西日本シティ銀行 頭取 久保田 勇夫 氏

西日本シティ銀行 頭取 久保田 勇夫 氏

市場に規律を持たせ経済再構築を




――タイで久保田さんのお名前が挙がったが…。

久保田 私は大蔵省やかつての海外経済協力基金(OECF)で途上国援助の政策に長い間関わった。タイは円借款の大口享受国、しかも優等生であった。ベトナム、カンボジアについては1990年代前半、そのIMFへの債務不履行解消のための国際会議に深くかかわった。ベトナムの会合では日本代表だったし、カンボジアの会合では全体会議の議長だった。そういうこともあり、国際金融界では、日本よりは名が売れている(笑)。これから欧米の経済成長は低下し東アジアの成長力は相対的には高い伸びを示すだろう。その点で世界のフレームワークの修正について日本が貢献すべきだと思う。いずれも私が個人的にかかわったところだが、84年の円ドル委員会、94、95年の日米金融協議、そして93年に世銀が発表した『東アジアの奇跡』でも問題になったが、今こそ米国はただ単に経済を市場にまかせるということでなく、市場に規律を持たせることを考えるべきではないか。その役割は当然政府が担うことになる。米国は小さな政府を標榜してきており、経済の仕組みがどういう風に国民の利益に合致するかといった厚生経済学とは無縁の世界だった。全体の利益になっているかということからのシステムの再構築をすべきだ。これはジョージ・ソロスでさえいっている。そして、長期的な観点から物事を考えるべき。新政権の下では米国は日本、アジアが伝統的にもっている価値観をもっと受けいれてほしい。幸いオバマ大統領は機能する政府を目標に掲げたり、短期的利潤だけ追求するのはよくないと謳っている。新しい財務長官であるガイトナー氏は鋭敏な頭脳の持ち主であるが弾力的な思考をする実務家である。1994、5年の日米金融協議の時には私が日本側の、彼が米側の議長であった。それから、アジアの多くの国は日本と同じ考え方をする国が多いが、先進国である日本はそういう主張を主導する役割があるのではないか。

――銀行の経営哲学についてお聞きしたいが…。

久保田 日本の金融界は競争の初期的な状況にある。オーバーバンキングなどといわれているが、民間の銀行の数が問題なのではない。人的、物的なものを含めて、官民の金融部門にリソースが多すぎるのが問題なのだ。国民経済的観点から、その中でも特に公的部門が多過ぎるため、その縮小が急務のはずだ。ひるがえって当行の経営についてだが、ほかの地銀と差別化をはかることとメガと差別化をはかることが何より大事だと考えている。ほかの地銀との差別化という話だが、第一級のサービスを提供することが重要だ。ほかの地銀にはない最先端のサービスを提供することだ。また、メガとの差別化においては、本当に地元の顧客の立場に立って考えるということだ。つまり地元の企業の立場にたったうえでサービスの提供をする。例えば、メガはとにかくM&Aの紹介をしてそれによって得る手数料をもらえばそれでいいのかもしれないが、地銀はそうではない。そのM&Aの内容が本当にその企業にとって有益なのかに格別の注意を払う。また地元企業には栄えてもらいたいので、M&Aをした後のフォローアップまでする。銀行は90年以降の失われた10年の間に貸出額を縮小したが、その際例えば九州の企業に対する貸付額については、メガは全体の3割を縮小したのに対し九州地銀の縮小はわずか3%だったといわれている。そもそも我々は地元から逃げられない運命共同体なのだから、その点でメガと大きな差をつけることは十分に可能だ。

――今後の具体的な目標については…。

久保田 当行は西日本銀行と福岡シティ銀行という、相互銀行としての歴史を持つ2つの銀行が合併してできた。定期的に有力なコンサルティング会社に合併の効果をチェックしてもらっているが、その直近の評価によると、この合併はわが国で非常にうまくいっている数少ない例だという。この点は昨年の「日経ビジネス」でも取り上げられている。合併してから今年で5年目だがうまくいくためのコストも払っている。例えば、昔の泥臭い迫力が落ちたのではないかということだ。ビジネス面で弱くなったのではないか。西日本シティ銀行はいうなれば早稲田ラグビーであった。何よりもチームプレーを大事にしていた。一方、福岡シティ銀行は昔の明治ラグビーであった。個人の技でとにかく前に突進しようとした。そして、両行とも、とにかく額に汗してひたすら突撃したはずだ。ところがいま、当行はこの額に汗して突撃する力が落ちているような気がする。これをなんとか取り戻したい。今年の方向の一つに「どぶ板作戦」を掲げているのはそのためだ。

――ご自身の中での課題は…。

久保田 当行は多くの課題を持っているがその中で採りあげるべきプライオリティの選択をまちがえないこと。そして、その課題達成のためこの4000人の組織がどの程度の速度なら耐えうるかを見極めること。耐えうる最大の速さぎりぎりで走らせるということが大事だ。また、かつて公務員であった者としての立場からは、監督当局と金融界の相互の信頼関係の回復・強化が大きな課題であると思う。監督当局も最近は様々な方法で努力しているようだが、その努力を続けてほしい。銀行界も監督官庁も変わりつつあることをより深く認識すべきだ。(了)