みずほ証券 金融市場調査部 チーフマーケットエコノミスト 上野 泰也 氏

みずほ証券 金融市場調査部 チーフマーケットエコノミスト 上野 泰也 氏

少子化などデフレ対策が急務



――昨年5月に出版された「デフレは終わらない」の予想通りの展開になっている…。

上野 当時はインフレだと言われていたが、自分にはデフレだという確信が前からあった。日本の人口減少・少子高齢化は国内需要の縮小にこれからもつながっていく。何といっても人あっての経済なので、人口が減れば衣食住の需要は確実に縮まるし、サービス関連の需要も減る。一方、政府が行ってきたさまざまな規制緩和にもかかわらず、供給はさほど減らないままになっている。こうした需給バランスの悪さが価格を破壊する流れは今後も続く。

――海外と比べて日本の人口減少は特異だ…。

上野 確かに日本の人口減少は特異なケースだ。英国やオーストラリアの人口は増えているし、米国もペースは落ちたものの引き続き増えている。フランスは少子化対策に成功した。これらの国では、需要のベースラインは上向きだ。原油反落で財の価格は下落しても、国内需要および賃金の動向がベースにあるサービスの価格については、欧米は前年比プラスを今後も維持するのではないかと思われる。翻って、わが国の少子化対策は非常に遅れている。子育てのインフラが充実しておらず、シングルマザーの比率も海外に比べて非常に低い。出生率を少しでも高めるためには、まずは児童手当にせよ所得税の控除にせよ、金銭面での負担を大幅に軽くすること、そして一定以上の従業員規模の事業所の近くには託児施設が必ずある状況をつくることが必要だ。また、2055年には老年人口の割合は今の2割から4割に倍増すると見込まれるが、これは労働力の減少と需要の縮小を招くだけでなく、?現役世代の割合が低くなったところにこれまでの財政の借金の付けがまわるので1人あたりの国民負担額は大幅に増加する。?高齢者が預金を取り崩し、国債消化を円滑に行う武器となっていた家計の金融資産総額が落ちていく、といった問題が出てくる。また、資産家を中心にこうした負担に不満を抱く層が海外に移住するといった人材空洞化の恐れもある。

――少子化対策以外になにか策はあるのか…。

上野 内需をしっかり立て直すには、「滞在人口」を増やすことを多方面からやるべきだ。少子化対策に加えて、移民あるいは外国人労働者の積極的な受け入れ、観光客の積極的な受け入れ(補助措置も要検討)、直接投資の促進(海外企業の誘致)が必要だ。先日講談社から出版した拙著「『依存症』の日本経済」にも書いたが、秋田県は少子高齢化の進み具合から見て「10年先の日本」だと考えられる。秋田は小中学生の学力が高く、日本のフィンランドともいわれているが、進学・就職先は県外という人が少なくない。出生率、婚姻数、自然増加率が全国最低という統計データがあり、海外からの観光客誘致もうまくいっていないようだ。因みに、同書では、日本経済が陥っている10の依存症を取り上げた。個人消費の女性依存、交際費依存、建設業依存、食料の海外依存、規制依存、学習塾依存、マスコミ依存、預金依存、マーケットの外国人依存、そして米国依存だ。解決の糸口として、やはり人口増加策が急務である。観光客誘致策の強化のためには、地方自治体が補助などを行って価格を割安にしたモニターツアーを組むなど、海外からの観光客を受け入れる取り組みが必要となるだろう。また、国も海外からの移民受け入れを積極化する努力をするべきである。農業については、カロリーベースで40%になった食料自給率の高低にこだわる必要はない。まず農家を保護するという硬直した姿勢を見直し、国内の農業の生産性を高めることで国産品の価格を下げて輸入品と競争できるものにしていくことが求められよう。輸出の強化にも努めるべきである。教育については、優秀な教員が綿密な教育を施し生徒たちの学力を上げることはさることながら、そうして育成した優秀な人材が海外に流出しないよう、前向きな変革を推進するべきだ。マーケットについては、日本経済の縮小均衡過程においては日本のマーケットプレイヤーの数が減少していくことは必然なので、円が人民元に勝ってアジアの基軸通貨になる云々ということよりも、まず足場を固めることに専念する必要がある。

――派遣の問題については…。

上野 派遣の問題については、景気が良い時は何も議論しないで、景気が悪くなってから「製造業の派遣をやめろ」というのは、どこかおかしい。突き詰めて考えれば、日本の国内需要が非常に弱いので、海外の需要が落ちるとたちまち会社自体が疲弊してしまって雇用を切り、雇用や設備投資を圧縮するということだ。日本の人口動態に根ざした内需の弱さがベースにあることを見つめ直すべきであり、派遣問題を善悪論で議論するだけでは仕方がない。また、新産業の育成で需要を喚起することも必要だ。それには、わが国がまだ誇ることができる技術力の高さなどで国力衰退をカバーしていくべきであり、そこでは根底としての教育の問題が重要だ。長期的に日本経済の将来を大きく左右する義務教育において、長年にわたりゆとり教育が漫然と続いたことは残念だ。能力とやる気を兼ね備えた優秀な教員の増加対策も、これからは必須となろう。

――いま各国が利下げ競争に踏み切っているが…。

上野 日銀は2006年に量的緩和解除をして金利を調整する金利ターゲットに移行した。当初はゼロ金利政策がとられていたが、同年7月にはこれを解除、0.25%の利上げを決定した。さらに翌年2月に追加利上げが行われ0.5%になった。このように虎視眈々と利上げを狙うことの多い日銀だが、金融政策のラグ(日銀によると1年半〜2年)を考えると、明らかにこの追加利上げは失敗であったと言える。デフレ脱却を果たしていない今の日本経済に、インフレ予防の利上げは必要ない。今後も人口減少・少子高齢化が進むなか、歳出の削減や消費税率引き上げといった財政政策面での引き締めが行われることになるだろう。その分、日銀は緩和的な運営をして、経済政策のバランスをとっていくのが望ましいように思われる。(了)