財務省 理財局長 佐々木 豊成 氏

財務省 理財局長 佐々木 豊成 氏

海外プレーヤー減少への対応が課題に



――株の暴落、債券の乱高下で、財務省理財局としても国債発行への影響が大きい…。

佐々木 今回起こっていることは過去に日本のバブル崩壊時に起こったことと共通点が多いが、今回は影響の伝播の速度が非常に速かったことが特徴的だ。また、日本のマーケットにおける海外のプレーヤーの存在が大きくなっている中では、日本の金融機関や証券会社がどんなに健全であっても、プレーヤーのひとつである海外の投資家や金融機関・証券会社がダメージを受けると、市場自体が影響を受け、それにより日本の投資家や金融機関・証券会社のリスクテイク能力が低下するということもよく指摘されている。ただ、日本の国債市場ということで見れば、10年国債の金利は中期的なトレンドで見ると極端に2%を超えたり1%を割り込んだりといった動きはしていないし、最近では1.4%後半から1.5%前半のレンジで推移している。

――海外の投資家が減少したことで流動性が低下し、めぐりめぐってマーケットで買いたい人が買えなくなるという問題も出てくる…。

佐々木 短期金融市場においては特に外資系の資金繰りがきつくなっているという声は聞く。リーマンショックがあってから皆が疑心暗鬼になり、信用力の低下から資金のやり取りが細っているとの指摘だ。しかし、これは国債市場に特有の問題ではなく、金融市場全体が影響を受けているということだ。流動性の問題ということでは先物市場についても色々と指摘がなされている。金融混乱の影響で、国債市場でひとつの役割を果たしていたリラティブバリュー系のファンドによる裁定取引が減少したことから、先物の動きが現物の動きと乖離してしまっているということもよく指摘されている。

――日本ではバブル崩壊後、株が下がるのは大証の先物のせいだという議論が巻き起こった。「先物が先駆して下がっていくため、先物市場などつぶしてしまえ」 という意見と、「先物はマーケットの流動性を高めるために非常に大切な機能であり、それは残しておくべきだ」という意見に分かれた。今、世界的な金融危機となり、金融市場のあまりにも無茶苦茶な取引が世界経済をだめにしたという考えが大分支配的になりつつある中でやらなければならないのは、先物市場のレバレッジが本当に妥当なのかどうかを見直すことだろう…。

佐々木 先物と現物の動きが乖離しているという点は問題意識としてもっており、我々も国債投資家懇談会や国債市場特別参加者会合などを開き、市場関係者から、例えば標準物のあり方等、先物市場についての考えも聞いたりしているが、なかなか「どうすべき」との具体的な意見は出てきていない。この点は、我々発行当局としては直接できることは多くないが、はやく先物市場が本来の機能を十分に発揮するようになることを願っている。

――海外のプレーヤーがいなくなったことで、物価連動債の発行も難しくなってきた…。

佐々木 変動利付国債は国内の金融機関が相当の量を持っていて、物価連動債に関しては主に海外の投資家に買われている。ともにリーマンショックの前から市場価格は思わしくなく、その後、需給関係は悪化した。それを改善するために、8月の対策で15年変動利付国債について発行額を減らし、買入消却を増やすことで、年間のネット発行額をマイナスとすることにした。物価連動国債に関しては10月の対策で年内発行をやめて買入消却を増やすという対策を実施した。市場の需給環境が改善しなければ新たな発行は国民負担を増やすこととなってしまうという点は肝に銘じる必要があろう。

――物価連動国債を突然停止し、20年債を増発したことについて、マーケットには批判の声もあるようだ…。

佐々木 今年は現下の金融市場の混乱を受けて臨時に8月、9月の両月に国債市場特別参加者会合と国債投資家懇談会を開催し広く意見を聴取させていただいている。10月には物価連動国債を減額すると同時に20年国債を増額したが、これは8月、9月の会合で、どういうニーズがあるのかを確認させていただいたところ、短期と超長期にニーズがあったことを受けたものである。短期はすでに8月段階で増発したので、10月には超長期債での対応ということにさせていただいた次第だ。今後も、市場参加者の方々との意思疎通は密にしていきたいと考えている。

――その点、40年国債はやめて、20〜30年国債に集約したらどうかという意見もある…。

佐々木 発行当局としては、40年債は導入したばかりであり、これを含めて超長期債市場は育成していくべきと考えている。11月にまた国債市場特別参加者会合等を開く予定としているので、11月7日の40年債入札の結果も踏まえて、今後の超長期債市場の育成の仕方等について市場関係者の方々から意見も伺い、議論していきたいと考えている。

――証券化商品については2回実施されているが、マーケット環境が大変によくない…。

佐々木 1回目はディール・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ非常に評価された。ただ、その1回目はベアスターンズの破綻時期に発行したため、船出は大変だった。2回目も金融不安によって、スプレッドがむしろワイド化した。このため、しばらくは様子見とならざるを得ない。

――その点、個人国債も金利が安いことで低調だ…。

佐々木 個人は安定した保有者であり、国債保有者層の多様化の観点からも買ってもらいたいというのが率直な願いだ。期間をもう少し工夫するなど、現在いろいろと考えているのだが、現状の金利状況では苦戦を強いられているというのは事実だ。今後リテールを担当されている方々と会合を持つなどしてどのような工夫ができるのかよく検討していきたいと思っている。

――その他、今後の展望などは…。

佐々木 市場の動きは予見し難いものであるが、市場では引き続き国債への基本的なニーズがあると考えている。その一方で、影響を受けた海外の投資家たちが戻ってくるのか、さらにはこれまで海外のプレーヤーが果たしてきた役割を、代わりに担う人が出てくるのかどうかといった点も注視していかなければならないと考えている。今後、国債の発行がどれだけ必要かということは、予算編成がもう少し進まないことには見えてこない。物価連動国債や変動利付国債をどうするのかなどいくつか課題はあるので、そういった点を市場関係者とよく議論させていただき検討をしていきたいと思っている。(了)