出来ないが、これについても何とか前進させていきたいと考えている。

――確かに日本は税が難しすぎる…。

萩原 日本には意外とお金持ちはいるのだが、そういう人たちからは、「金融機関は自分たちの商品の説明には熱心だが、求めるところに答えてくれない」という声をよく聞く。こうした点で当協会がプライベートバンキングの分野で標準的なものを示せるようになれればと思っている。いずれにしても、今の金融界において、本当に証券アナリストの役割や価値が分かって活動しているのは大手証券、メガバンクくらいだろう。そのためにも、今後は幅広く経営者に証券アナリストの重要性を理解してもらうような活動にも力を入れていきたいと思っている。(了)