証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

株券電子化いよいよスタート



――いよいよ株券電子化が来年1月5日から始まる…。

竹内 この株券電子化の議論が始まって法律が通り5年弱になるが、準備どおり進んでいる。これだけ広範なネットワークの中で実務とシステムを変える作業は大変だった。足元では全体の約92%が証券保管振替機構への預託や不所持申出により電子化への切り替えを終了しているのだが、残り数%のうち個人投資家のタンス株の動きは少し心配をしている。法人の場合、組織として切り替えをしないという判断をしているところもあるのだろうが、個人株主に関しては、情報がきちんと行き届いていなかったり、ご理解されていなかったり、そもそも相続した株の内容を正確に把握していらっしゃらない人もいる。従って、個人のタンス株を掘り起こすのに限界があるとは承知しているのだが、問題はそのままの状態にしておいて権利を失ってしまうなど、本人に思わぬ不利益が起こることだ。というのは、株を買った人が名義を書き換えていない失念株式の場合、配当や総会の案内通知などが前の株主のところに行ってしまう。名義株主が再びその株を売るようなことがあると、今度はそれを買った人がその株を取得してしまう。アンケート調査や統計数値から試算すると、個人の失念株式のうちでそういった事故の問題が生じる可能性のある第三者名義の株式は0.1%に満たないのではないかと思われるが、皆無とは言い切れない。

――1月5日までタンス株を持ち越してしまった人はどうなるのか…。

竹内 1月以降も、一カ月ほど株を売れなくなってしまう。今回、4000近い銘柄と株主延べ5000万人という大量の情報を12月30日の最終日以降に整理確定するのだが、未だ証券保管振替機構に預託されていない株式は信託銀行などの特別口座に記録される。特別口座とは権利を救済するための口座なのだが、売る必要があるときにはその特別口座から証券会社の口座に移さなくてはならない。そういった手続きに時間がかかる。

――電子化に伴って合併や分割なども中断する…。

竹内 法律上・実務上の制約から、12月半ば頃から上場会社同士の合併や分割、併合といったコーポレートアクションが出来なくなる。新規上場も2月上旬までできなくなるが、昨年から上場会社に注意喚起を行なうとともに、ご理解・ご協力をお願いしている。

――一方で、電子化にはITゆえの怖さも伴う…。

竹内 米貿易センターの爆破の際には、ヘッドクォーターとバックアップセンターが同時に襲撃され顧客データがなくなったという事があった。我々もそういった歴史を踏まえ、データ管理には何重にもカバーをする仕組みを整えている。特に、バックアップセンターがあっても、そこに職員がいないという状況にならないように、距離や移動方法を緻密に計算し、万全の体制を敷いているところだ。

――株券電子化という一大テーマが山を超えると、次のテーマは…。

竹内 一つは電子化に伴うコスト削減だ。今回のことをきっかけにして、ITを使って合理的にコスト削減が出来るという仕組みを市場全体に広げて行きたいと思っている。色々なコーポレートアクションにしても、情報が第一次発信元から受領者・利用者への到達、その後の処理がSTP(Straight Through Processing=一連の処理を人手を介さずに電子的に行うこと)化されておらず、情報の入手確認等に時間がかかっているが、そういったことをITによる情報の一本化で合理的に進めていければ、無駄な作業もコストもなくなると期待している。また、国際的なボーダーが低くなったにも関わらず、海外の取引所、清算機関、決済機関との間のクロスボーダーを扱うための制度の違いがなかなか埋まらないという現在の状況に正面からきちんと対応していかなければならないと思っている。合従連衡が必要なときに、なす術がないといった状況では、とても世界3大市場の一つとは言えないだろう。具体例としては、決済機関が配当金等の資金を取り扱うという流れなどだ。国際的に見ると、取引所と清算機関については、合従連衡が行われたり、新たな機関が誕生したりと競争が激化している。決済機関については現在のところ目立った動きにはなっていないが、今後の動きには注視していかなければならない。

――電子化によって下がるコストは…。

竹内 紙の存在によってかかる年間コストは一説に、人件費、印刷代、運搬代などを含めて1000億円といわれている。これがどこまで削減できるのか期待したいところだ。株主管理にしても、これまで上場会社ごとに取り扱っていたものを、今後は全て名寄せして証券保管振替機構で一元化するため、非常に合理化されたものになるのではないか。またその結果として、これまで判らなかった正確な株主数もわかるようになり、現在約1500万人が株式を持っていることが判明した。こうした電子化の結果による正確なデータを活かして、市場の一段の透明性や発展に繋げていきたい。

――今まで培ったものをアジアに輸出するような考えは…。

竹内 昔、T+1(約定日翌日決済)を世界的に広めようとSECが中心になって一生懸命動いていたのだが、それが貿易センタービルの崩壊によって先送りになってしまった。しかし、証券化市場の合理化は進めなくてはならないという認識から、現在ではSTPに力を注いでいる。T+1のためにはSTP、とりわけ電子的な決済照合が必須であり、我々はこれを実現させるために決済照合システムというマッチングシステムを提供している。我々の決済照合システムには「セントラル・マッチング方式」を採用したのだが、欧米では、ワイパー方式(片側の取引当事者が送信したデータを取引相手方が承認する方式)を採用するマッチングシステムが主流である。機能的には「セントラル・マッチング方式」の方が断然優れていて、実際にアジアでは注目されているため、今後、この方式が広く普及することを願っている。

――電子化によって取引から決済までが益々スピーディーになっていく…。

竹内 国債についてはすでに電子化していて、売買も機関投資家が圧倒的に多いため、T+1にしても良いのではないかという議論がすでに行われている。これはかなり現実味を帯びてきているものだ。次は株式市場に議論が及ぶかどうかといったところだが、これについては、まだ少し時間が掛かりそうだ。当面、我々のほうでは個人投資家のデータ整備や証券会社とのやりとりにおけるシステムを安定させ、コスト削減と透明性の高い市場への追求に力を注いでいきたいと思っている。(了)