外務省官房審議官(中東・アフリカ担当) 知原 信良 氏

外務省官房審議官(中東・アフリカ担当) 知原 信良 氏

アフリカの発展に地道に支援



――中東・アフリカ担当の審議官の業務は…。

知原 外務省の地域担当部局である中東アフリカ局において、中東地域の21カ国とサブサハラのアフリカ48カ国をカバーしている。地図を思い描いていただくと、アフガニスタンからトルコまでとアフリカ大陸全体ということで、大変広い地域であり、しかも自然も文化も多様な国々となっている。これらの国の経済開発や日本との投資・貿易関係の拡充に役立つような二国間関係を作っていくことが主な業務だ。

――最近の業務は…。

知原 7月に就任してから最も印象的だったのが、16日間の南部アフリカ出張。これは、今年5月に横浜において開催されたTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)をフォローアップするものだ。TICAD IVというのは、アフリカの開発のための日本で開かれる国際会議である。アフリカ各国の首脳・大臣だけでなく、世界銀行、国連やUNDP(国連開発計画)などの国際機関やアフリカ開発銀行などの地域機関のほか、欧州の支援国やアジア諸国、民間支援団体などの参加を得て開催された。国際社会とアフリカ諸国が日本において一同に会してアフリカ開発を具体的に話し合う国際会議だ。1993年から5年毎に開催され、時宜に適ったテーマを取り扱ってきたことと参加者の数と範囲が回を重ねるごとに拡充され進化してきている。今回のTICAD IVでは近年のアフリカ経済の成長の兆しを後押しすることが焦点となった。これが7月に開かれたG8の北海道洞爺湖サミットに引き継がれて、アフリカ開発に向けた取組みと道筋が示されたことが大きな成果だった。

――アフリカ開発を支援すると…。

知原 5月のTICAD IVの基調演説で福田前総理は、2012年までに日本のアフリカ向けODAと民間投資を倍増するということを約束した。これを受けて、まずは投資や貿易を担う民間企業とODAなどを担う政府関係者が一緒になってアフリカの現状を見聞しようということで三班に分けて訪問団を組むことになった。私はそのひとつに参加した。百聞は一見に如かず、で認識を改めさせられることを数多く経験した。

――具体的にどのあたりを回ってきたのか…。

知原 アフリカ大陸の53カ国から関心の高い12カ国が選ばれて、南部、東部、西部の3方面に分けて訪問団が組まれた。私が参加したのは南部班で、ボツワナ、モザンビーク、マダガスカルと南アフリカ共和国の4国を訪問した。この4カ国はいずれも資源が豊富であると見込まれているので、商社などの日本企業も大いに注目している国だ。しかし国によって事情が随分異なっており、概していえば、南アフリカ共和国を除くと投資をする前に整備すべき課題がなお数多く残っている。実際の訪問団は50人を超える大規模なものであり、日本の企業の関心も多方面にわたっていた。訪問先はいずれも個性のある魅力的な国だった。南アフリカ共和国は2010年サッカーワールドカップの開催に向け、インフラ整備を急速に進めており、活気があふれていた。それとともに、ここ近年のレアメタルなど天然資源に対する需要の高まりから、世界中から注目を集めている。

――アフリカへの進出は、中国も活発に行っている…。

知原 中国は近年、中東でもアフリカでも急速にプレゼンスを高めている。資源獲得のために国全体が一丸となって深く進出してきている。一方、日本では、当然ながら、国がやることと、民間がやるべきことが区別されていて、中国のように政府主導で人海戦術などを用いて強力に進めていくことはなかなか出来ない。日本としては、すでにグローバル展開している民間ビジネスの得意な分野とやり方でプロジェクトを進めていくのがいいという考え方だ。日本がODAとして進めているインフラ整備なども、シナジー効果を効果的に活かせるような形で役に立てればいいと思っている。

――日本の外交のポイントは…。

知原 社会経済開発や資源を視野に入れた外交に関して言えば、日本には日本らしい得意なやり方がある。相手の国の身の丈にあったものを身に着けてもらわないといけない。長い目でみた真に望んでいるものを重視していくことや、人づくりといった時間のかかるソフト面に腰を据えて取り組んでいくことも重要だろう。社会の底力に役立つような教育や職業訓練、さらにはマネージメント向上の支援など、今までも一生懸命やってきたことであるが、これからも日本はこうしたきめ細かい地道な努力が出来る国だと思っている。アフリカでも中東諸国でも、ハード面で整ったからといって一朝一夕には良くならない。国づくりとは数十年かけてやっと成果が出てくるものだ。若い世代が育って国の中核を支えるようになって、やっとその国の発展が本物となるという。日本では10月に新JICAが誕生した。これまでのODAの流れが整理され、技術協力、有償資金協力、無償資金協力の3つの機能を融合して援助を出来るようになった。新しい仕組みの下で大いにODAの役割が期待される。

――新JICAではどのような技術支援を行っているのか…。

知原 技術協力にも有効な手段が数多くあるが、注目しているのが青年海外協力隊の活躍である。技術を持った若い世代が実際に途上国の現地に赴いて、その技術をその場に即応させながら提供している。南部アフリカにマラウィという人口1300万人程度の国があるが、そこには日本人の青年協力隊員が常時100人程度は派遣されている。常時100人というのはガーナとともに世界最大級の規模である。青年協力隊の活動は、マラウィだけでなく多くのアフリカ諸国においても数十年前から幅広く行っている。農村や山奥の村にも入っていく。最近では、定年退職後に職業経験を活かしたシルバー協力隊も盛んになってきた。こういう地道な活動を進めていくことが日本の特性を活かした協力方法であり、日本に対する理解を深めてもらう絶好のチャンスである。こうした積み重ねにより、日本の外交についてもいい効果をもたらしてくれることを期待している。

――米国でも、次期大統領がオバマ氏になったことでアフリカとの結びつきも強くなる…。

知原 オバマ氏が大統領選挙に優勢と報道されるようになった頃から、アフリカでは俄然関心が高まり、アフリカ寄りの政策変化に対する期待が急速に膨らんでいることを実感している。いよいよ明らかになる具体的な政策が注目されるところだが、心理的な面での効果はさておき、現実は容易ではないだろう。大事なのは、今後、米国の具体的な政策内容について冷静に見つめて、いい関係に繋げていくことを考えていかなければならないと思う。

――米国の外交もいままでのブッシュ大統領の方針と変わるであろうことから、日本も大分外交を変えなくてはならないのではないかという声もある…。

知原 たとえばイラクでは、ちょうど新しい段階に入ろうとしている。これからは日本の民間企業がどのように復興支援に関与していくのかが問われる段階になり、民間のビジネス活動がイラクとの関係の大きな柱になっていく。日本だけでなく他の支援国も共通した状況だと思う。ただイラクではこれまで錯綜した経緯もあり、そう一本調子で安定することにならないが、一歩ずつ確実に安定に向かっていくことは間違いない。民間企業によるビジネスが少しずつでも拡大するのに伴い住民の生活も安定していく。その分だけ混乱も治まっていく。そういった好循環が期待できる。

――アフガニスタンなどで起こっている事件については…。

知原 アフガニスタンはイラクよりも事情が錯綜している。支援をする立場としてはまだ忍耐強く臨まなければならないだろう。そもそもアフガニスタンという国は地域的、文化的に多様な人たちがモザイクのように分布して暮らしている。カブールと地方では言葉の違いも含めて乗り越えられない隔たりがたくさんある。言葉が違っていると思い違いも生じやすいし、コミュニケーションには困難が生じてくる。些細なことでも対立になったりしてしまう。ただ、ひとつだけいえるのは、そういうところだからこそ協力し合って安定させないといけないということだ。

――最近、興味のある国は…。

知原 一つはアラブ首長国連邦のなかのドバイ(首長国)が興味深い。いわゆる伝統的な中東の国とは違って、新しい中東というか、湾岸諸国のオイルマネーの力を感じる。ドバイ自身はもはや、ほとんど石油を産出していない。しかし周辺国のオイルマネーを巧みに活用している。オイルマネーは使い用によって、良くも悪くもなる強力なエンジンである。ドバイを見ていると、金融システム、その運営とともに巧みに操っており、他国のマネーの呼び込みに成功している。少なくとも最近の金融混乱が起こるまでは、対応策が着実に成功しマネーを引き込んできた。バブルの側面もあったのでこのところ減速してきてはいるが、要所に目を配りながら経済発展を目指す経済運営を巧みに進めているところだ。ここ数年で注目が集まってきたが、ドバイでは20年も前から今のような姿を構想に描いて着実に実現してきたものだ。極めて人工的ではあるが、欧米の先例をよく研究し、大胆な実験を細心の注意を払って試みているという感じだ。世界的な金融や実体経済の縮小の影響は避けられないだろうが、今後の動向を注目してみたいと思っている。

――オイルマネーをうまく活用していると…。

知原 もうひとつはボツワナだ。南アフリカ共和国の西隣にある内陸国だ。昔、日本国債の格付けが下がった時に同じ格付けだと比較されたことで話題になったので、ボツワナの名前だけをご存知の人も多いと思う。ボツワナ自身は世界一のダイヤモンド産出国として非常に豊かな国だ。1966年に独立した時は最貧国の一つだった。翌年ダイヤモンドが発見され、ダイヤモンドの威力を最大限活用しながら国づくりを進めてきた。しかしダイヤモンドも有限な資源なので枯渇する前に国づくりを仕上げようと堅実に開発を進めてきた。将来に向けて借金を残さないように自前の資金を効率的に使いながら、教育や社会政策に地道に力を入れてきた。堅実に成長してきている国だ。それは人口が180万人ほどの小さな国だからこそ出来るのかもしれない。また、話し合いによる解決を重視する固有の民主主義の伝統のもと、紛争もなく、政治的な安定では地域の中で際立っている。経済運営も保守的できわめて堅実だ。堅実すぎるという声もあるくらいだ。最近では、産業の多角化を目指し、観光産業やダイヤモンド加工や製造業の育成・定着に力を注いでいる。

――アジアの次に期待される地域はアフリカか…。

知原 アフリカでは紛争が絶えないのも事実だが、非常に資源に恵まれていて、人々が勤勉に働いているところが意外に多い。マラウィでは昨年、トウモロコシの増産を図ってきた成果が現れて食料の自給率が100%を超えた。まだまだ貧しい国であるが、とりあえず腹を満たすことができるようになれば、開発も次のステップへ進むことが出来る。今、日本の青年協力隊員も手伝って、村おこしのために「一村一品運動」を推進している。村ごとに高品質米や加工食品など特産品を工夫するなど、アフリカにおける「一村一品運動」の先行事例になっている。地方分権にも役に立つということでマラウィ政府も一生懸命になって推進している。こういうところにも日本の支援が役立っている。アフリカの未来に向けた発展に大きく貢献している。もちろん、アジアと比べればまだまだ時間はかかるが、日本の地道な支援が将来実を結ぶことを期待している。(了)