日本リスク・データ・バンク 代表取締役社長 大久保 豊 氏

日本リスク・データ・バンク 代表取締役社長 大久保 豊 氏

信用コストに連動した貸出金利を


――今回「プライムレート革命」という著書を出版された…。

大久保 これは、今の日本の金融市場をどこかで改善しないといけないという思いから書いた本だ。現在、企業の資金繰り支援についての政策期待が非常に大きいが、私は信用保証協会の保証枠拡大など、単純な政府保証の拡大には反対している。その理由は、政府保証の拡大は、民間貸出市場の自立性を損ない、結果、国家がずっと保証し続けなくてはならない国家頼みの金融システムになってしまうからだ。そのような市場では、たとえ銀行に国家が資本注入したからといって、銀行がプロパーで積極的にお金を貸すかといえば、貸さないし、貸せない。プロパーで合理的に貸せるとしたら、金利に見合うものくらいだろうが、そんなに金利も取れない。国家頼みの金融システムでは、リスクに見合った金利というプライシングが成り立たず、自らリスクをとれる銀行は決して育たない。そこで私が考えたのは、市場金利にしか連動していないプライムレートを信用コストに連動させるように、社会的な仕組みとして樹立させるこということだ。プライムという言葉を「標準レート」に変え、ある会社にはそれより高く、ある会社には低く金利を設定するという方法が、今後、必要になってくるのではないかと考えている。

――マーケットレートにデフォルト率を加味したプライムレートにする…。

大久保 日本の完全平等主義意識からか、零細企業ですらプライムレートで議論している。それはどう考えてもおかしいだろう。今やらなければならないことは、プライシングのメカニズムを機能させて、お金を流通させることだ。そして、今のようなあまりに酷いクラッシュ状態の時は、時限的に一年でも二年でも国が利子補給を行うべきだ。「一年経ったら利子補給はなくなります」というような条件を課し、その間に自分たちの財務体質を向上させる。財務体質が良くなればその分金利は下がる。重要なのは利子補給をする時に企業に対して、本来のリスクに見合った金利の水準を示し、利子補給が時限的な措置であることを明らかにしておくことだ。


――振り返ってみると、日本は戦後30年ほど大蔵省、興銀、都銀、地銀という体制が敷かれ、預金は全部国が保護するというやり方をしてきたため、中小金融機関は自分でリスクを探してお金を貸すようなことをしてこなかった。都銀でさえその能力がどうも乏しい。だからこのような局面になると、なにもかも保証という話になってしまう…。

大久保 本当は今、社会的設計をしなくてはならないのだが、過去の延長線上での金融政策を行ってしまっている。確かに目下の状況は、2002年の金融危機時よりもデフォルト率が高くなっており、原則論だけでは立ち行かないのも事実で、とりわけ中堅企業のデフォルトが多いことは危惧している。中小・零細企業には保証協会があり、大企業については日銀のCPおよび社債の買い取りなどもあり、資金繰りは一服してきた。一方、中堅企業は何のセーフティネットもなく、銀行からのプロパー融資だけだ。信用保証協会の保証は無担保で最大8千万円。年商が10億円を超えるような中堅企業においてその額は焼け石に水といったところだ。やはり3〜5億円のキャッシュが必要となる。今はさすがに百年に一度の経済危機なので、一時的に保証し、保証したものは基金を設立して買い取り、時期が来たら普通の金利に戻すというような対策もあってしかるべきだ。しかし、合理的な考えで資金繰りを改善するためには、リスクに見合ったリターンが得られるような金融システムにすることだ。それを形成すれば資金は市場メカニズムを通じて流れていく。

――保証した債権を新しい基金で全て買い上げると、銀行にはキャッシュが残って、債権は新しい基金に入る。そこで利子補給をするか実勢で金利をつけるか、ローンが変動した時に個々対応するということか…。

大久保 今回のような危機に限っては、最初、国が保証する時には全額保証してもらうのもやむを得ないだろう。それを受ける人たちは当然一番安い金利で借りられる。それがプライム金利だ。ただ、その時には本来の金利を一緒に見せてもらい、時限が来た時には、本来の金利で借りられるような社会システムにしておく。あとは基金に頼らず、それぞれの銀行と取り引きすればいい。ただ、本来的には早期に利子補給に切り替えた方がいいとは思っている。なぜならば、利子補給は元本保証に比べて、財政負担額の不確実性が格段に小さいからだ。今後1〜2年後には倒産が相次ぎ、そこで新たな財政負担が出てくることが予想される。それが結果的に国にとってどれくらいの負担になるのか、読めないことには財政不安の要因になる。

――その基金の想定規模は、一体どの位なのか…。

大久保 新たなセーフティネットが必要な中堅企業の層を対象とするならば、これが現在約10万社ということを踏まえると、私個人的には5兆円くらい必要だと考えている。

――しっかりした金融機関であれば、きちんとリスク&リターンを判断し、貸し出しが出来るのかもしれないが、一方で、これまで国債や金融債を買って運用していたような下位の金融機関にとっては、リスク&リターンとを判断するような人材がいないという意見もあるのではないか…。

大久保 確かに、ある程度規模がないと知的な企画集団は形成できない。結局、小さな銀行においては格付け制度や信用ポートフォリオ運営の専門家を育てるのも難しい。だから、そこには共同のアウトソーシングセンターを作ればいい。我々のシステムも色々な銀行に使ってもらっているが、このように各銀行が自ら何かを作るのではなく、商品の企画を含めて共同センターにすると、銀行もその分負担が軽くなる。新商品の開発も、規模が小さくて単体では取り組むのが難しいのであれば共同でやればいい。

――そうは言っても実際のところ、中小・零細金融機関でそこまで問題意識が強いところは少ない…。

大久保 それに加えて保証という存在が、余計に問題意識を働かせなくしてきた。国家保証が付いているにも関わらず金利が高いということすら問題にならなかった。しかし、その裏には結局、銀行が儲けていて、潰すと地域の資金循環がうまくいかなくなるという悪循環が存在している。ここはやはり、新しい銀行の担い手を発掘し、競走させ、刺激していかないことには、なかなか技術革新は難しいだろう。今の日本には、事業家として、銀行家として、誠実な意欲ある人材が必要だ。とにかく人間を抱えているのは地銀であり、彼らがオリジネートするところを最大限に引きだすような組織体制に改変すべきだと思う。(了)