日本証券業協会 専務理事 大久保 良夫 氏

日本証券業協会 専務理事 大久保 良夫 氏

情報力が日本の発展に重要



――専務理事に就任されて半年余り、今一番の焦点は…。

大久保 日本証券業協会には自主規制部門と証券戦略部門がある。私は証券戦略部門を担当し、証券市場の活性化を図るためにどういった施策をとっていくかの取りまとめをしている。この半年の大きな動きとしては、証券税制の要望を取りまとめて関係者に働きかけたり、証券制度の整備に関して、将来に大きな影響を与えるような、例えば株券電子化への対応のような取り組みを進めてきた。株券の電子化では、証券保管振替機構や東京証券取引所等、発行会社や株主名簿の管理を担っている信託銀行・証券代行会社などと連携をしながら、関係者が計画的に取り組みを進めてきた。協会の証券決済制度改革推進センターが事務局としての機能を果たしてきた。1月5日から株券電子化が本格的にスタートしたが、この制度が定着するまでは暫く、関係者の協力を得てコールセンターを維持し、フリーダイヤル(0120−77−0915)で問い合わせへの対応を行っている。年末には1日に2000件を超える問い合わせがあり、それに合わせて体制も強化してきた。現在は月曜から土曜日まで、午後7時(土曜日は午後5時)まで対応できるようにしている。

―― 一方、証券税制については…。

大久保 証券税制については、昨年末の税制改正大綱において、上場株式等の譲渡益・配当等について現行税制(10%の軽減税率)を3年間延長すること、併せて、10%軽減税率が廃止され20%本則税率が実現する際に、少額投資のための非課税措置(日本版ISA)を導入することなどの方針が示された。従来では、今年から2年間、配当等は100万円を超えた場合、譲渡益は500万円を超えた場合に確定申告をしなくてはならないという扱いになっていた。例えば、毎月分配型の投資信託を退職金を元手に購入していて、分配金が100万円の上限を超えてしまう人も多く、その結果、確定申告をする等の負担があるため、投資を控えてしまうことが懸念されていた。今回の結果は、厳しい市場環境の下で、投資家にとってわかりやすい税制が重要だということが、国会や政府の関係者に良く理解していただけたのだと思い、有難く思っている。

――間接金融から直接金融へという流れの中で、株式投資においても、もう少しわかり易く、みんなが買いやすいものにしなくてはならない…。

大久保 「 貯蓄から投資へ」ということが政策的な課題になってはいるが、現実にはあまり進んでいない。その原因として、デフレ的な経済状況が長く続いたことや、市場に対する信認など色々な要素がある。協会では、市場の信頼の回復や利便性の向上などできることを着実に進めていかなくてはならないという認識の下、現在は野村証券の稲野和利副会長を座長に「金融・資本市場に関する政策懇談会」を設置し、資本市場のあり方や投資家の視点に立った時にどういう施策を進めていかなくてはいけないのかを検討していただいている。今夏までには、中間の取りまとめを行い、何らかの成果物を発表できるだろう。

――「金融・資本市場に関する政策懇談会」における現在の検討項目は…。

大久保 これまで国民の貯蓄・投資行動の背景にある要因とか、金融商品税制などの制度や金融教育のあり方などについて議論している。金融制度や証券制度については学校での教育は限られているが、一方で、市場では色々な金融商品が登場し、国民が正確に商品内容を理解する必要が高まっているというギャップがある。金融についての正しい理解を深めるための教育は欧米でも重視しており、非常に重要だ。また、新興市場のあり方についても検討を進めている。具体的には、「金融・資本市場に関する政策懇談会」の下に「新興市場のあり方を考える委員会」を設け検討しており、主査は野村総合研究所の大崎貞和氏にお願いしている。新興市場は日本経済の発展にとって重要な役割を果たしているが、取引上の規制や上場基準、アナリスト等、市場参加者との関わりなど、様々な問題が存在している。この委員会は市場開設者である証券取引所の経営戦略を扱うわけではないが、様々な角度から意見を聞き、論点を整理している。今春には一定の取りまとめを行うことが予定されている。

――証券化市場における取組みについては…。

大久保 今、日本は国際的な市場の重要な一部になっており、その影響も色々な面で出てきている。業界団体としても、自主規制団体としても国内的な要請と国際的な整合性にも配慮した対応をしていく必要がある。特に我が国の証券化商品の販売については、米国のように複雑な商品組成によってリスクの所在の不確実性が問題となる事例はみられていないが、今後も問題事例が起こらないよう手当てしておくことが重要との考えの下、かねてから自主規制部門でトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するに足る態勢を構築するための具体的な検討をしており、原資産の内容やリスクに関する情報がわかりやすく示され、透明性が増すようなルールを考えるべきであるという議論が行われている。大切なのは投資家である顧客が本当に商品の中身をよく理解できているか、きちんとリスク管理ができているかなどといった基本的な部分である。低迷する証券化商品取引の機能回復には、一定の規制によって市場の透明性・信頼性を確保するという側面が重要だ。

――今年の抱負については…。

大久保 大変難しい環境の下にあるが、まずは、これまでに認識されてきた一つ一つの課題を確実に処理していくということが大切だろう。例えば証券界の情報システムの整備などといった問題がある。特にシステムの信頼性の確保は大切なので、協会の証券戦略会議の下に証券会社最高情報責任者(CIO)会議を設置し、証券会社におけるシステムの安全性や信頼性の確保を推進するなどの取り組みが始まっている。今後、このような場を通じ、情報セキュリティへの取り組みを更に進めていく必要がある。日本はこれまでものづくりの国だと言われ、色々な製造業の強さが国民の富を築き、世界から尊敬を受けるようになってきた。一方で、金融業も国境の無い世界になってきており、製造業と同様に非常に重要な産業だ。資金仲介者としても投資家としても、外国の、特にアジア経済についてきちんと議論ができて、自分の情報力で常に正確な判断ができるような環境作りを進めていくことは非常に大事であると思う。そのためには狭い意味での金融・証券産業だけでなく、メディア産業やシンクタンク、学界などの役割も重要になってくる。証券市場が多様な参加者を得て活発に動いていくことは、国の知力になり、財産になるだろう。マーケットには売る人がいて買う人がいる。色々な情報や判断のもと適正に価格に反映されていく。これからグローバル社会で日本が栄えていくことを考えた時に、情報を的確に分析する能力をもった組織や人が育って、活発に市場に参加していくことが重要だと考えている。(了)