衆議院議員 小池 百合子 氏

衆議院議員 小池 百合子 氏

構造改革を怯んではいけない


――リーマンショック以降、市場経済の失敗が叫ばれ、最近は世界的に公共セクターが肥大化してきているが、その中で、今後日本の構造改革はどうなるのか…。

小池 私はここで構造改革を怯んではいけないと思っている。市場の失敗はウォールストリート発であり、その震源地であるサブプライム問題については、市場のチェック機関が機能していなかったことが挙げられる。例えばスタンダード&プアーズ(S&P)のような格付機関の責任も大きい。かつて長銀の倒産など日本のバブル経済が破裂した時も監査法人の責任が問われた。チェック機関をどのように考えていくのかが重要だ。また、私が最近非常に驚いたニュースは、NY証券取引所の会長による詐欺事件だ。1株も売買せずして巨額の富を築き、それを誰も疑うことなくやってきたことだ。CSRやディスクロージャーが厳しくなってきている現在で、大元のチェックが実はすっぽ抜けていたことを知らしめた例だろう。

――市場の失敗というより、チェック機関が機能していなかったと…。

小池 日本は今回の金融危機の煽りは少ないはずなのに、実体経済は非常に痛んでいる。構造改革の行き過ぎが問われているのは製造業の派遣やタクシーの規制緩和の問題などだろう。派遣の問題は女性など、被雇用者としても柔軟性ある雇用形態であり、全廃は疑問だ。これまで何でもお上に頼ってきて、お上のさじ加減でやってきたことを改め、今度は規制緩和で日本にニューカマー参入によるイノベーションを起こし、市場全体を広げていこうと構造改革を進めた。それをまた縮小して権限を役所にもたせることが本当にいいのか。私はそうではないと思う。金融の面で言うならば、金融庁ができる前に豊田商事事件が起こった。それをきっかけに山ほど新たな規制が設けられた。日本は事件があるとすぐに政府を訴える。政府は何をしていたのかと。そういいながらも役人主導は許さないという。監督すべきところは的を外さないことだ。さもなければ、結局、市場の信頼も、政府への信頼も両方なくすことになると思う。今、構造改革を全て悪だと言っているのは、これまで既得権を持ち、それが削がれた人たちによる巻き返しと受け止めている。しかしそれが日本の将来あるべき姿への正しい道かと言えば、そうは思わない。見直しすべきところは見直すべきだが、たんなる先祖がえりは、日本にプラスではないだろう。

――逆行は許されないと…。

小池 中国では前週、全国人民代表大会で8%成長の目標を発表した。中国が今回の金融危機で受けたダメージは非常に大きい。しかしながら、その危機感を中国では共産主義の権力を基礎に、スピーディーに引っ張っている。このスピード感は日本が見習うべきところだろう。日本にスピード感が欠如しているのは国家の司令塔がうまく機能していないからだ。国会の混乱もあるがリーダーシップの問題がそれに輪をかけている。定額給付金の問題ももっとスピーディーに行なえばさらに効果はあったと思う。今、世界が競うべきはビジョンとスピード感だ。それは決断のスピードであり、決断は信念の問題だろう。


――小泉元首相ほどのスピード感があればいい…。

小池 小泉元首相はスピード感と同時に明確なビジョンがあった。大義と共感をもとに、国民が一丸となって同じ方向に進むことが出来た。さもなければ小泉さんに対しての評価ももっと違っていたと思うが、一方で、スピードを持って行ったがために、今、その恨みを買っているとも言える。今の日本の構造改革のゆり戻しは多分に怨念的な部分もある。それは決して健全な日本の発展には繋がらないと思う。時代は確実に変わっている。

――構造改革の目玉である郵政民営化については、一部の資産が不当に売却されているという批判が出ている…。

小池 これも既得権者による巻き返しのひとつだろう。構造改革と同様に民営化もスピード感が必要だが、スピーディーかつ効果的に資産を売却するために、バルクセール、まとめて売却するのは経済の合理性からくるものだろう。ゆっくりと一つ一つ売却していると、売れるものも売れない。その間も資産価値は下落し、コストはかかる。また、一度決めた入札や結論を変更すれば、「これからも政府が行なう入札は途中でひっくり返される」 というような、政府への信頼感をなくす心配がでてきたのではないかとも思っている。

――二世議員の失態や官僚の抵抗など、構造改革に反対している人たちの足の引っ張り合いが激しいようだが、既得権益を断ち切る対策は…。

小池 小泉元首相などは三世議員だが、既得権益を強力に断ち切ろうとした。一言で言うなら、人物次第だろう。さらに言えば、二世議員、三世議員が手を挙げればそのまま遺産相続のように議員になれるわけではなく、そこには選挙があり、そこに票を投じている人たちがいる訳だ。既得権益か、慣れ親しんでいるからかは判らないが、結局有権者のマインドが変わることが最大の要件だろう。政治素質が後継者にあるかないは、まず自らが判断することだと思う。例えばアメリカでもヒラリーが国務長官となり、NY州の上院議員のポストが空いた。そこで下馬評にあがったのはJFケネディの娘であるキャロライン・ケネディだった。しかし結局42歳の女性下院議員がヒラリーの後釜となった。資質や経験が問われた訳だ。ヒラリーにしてもファーストレディだったからという訳ではなく、その力量を感じる人が多かったからこそ、NYで上院議員になり、大統領選に出馬して、という流れを踏んでいる。日本では、父親が亡くなって、急遽出馬し、自分の意志とは関係なく議員になった人もいるが、自分にはやはり議員職は合わないと思った人は辞めた例もある。ただ、親からの遺産のようにそのまま選挙区を譲り受けると、支持者や後援会などのしがらみも一緒についてくるため、まったく別の地域から出るなどしたほうが、結果として本人にとってはいいかもしれない。1人の人間としてゼロから勝負して有権者の支持を積み重ねていくのは大切だと思う。


――政治家が、役人の既得権益をなかなか切り取ることが出来ないように思える…。

小池 役人から議員に転向した人は沢山いる。行政府の仕事に特化してやるか、土日も潰して選挙活動をしているか、時間の配分の違いは大きい。役人の時に能力のあった人が、政治家になったら能力をなくしたかといえばそうではない。今ある「渡り」の問題が霞ヶ関互助会の役目を果たしているのだろうが、国民には関係のない話だ。かといってこれまでの生涯設計が崩壊し、ハローワークに行って下さいと言われれば、戸惑いがあるのは当然のことだろう。生涯収入を計算に入れて、職業選択の時点で、公務員生活を選んだ人たちだ。それが、退職後の行き場もない、給料も下がるとなると、「話が違うよ」という事になる。しかし民間であれば超有名企業に入社したものの、経営次第で、社宅を失うどころか、倒産の憂き目にもあうケースは当然ある。いや、そういうことがないから公務員を選んだのだろう。私は、本当に能力がある人には強力に国を引っ張っていってもらいたいと思っている。民間でも、子会社、孫会社への天下りもある。いずれにせよ、国の設計を変えざるを得ない時期に来ているし、国にとって人材をもっと有利に生かせる道はないのかとも考えている。また、私が大臣をしていて感じたことだが、キャリア官僚達も一、二年でポストを変わるため、万遍なくジェネラルな知識は有しているが、スペシャリトストかというと疑問はある。

――私の分野の金融市場で言えば、市場と金融庁との間に距離が出来てしまったため、当局が市場のことを理解できにくくなっている。このため、役所と民間の垣根を取り払い、出入り自由にすべきだ…。

小池 ご承知のとおり、米国SECの初代委員長がインサイダー取引など数々の手口を駆使していたジョセフ・P・ケネディだったことを参考にすると、その手の内を全部わかっているスペシャリストが必要だ。結局見過ごしてしまうからだ。社保庁の問題にしても、結局、スペシャリストというよりは、次官ポストを逃した人が一、二年の間、我慢してトップについていたというケースが多い。天下り先も、その分、厚遇されたという。もっとプロの人材を上手く活用したり、役所の人間が民間に出向し、現場で経験を積むということが必要だと思う。いわゆる回転ドア、民間と役所の人が自由に入れ替わるような仕組みも検討に値するのではないか。再任用制度だ。よく民間の人達から「 役人は現場をわかっていない」 との声を耳にする。為替などの金融関係こそ、現場の事情に通じていなければならないのは当然だろう。色々な工夫をすることで、公務員の組織を活性化することが構造改革にとっては重要なことだと考えている。(了)