緊急記者座談会

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自己資本へのストレス続く


――外銀が好決算を発表しているが、これはどう考えてもおかしい。時価開示が軽視されている…。

 しかし、本来の金融機関の役割に沿って、ずっと昔に戻ってみると、お金を返せる人に貸すのが金融機関の役割だったはずで、お金を貸せるか貸せないかが重要なだけだ。つまり、時価開示を正確に行った結果、貸せなくなるならば時価開示は凍結した方が良いということだ。
 しかし米国はご都合主義だ。かつて日本が金融不安のときには、市場の不安をあおるといって日本の時価開示の凍結や空売り規制を強く批判したにもかかわらず、自分が窮地に追い詰められると全く逆のことを主張する(笑)。
 しかし、邦銀はあの時、不良債権をひたすら隠そうとしたからね。
 それは今の欧米の銀行も同じだ(笑)。前週発表されたストレステストの結果を見ても、正直にすべてを発表したら株が大暴落するということで、極めて控えめな数字を出しているという感じだ。引当金にしても各行とも恐る恐る他行をにらみながらの発表という印象が強い。
 いわば不良債権という『がん』が大きくて、もはや切除できないため、公的資金という点滴を打ちつつ金融の大幅緩和という集中治療室に入れて、時間をかけて『がん』を散らそうという作戦だ。だから、欧米経済の回復にはまだまだ時間がかかると思う。
 景気の本格回復が遅れる一方で、政府が大量のお金を供給しているとなると、マーケットが心配するのはハイパーインフレや通貨の暴落だろう。
 そこは心配して然るべきだが、少なくとも今のところインフレ懸念は、真剣な議論にはなっていない。また、主要国は過去10年程度で財政と金融の分離が進んだため、緊急避難的にリフレーション政策はあるかもしれないが、インフレなんて起こそうと思っても難しいだろう。
 インフレよりも心配なのはスタグフレーションだ。時価会計を凍結することによって不良債権はそのまま経済の中でくすぶり続け、一方で大量の財政支出が継続的に続くとなると、長期金利の上昇や財政赤字が続く可能性がある。日本の場合は不良債権を切り取り、外需主導や円安政策で克服してきたが、この世界同時不況の中、外需にも頼めないとなると、スタグフレーションの可能性の方がインフレよりも高いのではないか?
 少なくとも米国は不良債権問題を処理したくないわけでも、隠そうとしているわけでもない。そこは安心材料だと思う。それに米国は、「君子は豹変す」を地で行っているというか、一度決めたことに下手に拘泥しない機動性がある。走りながら考えて、駄目だったら訂正するというやり方だ。だから見ていて意外と安心感はある。

――時価会計を凍結したことによる不良債権処理の遅れや財政問題を勘案すると、結果として、基軸通貨としての米ドルの信頼性を徐々に失っていくのではないか…。

 それも否定できないだろう。ただ、やはり米国は決断が早い。間違った時の身のこなしの早さが強みだ。今やっていることが駄目でも、またすぐに次の手を打つだろう。とにかく正しいことをやり続けようという姿勢は自動車業界に対する態度を見ていてもわかる。
 米国でも、重要な産業に関しては雇用や経済を守るために政府が関与しているが、これは英国が戦後、労働党政権になって基幹産業を国有化したことや、逆に、サッチャー政権になってそれを全部民営化したのと同じレベルの産業政策の大転換だ。米国には、いざとなったら主要な全産業を国有化する覚悟もあるのだろう。
 日本の金融不安時にも日産やダイエーの国有化という話はあったが、市場経済に委ねなくてはならないという意見が海外からさんざん浴びせられた。しかし、結局それを言った張本人であるアメリカが銀行や自動車会社の実質国有化という道をとった。当時の日本人関係者からしてみれば何だか裏切られたような意識もあるが、ここで重要なのは、政治は何のためにあるのかということだ。働く人や国民を守るための政治であり、そのための市場経済だ。多くの人達が失業するというような局面において、国有化は一つの手段だ。
 国有化されることと、フランスの会社から資本を受け入れてブラジル系社長を迎えることとそんなに違いはないと思うが、とにかくこういう事態の時には何かしらドラスティックなことをやらないといけないということだ。日本での日産のケースでは、それがカルロス・ゴーン氏であり、米国自動車の場合、それが政府だったということだ。
 日本で当時、日産自動車を国有化して誰かが変革できる能力があったかと考えると、やはりゴーン氏がやった方がよかった。それは間違いないだろう。日本の場合と今の米国を比較してみると、日本の政策、政治家というのは経済や経営といったカネ儲けを蔑むからであろうか、適切に対処する能力に乏しい。

――それにしても、日本の各銀行も大変なようだ…。

 日本の場合は欧米の主要行ほど無茶な投融資をしたわけではないと思うが、これからも当然不良債権が増えていくだろう。個人向けではそうでもないと思うが、法人向けの不良債権はますます増えていく。そうなると、これからは10年ほど前と同様、ローンスターなどの投資ファンドが活躍するケースが増えそうだ。
 確かに不良債権処理ファンドは日本だけではなく、世界的に活躍していくのだろう。特に日本は不動産ファンドも私募ファンドが増えて、不動産取引も一時期非常に活発になったため、その処理がたくさんあるはずだ。しかも、10年前は不良債権を触ろうとすると、どんな筋の人が出てくるかわからないという怖さがあったが、一度私募ファンドが入った物件が今般の金融危機で不良債権になったものに関しては、怖い思いをすることもなく、ファンドにとってチャンスと言えるかもしれない。
 政府ではREITに資金を注入する経済対策も発表しているが、あの対策はどうかな?売れないものは売れないし、そもそも新興のカタカナ不動産は必要なのか。
 REITが破たんすると大手のデベロッパーや金融機関の不良債権が拡大するため、政府がREITを救済すべきだという意見を反映した対策だ。財務省や金融庁はこの対策に冷ややかだが、国土交通省は力を入れている。

――ところで、ここにきてまた格下げが増えてきた…。

 ハンマーで叩き続けてきたものに、ひびが入り、壊れかけてきたという感じだ。崩れるときには、多分一気に崩れる。今、下げてきているのはCMBSとCLOの2つだが、CMBSに関しては今までの格付機関の想定が甘かった。住宅ローンにはひびが入っているのが分かったが、普通のコマーシャルモーゲージの方はまだまだ大丈夫だと格付機関は思っていたのだろう。しかし、これだけ市場が崩れてくるとひびの影響が出てきてそろそろ割れるかなという感じだ。CLOに関しても、皆、様子を見ていたとは思うが、格付けが下がっていないから大丈夫だと思っていた人たちが多い。その格付けが下がることによって、もう一回、自分が持っているものを見直さなくてはいけなくなるだろう。前月はムーディーズ(MDY)が日本のCMBSを格下げするといっていたがあれは遅すぎる。もっと早く動いていてもよかっただろうに。
 格付け変更のタイミングが難しいのも確かにわかる。不動産も実際に値段が下がってからでないと格下げしにくかったという部分もある。デフォルト率も上がるだろうと皆言っていたが、実際に上がるまでは影響も出てこないので、そこは格付機関としてもアクションのタイミングが難しかったのだろうと思う。
 ショックだったのは、一般的に皆が大丈夫だと思っていたトリプルAも格下げするということだ。いったんトリプルA、つまり、まずデフォルトの心配がないとされたものをあんなに格下げされると、世の中の人たちは今後対応できなくなるだろう。また、格付けが下がれば、いくら市場では織り込み済みといっても時価評価は下げざるを得ない。そうなると、日本でも9月末の決算も赤字が続くことになる。もっとも、欧米の金融機関は時価開示を凍結しているため関係ないが(笑)。
 日本の金融機関は一般的に信用度の高い、つまり格付けの高いものにしか投資しないため、CMBSにしてもCLOにしても、トリプルAにまで影響が及ぶとかなりの痛手を受けるだろう。満期償還まで持てばいいという考え方もあるが、一方でデフォルト率は上がってきている。トリプルAのデフォルトが将来的に起こるかどうかも心配だ。
 起きても不思議じゃない。そうなったら格付機関は袋叩きどころじゃないだろうな。
 そうは言っても、買う側だって「こんなに裏付資産がいいのだからトリプルAじゃないと困る」と思っていたりするから予定調和みたいなものだ。格付機関だけの問題じゃない。格付けは使う人がいるから初めて成り立つわけだ。オリジネーターも当然トリプルAの方が高い値段で売れるし。とにかく皆でやっちゃったっていう感じだろう。

――今後は当面、二次証券化商品やCDOなどの証券化商品は必要ないという動きに世界的になっていくのか…。

 しばらくは皆、見たくもないんじゃないかな。もちろんそれが正しいとは思わないが。
 一方で、今が買い時と言えるかもしれない。投資銀行が組成したビスポーク、つまり、あつらえ型の合成CDOは、格付けだけしか見ない投資家のために設計されたもので、これだけデフォルトが増えてくると目の当てようもないが、LBOのローンを集めているCLOは、最終的にリスクをとっている投資家がいる投資ファンドのようなもので、企業向けの融資を裏付けとしているため、まだまだ面白いと思っている人たちもいるだろう。デフォルト率がどんなに上がっても、おそらく20%くらいで、そうすると5社のうち4社はつぶれない。一方で、今レバレッジドローンの値段は80円、もしくはもっと下になっている。
 その辺りは、まだまだ企業の分析ができると思えば面白いかもしれない。一方でクレジットカードローンや住宅ローンになると、統計リスクになるため、この先わからない。そうは言ってもクレジットカードのABSについては個人が3人に1人デフォルトするとは思えないが…。
 しかし、経済は何が起こるかわからないところもある。20%が上限と思っていたデフォルト率が万が一これを超えてくると、これはパニックであり、想定を超えた恐慌となる。その辺は慎重な判断が必要だ。

――証券化商品については日証協でもルールを作ったが…。

 トレーサビリティに関しては、無意味だと思う。結局、複雑なものをこれだけ複雑ですよと教えてもらったところで理解できないことには変わりはない。我々が血液検査の結果を医師に説明してもらっても、その解釈が正しいかどうかわからないのと同じだ。それを証券会社に責任を持てと言ったって無理だろう。そんな話をする前に、理解できるものしかやらないと皆が思えば、売る側だって自然に理解できるものしか作らなくなる。そういう方向を目指すべきだ。
 広い意味で今の世の中のテーマはディレバレッジだから、基本的にはレバレッジがかかっているものは当面やるべきではないだろう。レバレッジをかけなくてもちゃんと利回りが出るものはあるのにわざわざそんなことやる必要はない。10年後がどうだかはわからないが…。
 格付機関がトリプルAを付与していたとしても、本当に返してくれるかどうかわからないと考え、吟味し、吟味できないのなら投資するなということか。そう考えると今後は二次証券化やCDOはかなり難しいのではないか。

――日本の場合はまだ金融不安の教訓もあり、そんなに被害も受けてないが、これから世界の金融がディレバレッジになっていくと、銀証分離やユニバーサルバンクの見直し議論が活発になる…。

 少なくとも、投資銀行モデルのように預金をとらずに高レバレッジをかけてビジネスをするスタイルは当分難しいだろう。一方で、昔から証券会社が持っているブローカーとしての機能や、M&Aのアドバイザリーのようなものがなくなることはない。問題はマーケットメイク機能をいずれ誰が担っていくのかだ。マーケットメイクがないと世の中が動かなくなる一方で、この業務には相当な資本が必要なため、自己資本比率を高めろという議論は出てこよう。また、全部取引所だけでやる考えもある。そういう方向に向かうべきだと私は思うが、一方で社債に関しては銘柄が非常にいろいろあって、それを全部取引所でやるのは現実的ではなかろう。
 アンダーライティング業務(引受業務)も同じで相当の資本が必要だ。あの業務をやっているところがシステミックリスクに陥らないためには相当資本を積ませるしかないが、それができないのであれば、引き受けもオークション化して、取引所に機能を持たせるべきだな。
 一方で日本の銀行のタンジブル・コア・エクイティ(TCE)はかなり下がっている。世界的な議論はこれを強化する方向だから、今後、銀行は資本増強を余儀なくされ、レバレッジのかからないビジネスになっていく。
 そうなると、金融機関はキャピタルが有効に使えない、つまり、資本を提供する側から見ると魅力のないビジネスになっていく可能性がある。今までのように優秀な人を確保することもできなくなるんだろう。

――そうは言っても、社会インフラとしての機能を果たすために、志の高い人にはいてもらわないと困るがな。(了)