みずほコーポレート銀行 頭取 佐藤 康博 氏

みずほコーポレート銀行 頭取 佐藤 康博 氏

企業金融のトップランナーに


――今後の世界経済の見通しは…。

佐藤 米国ではストレステストの結果が発表されたが、ほぼ市場の事前予想どおりであまり大きなサプライズは無く、金融機関は不良債権の重荷で引き続き苦しんでいるようだ。1〜3月の米銀決算は時価開示の凍結もあって良好で、米国経済に若干の明るさも見えていると言われているものの、収益のほとんどはトレーディングで上げており、実体経済で言えば良くはなっていない。個人ローンの貸し倒れや商業不動産の環境の悪化、さらに住宅価格もまだまだ下げが続いている。また、欧州はさらに深刻で、英国とスペインの財政出動がほとんど出来ない中、ドイツとフランスにEU全体を支える力があるのかどうかが問われている。アジアでは中国の4兆元の財政出動が相当効いていて、1〜3月のGDP成長率が6.1%、4〜6月ではもう少し上がることも見込まれている。農村に家電製品を普及させるための補助金やインフラのニーズもあり、その影響は日本の素材メーカーなどにも中国特需として現れている。しかし、やはり最終的には米国が立ち上がらないことにはどうにもならない。日本経済も在庫調整がようやく1〜3月に底を打ち、これから増産に入るが、全体的な需要が弱いため7割くらいまでの回復が精一杯だろう。

――世界経済の回復には、やはり米国の立ち上がりが必要だと…。

佐藤 今、世界的に大きな構造変化を感じる。米国の消費者はこれまで大量に借金をして、大量に物を買っていた。それが世界の経済を支えていたともいえる。そういう米国人が今、瞬間的にいなくなり、今度は貯蓄率が上がってきている。米国人が健全な消費者になったことが世界経済規模で見ると非常に大きなブレーキとなり、消費の総重量が足りなくなっている。そうすると生産設備や雇用が過剰になることは必然で、生産調整はこれからも続くだろう。しかし、日本の製造業はそのような損益分岐点を下げるような生産効率競争には非常に強く、最終的には日本の製造業が勝ち残っていくと考えている。

――日本では金融不安時に不良債権を処理してしまったが、米国の場合、不良債権が大きすぎてなかなか潰すことが出来ない。実体経済の回復には相当時間がかかるのではないか…。

佐藤 まずは、どこまでが不良債権の額なのかということを早く明らかにするということだ。公的資金をいくらつぎ込めば回復するのか、底が見えないままだと不安心理が先に立つ。そういう意味ではガイトナー米財務長官が出した不良債権買取策は機能しないのではないかと考えている。というのは、あのスキームには銀行の持っている有価証券を買い取る仕組みと、ローンそのものを買い取る仕組みと2つあるが、有価証券に関してはほとんどの米金融機関が時価会計をして相当マークダウンしているため、追加的なロスは出ない。ところがローンに関してはほとんどマークダウンしていないため、売るためには相当値を落とさなくてはならない。そうすると、ロスが追加的に出て、資本が無くなり、また公的資金を必要としてくる。銀行のバランスシートがどれだけ痛んでいるのかまだ誰も見えていないということだ。AIGにしても、まだまだ資金をつぎ込まなくてはならない底なし沼のような状態だ。

――直近では400兆円といわれている不良債権も、商業用不動産の価格下落や個人の自動車ローンの破壊などを考えると、今後どこまで膨らむのかわからない…。

佐藤 これまでに起きた世界のバブルは住宅がほとんどだが、一旦このバブルがはじけると、不動産価格が下げ止まらないことにはどうにもならない。日本の銀行も赤字を出しているが、株価は3月31日時点で時価評価をされてしまうためコントロールできない部分もある。我々は3年ほど前、株の保有を自己資本のTier1以下に抑えるようにしてきたが、一方、世の中では敵対的企業買収のリスクが膨らみ、企業からは「やはり銀行に株を保有してもらいたい」というオファーもあった。そこで一部のお客様の株に関しては買い増しをしたのだが、そこに株価下落の影響が襲ってきた。それはひとつの反省点でやはり経営の変動が激しすぎると。ただ、日本の場合は歴史的にお客様との関係で株を持っている大きな意味合いがあり、大きなチャレンジにはなるが、やはり株の保有は少なくしなくてはならないと考えている。

――近い将来、銀行の自己資本比率を引き上げるという国際的なコンセンサスが濃厚になっているが、邦銀が行っている自己資本比率の計算の中に株の含み益を入れるという計算方法をいつまで続けられるかわからないという意見もある…。

佐藤 それは非常に重要な問題だ。今、米国ではTCE(タンジブル・コモン・エクイティ)が非常に注目されている。米国の金融機関当局ではこの比率を3〜4%レベルまでもっていないと健全とはみなされない可能性があるとしているが、日本は優先出資証券や優先株が多いため、このTCE比率が相対的に低い。一方で、ヨーロッパではバーゼル規制にある8%の自己資本を10〜12%に引き上げる議論や、Tier1比率の4%を8%にしようというような議論が行われている。また、景気循環増幅効果(いわゆる、プロシクリカリティ)の抑制策も議論されている。景気が悪くなると今のバーゼル規制により格付が下がり、リスクアセットベースのウエイトがどんどん高くなることで自己資本比率が下がってくる。そうすると貸し渋りがおき、結果的に企業の具合が悪くなり、それがまた格下げを引き起こすというように、監督規制が景気変動を増幅してしまうプロシクリカリティの問題が重要視されている。例えば、景気がいい時にはもっと高い自己資本比率で積み増しさせておき、景気が悪くなったら資本の必要条件を下げることによって、貸し渋りが起こらないようにするような議論が行われている。景気循環に伴って、自己資本比率を変えていくという発想が必要になってきている。。

――これからの経営の舵取りが難しいと思われる中、今まで拡大し続けていた投資銀行業務がなくなっていくのではないかという人もいるが…。

佐藤 投資銀行業務には、社債や株式を発行する手助けをするキャピタルマーケットと、アドバイザリー業務、そしてセールス&トレーディングがある。このセールス&トレーディングのうち証券化業務は、確かに縮小している。しかし、キャピタルマーケットとアドバイザリー業務、顧客相手の為替やデリバティブはなくならない。そう考えると、投資銀行業務がなくなることは絶対に有り得ない。伝統的な、顧客を相手にした業務にフォーカスしていくことになるだろう。

――世界的に銀行の国有化が続き、レバレッジを効かせた取り引きも出来ずに、今後は金融機関の資本効率もかなり悪い状態が続くと思われるが、日本における低成長も続く…。

佐藤 続くと思う。4〜5年前、日本の金融機関のROCやROE数値は欧米の20〜30%と比較され、非常に資本効率が悪いといわれていた。ROCやROEがそこまで異常なほど高くある必要はないと思うが、確かに我々の資本効率はもう少し上げなくてはならないと考えている。金融機関は確かに儲けなければならない。それは強くなければ優しくなれないからだ。しかし、そうは言ってもなりふりかまわず儲ける必要があるのかと、最近強く思う。金融機関の使命は「資金の供給」であり「仲介機能を果たす」ということだ。同時に、足元での非常に大事な役割として「産業構造の変革に積極的にかかわっていく」ということが求められている。つまり、需要構造が変化したときに産業構造を変えていく、合従連衡を進めていくということだ。過剰需要がスリム化していくと、必ず過剰生産能力が発生する。そこで構造変化がおきる時に、その産業をどういう方向で強くしていくのか、道筋を示すことが金融機関の大きな役割なのではないか。資金供給能力と産業構造の変革への主体的な関わりが金融機関の存在意義となっている今、みずほコーポレート銀行では産業調査部に約100人のプロフェッショナルを抱え、その業界の3年後、5年後の将来像をきちんと描いている。常にそういった先を読む眼を持ち、勉強していくことで、新しい産業の芽や構造変換にいち早く気づき、その中で我々が出来ることに積極的に取り組むことが出来る訳だ。3ヶ月〜半年先の株価をみているアナリストではなく、3年後の産業構造を見据える人材まで抱えているのがみずほコーポレート銀行だ。この強みを研ぎ澄ましていけば、コーポレートファイナンスのトップランナーという位置を築くことが出来ると考えている。

――最後に、今後のアジア地域への展開構想は…。

佐藤 もちろんアジアは間違いなく重要な地域となるだろう。しかし、成長力が非常に高いゆえ規制も非常に多い。例えば中国の銀行を買収しようと思っても中国銀行への外銀の出資率は最大25%と決められているため、マジョリティを握ってその地域での金融業務を広げていくことは難しい。また、リテールを展開するにも膨大なネットワークが必要だ。アジアの成長に伴いマーケットも拡大していくことは間違いないのだが、その中において何をやっていくかは非常に難しいところだ。一方で、証券関係のビジネスには可能性を感じており、そういう意味ではみずほ証券の海外展開を貸し出しが出来る我々のファンクションと合わせてアジアのマーケットを攻めていくという方向性はあるだろう。(了)