セブン銀行 代表取締役社長 安斎 隆 氏

セブン銀行 代表取締役社長 安斎 隆 氏

BIS規制1年停止を


――米国は金融危機の処理に手間取っている…。

安斎 米国が行った今回の公的資金注入は、金融システムを守り、維持するためのものだ。金融機関の職員の給料を補填するものではない。起こってしまったことは仕方がないとして、それに対する次のアクションとして、金融システム、人間で言えば心臓を中心とした血液の循環メカニズムシステムが悪くなった原因を早く除去しなくてはならないということだ。私はかつて、一時国有化された日本長期信用銀行(以下、長銀)の頭取として最終処理を手がけたが、長銀で退職金を貰って辞めていった経営陣に対しては5億数千万円を返還してもらった。これは世界でも稀なケースで極めて日本的だ。国民批判があったからかもしれないが、彼らには、自分達が育てた銀行が公的機関になってしまったということに対しての反省があった。これはもっと評価されるべきなのに、マスコミ、その他はそういった評価はせず、最終的にかかる莫大なお金のことを心配して問い詰めた。これが今、米国で起こっていることだ。メリル・リンチに公的資金が注入され、バンク・オブ・アメリカに救済合併されるという事態が起こって皆がその酷い状態を認識しているにもかかわらず、実はその後、経営陣に賞与として日本とは比較にならないほどの莫大な金額が支払われるということは、契約の問題があるからとはいえ我々の感覚からしても理解出来ない。国民感情を逆なでするのは当然だ。

――日本の当時と同様に国民の怒りが渦巻いている…。

安斎 国民感情は議会の反発という形で表れる。「潰せるものは潰せばいいじゃないか」という声も出てくる。しかし、潰せるものが小さいうちはいいのだが、大きくなると信用不安を拡大する。それが米国の金融システムに対する不信感をもたらす。今、米国で財務省やNY連銀が腐心しているのは、過去の経常赤字の累積分を含めて大量の資金を調達しなければならない中で、どうやって不信をもたらさないようにするかだろう。しかし今の米国の光景は、市場経済のリーダーとして議会対策も国民対策もスムーズに行うのかと思えば全然そうではなく、11年前の日本を彷彿とさせる。そういう意味では、スウェーデンのような人口が少ない国では不良資産問題が起こっても非常に短時間で適格に処理を進め、すばやく解決していると感心する。

――ガイトナー米財務長官は「日本の二の舞はしない」と言っているが…。

安斎 ガイトナー米財務長官だけでなく、サマーズ国家経済会議(NEC)委員長も去年のダボス会議では「邦銀と米銀は全然違う」と言っていたと聞く。それが、一年経ったら、邦銀よりももっと悪くなっているというのが実状だ。国民感情が処理を遅らせているということに加えて、抱えている不良資産の内容が非常に複雑だったことも理由。時価評価が難しいこともあるのだろう。日本の場合も本当に最悪の状態になった時は、不動産価格がわからず取り引きがストップした。収益還元法という計算法も、奈落の底に陥っている時には成立しない。しかし当時、私が米国金融経済をリードする彼らにアドバイスされたことは「時価で評価し、投売りすれば買い手が出てくる。1人、2人と買い手が出てくれば、そこで底入れが始まる」ということだった。しかし、今回米国ではそれを有価証券化してより複雑な商品にしていた。サブプライムローンだけが完全に分離されていればまだよかったが、そこにCDOなど色々なものを詰め込んだ。だからといって、こんな状態をいつまで放っておくのか?米財務省やNY連銀がいくら金融機関を保証したところで、心臓という循環機能のキー部分は動き出さない。金融機関が市場から信用されるようにしなければだめだ。

――不良債権をきちんと時価評価して切り離すということか…。

安斎 不良資産を切り離すと、国が大量国債を発行してそれを買うことになる。その額は米国では4兆ドルとも言われている。巨額なだけにそういうことをしない方法を考えなければならない。私は今の資産状態を、無理をしてでも理論価格のようなもので評価し、一旦、資産価格を確定させる必要があると唱えている。その後ロスが出たり、利益が出たら、国と銀行がその分についてシェアすればいい。今の問題はいつまでもこれを抱えていることだ。最後まで保有し続ければ、もしかしたら最後に利益が出るかもしれないが、それではいつまでたっても市場からは信用されずに金融システムは機能しない。

――時価会計においては、資産の流動性に基づき3段階分類を用い、レベル3の時価算定が困難な場合には、経営者の合理的な見積もりによって算定される方向となっている。このような会計は少し甘いのではないか…。

安斎 それはバランスシートの信用問題。同じように、BIS規制のために、シティバンクが特別会社を作りそこに多額の資金を持たせて規制逃れをしているような事態もある。また、日本では自己資本に株式の含み益を入れている。私の意見としては、含み益など入れずに「あと10年かけて8%以上にします」としたほうが余程良かったと思う。次の金融サミットでは規制強化ではなく、出血している傷口をどうするかを考えなくてはならない。まずは不良債権の分離など信用回復への努力を確固たるものとし、その後にBIS規制などの規制強化をどうするかを考えなくてはならない。このため、私は、例えば一年でもいいからBIS規制の一時停止をするべきだと思っている。

――自己資本規制を休止して、迅速な処理を行い、それから再構築だと…。

安斎 そこに時価の部分も付随してくる。しかしそうすると、信用できない金融機関があふれ出てくるだろう。あるいは本当に潰れそうな銀行を隠すためにやっているのかという問題もでてくる。しかし、世界的にこの問題を提起出来るのは日本しかいない。日本の金融機関の痛手は比較的少なく、BIS規制にもともと抵抗していた日本だからこそ、こういうことを提言できる立場にあると思う。

――米国の金融政策については…。

安斎 こんなにだぶついている金融では駄目だ。このまま行くと、この溢れたお金がどこで悪さをするかわからない。循環しないメカニズムの中に資金が過大に供給されても意味がない。こうした莫大な資金の供給と低金利を続けるといつかインフレが一気に起こってくる恐れがある。これはいつか、どこかで来た道という感じだ。今のアメリカは完全なインフレ政策をとっている。ひとつ言えるのは、勉強だけしているエコノミストには本当の金融がわからないということだ。「日本の二の舞はしない」というよりも、日本の経験を謙虚に活かして、世界に波及させてしまった金融危機を早期に収束させてもらいたい。(了)