グローバル経営研究所 代表取締役 田村 達也 氏

グローバル経営研究所 代表取締役 田村 達也 氏

企業統治に社外取締役が必要


――欧米に引き続き、日本でも上場企業に株主総会の賛否票数を開示させようという議論が行われているが…。

田村 票数を開示しないというのは投資家には理解しにくい話だ。総会に実際に出席して賛否を投ずる人の数まで含めた正確な投票結果を集計するに時間もかかるのでこれには応じたくないという会社側の考え方も判る。しかし、ほとんどの企業では総会開催日までの議決権行使の集計結果で各議案が可決されるかどうかが確定している。また最近では大手投資家の反対で否決される可能性のある議案は会社側が事前に議案を修正して総会で無事可決されように対応することが多い。従って総会日までの事前の議決権行使で決着がついているわけであるから、会社側がそうした表決数を公表しない理由は無いわけである。株主の表決数開示要求に応じないという態度は、投資家を無視している、経営者の横暴がまかり通っている、といわれても言い逃れできないはずだ。

――欧米では社外取締役の設置をはじめコーポレートガバナンスがしっかり根付いている…。

田村 日本は持ち合い株が多いといった背景もあり、コーポレートガバナンスは未だに確立されていない。経営と監督は分離されていなくてはならないのに、経営の監視が不十分だ。欧米では300〜400年前から出資者が集まって会社を起こし、力のある経営者を雇って経営を任せ、出資者は取締役会を通じて、経営者を監督するという仕組みが出来上がってきた。これに対し日本では、国が会社を起こし役所が強い影響力を及ぼす時代が続き、戦後には銀行が監視役を担ってきた。しかし、企業の自己資本の増加や銀行の力の後退により次第に監視が効かなくなったため、経営者を監視する仕組みのない時代になった。日本特有の持ち合い株制度もガバナンスが欠如する温床である。株を持ち合っている相手会社の経営者をサポートすることによって、相手側からも自分の経営をサポートしてもらう構造になっているため、持ち合い株主には投資先企業の経営を監視する意識などもともと無い。経団連は日本では監査役を強化しているから問題ないという立場であるが、監査役では本来のコーポレートガバナンスは徹底しないと考える。監査役は経営者が法令違反を起こしそうな場合は差し止める権限を持つが、経営者が一般株主に不利益を及ぼす巨額の第三者割り当てを決めたり、会社の資金を企業価値増大に結びつかないような目的に投入することを防ぐ権限は無い。また、経営者の選任や報酬の決定などでも監査役はなんら監督機能を果たせない。経営者と個人的利害関係のない独立の立場の社外取締役を取締役会の主要構成員としなければ、経営者による経営の私物化などを防ぎ得ない。

――社外取締役については金融界で議論が行われている…。

田村 社外取締役設置を東証の上場規定で義務づけるといった議論もあるが、金融審や経産省の委員会でも一部に強い反対意見が出ているので、東証独自の規制で実効を期すのは困難と思われる。会社法に「社外取締役」という用語が用いられていることもあり、法律改正をして、本来のコーポレートガバナンスと整合性が取れるよう社外取締役の要件定義をする必要がある。日本では2002年の商法改正で社外取締役が過半数を占める指名委員会、報酬委員会、監査委員会を内部に置く委員会設置会社という制度ができたが、その後ガバナンス改革はなかなか進んでいない。日本の上場企業の97%が監査役設置会社であり、委員会設置会社はわずか3%しかない。また委員会設置会社でも、子会社の社外取締役に親会社の幹部を置いているといった企業もあり、これだと本当の意味のガバナンスとは言えない。さらに、エンロン事件のように社外取締役がいてもその人達が経営者に高報酬などで、事実上買収されていたため、不正が見逃されてしまう例もある。破綻したリーマンブラザーズの例を見ても分かるように社外取締役と経営者がお友達同士のような馴れ合いの関係になり、制度自体が形骸化する例がしばしばみられる。このため、日本では社外取締役の導入を義務化しても役に立たないという意見も出ているが、だからといって社外取締役を一人も置かないですむ、現行の監査役会社で充分だ、日本のコーポレートガバナンスは充分だという理由にはならないだろう。とにかく指導者というものは監視されないと堕落するものだ。とりわけ経営者は大きな権力を持ち、阿諛追従に囲まれる存在であり、勘違いを起こしやすくなる。そのためには、やはり誰かが監視、監督する仕組みが必要であり、日本の現状を勘案すると、独立した社外取締役を一人でも置いていくことを義務付けることから始めるべきではないか。(了)