農林中央金庫 副理事長 河野 良雄 氏

農林中央金庫 副理事長 河野 良雄 氏

グローバル展開の技術を研さん


――金融市場の大混乱の中、今年4月から理事長に就任される…。

河野 重い十字架を背負って急な坂を上るような感じだ。そうは言っても倒れるわけにはいかない。農林中金はJAバンクの全国組織としてその余裕資金を運用するという「農林中央金庫法」 という他の市中銀行とは全く別の法律に基づく唯一の全国組織だ。JAバンクの80兆円を運用して各所に還元したり、色々な企画やシステム構築をするという大事な機能を我々が担っていると自覚している。今回増資して頂く最大1兆9,000億円の資本をバックに、農林中金に与えられた責務を果たすのが私の役割だと肝に銘じ、いつか辞める時には、「就任した時よりも良くなった」 と言われるようにしたい。全体として日本の農業は縮小している中で、農業者なり農協なりをどうやって存在感ある組織として継続させるかという問題を、少しでも前進させてなくてはならないと思っている。

――今回、資本増強額最大1兆9,000億円は巨額だ…。

河野 これほど会員の皆さんに協力していただけることに心から感謝している。協力していただくには相当な批判もあったが、メンバーの人たちも、最後には「農林中央金庫をこれから支えなくてはならない」 ということで納得をいただいた。それは涙が出るほど有難かった。増資をしていただいたことに対してきちんとしたリターンを返し、要請されたことについてきちんと応えることが私の責務だと思っている。

――一番堪えた批判は…。

河野 「農中が本来の農林水産業などに対してあまりコミットをせず、身近なところの相談などを聞いてこなかった。」という意見があった。確かに我々にもそういった部分があったのだと思う。8年程前、我々はビジネスモデルを変えてグローバル展開をした。特に米国に進出し、今一番問題となっている証券化商品など、金利リスクをとらずに信用リスクをとるようなマーケットにシフトしていった。それは日本の超低金利下もあって8年間上手く機能していた。結果論からしてみれば、それは世界全体が4〜5%の経済成長をし、右肩上がりだったということもあるのかもしれないが、比較的そういった流れの中で順調にいき、この8年間で、当初は1,000億円にも満たなかった経常利益が、昨年は3,500億円くらいまでに、3.5倍に増やすことが出来た。系統にも還元し、内部留保もその8年間で1兆円程度になった。系統の皆様からしてみれば、うまく行っているうちは言い出しにくい部分もあったのかもしれず、8年間いろんなところに不満が鬱積したままになっていて、それが今回一気に批判として爆発したのだと思う。日常のメンバーとの接触や、我々の経営内容の開示についても不十分だったかもしれない。相手にしてみれば詳しく聞きたかったことであり、それを「十分でなかった」と指摘された時には大変堪えた。


――今後、農中がシフトしていく先は…。

河野 やはり国内マーケットだけで58兆円の資金を運用し、ある程度のリターンを返すのは難しい。今の日本のように高度成長が終わり人口が減っていくところにおいてはイールドがたたないため、やはりグローバルな展開は避けて通れない。ただ、今までは審査などは格付機関の格付けをある程度利用しながら運用したり、米国のインベストメント・バンクと一緒に投資をする際のチェック体制のあり方など、改善すべき点がある。系統全体(JA、信連、農中)で海外の業務が出来るのは唯一農中だけに与えられた権能だ。ただ、安全に運転してほしいというのがメンバーのニーズでもあるため、それに応えることが必要だと思っている。それには色々な技術を磨いていかなければならない。そのために1〜2年間は立ち止まって体制を整える時間をもうけ、グローバル展開を再考していくつもりだ。


――証券化商品の処理は…。

河野 証券化商品とは言っても不良債権とは違い、我々は90%以上の証券化商品について、かなり安全でハイグレードなものに投資していた。そのため、あまりリターンは高くなかったものの、今保有している商品には全て利配がきている。確かに現在は投売り状態で価格も大幅に下がって含み損はあるが、償還まで持ち続ければ100円で戻ってくるというものだ。ただ、今のバーゼル?規定では含み損を自己資本から引かなければならず、それにより金融機関として必要な8%以上の自己資本が維持出来なければどうしようもない。我々の含み損は昨年9月末に1兆5,750億円。現在はそれよりも多くなっている。今後も続くであろう市場変動に耐える自己資本を持ち続けるために最大1兆9,000億円という資金をいただくことが出来て大変感謝している。証券化商品も償還100円まで持ち続けるということで、含み損も自然に解消していくだろう。

――自己資本比率規制についてのお考えは…。

河野 危機の時には、規制があまり固定的なものだとかえって社会的コストが高くなる。ただ、現在投売りされている資産について理論時価に適応して良いという考えや、国内株式の減損は入れなくて良いという考えについては、危機管理モードに入ってバーゼル規制をクリアするために、大変適切な対応だと思う。それは金融機関を助けるということではなく、社会的なコストを下げるというためだ。自己資本比率規制が足かせとなり、貸し渋りが起きるということも現実にあることだと思うが、そうした工夫をして自己資本を維持するのは、基本的に金融機関としては当然だろう。


――今回、アジアの成長率はそれほど下がっていなかったが、グローバル展開の中身が今後アジアに移っていくようなことは…。

河野 我々は今、海外運用は殆んどドル資産でユーロが1割弱。そういったことからひとつの反省として地域への集中リスクがあげられる。リスク分散がなされていなかったということから、アジアやオセアニア、南米なども含めて分散する必要があるとは思うのだが、その前に、今回の反省が色々とあるため、それを含め、その反省の後にアジアなどの地域展開を推進していこうと考えている。(了)