内閣府政策統括官(経済社会システム担当) 松元 崇 氏

内閣府政策統括官(経済社会システム担当) 松元 崇 氏

日本企業が力を発揮できる金融政策を


――日本の財政は危機的状況だ…。

松元 確かに世界的にみて非常に悪い。そもそも健全な財政は経済をしっかりさせるためにあるもので、欧米などでも財政規律を維持しようと頑張っている。ただ、現在、経済が本当に痛んでいる状況でまず当面必要なのは、できるだけ早い景気回復だ。その点について、麻生総理が全治3年とおっしゃっているところで、その喫緊の課題である景気回復のために、思い切った財政出動に取り組んでいる。一方で麻生総理が繰り返し「短期は大胆、中期は責任」とおっしゃっているように、思い切ってやる以上、中期的には責任をきちんと果たしていかなければならない。

――最近、米国の金融政策をみているとヘリコプターマネー的な資金のばら撒きが気になるが、潤沢な金融緩和はバブル崩壊に本当に効くのか?逆にまたバブルを作ってしまうという意見もあるが…。

松元 米国は日本のバブル崩壊後の流れを随分勉強し、その上で対策に取り組んでいると思う。ただ、実際に自分でやってみるとやはり大変だと思っているのではないか。そんな中で今回の金融政策や財政政策は、例えばグリーン・ニューディール政策など先につながるものとしてよく考えられていると思う。中身についてみると、日本であれば、地方の税収が減ると、国は基準財政需要額と基準財政収入額の関係から自動的に地方交付税を地方に補填することになるため、明示的に計上されない部分についても、米国の場合、ほとんどの州の憲法で財政均衡が義務づけられているため、州の歳入が減り、財政が赤字になると、その分歳出を落ち込ませないようにするため、連邦政府として、対応しているといったきめ細かな面もある。

――金融が緩和されれば、財政出動は少なくて済むという意見もあるが…。

松元 現在、金融・財政それぞれでの対応が行われている。金融政策は日銀が、財政政策は財政当局がしっかり舵をとり、また、諮問会議などで色々な御議論をいただくというのが基本だろう。かつて日本での金融不安が大変だった頃も、日銀が試行錯誤しながら一生懸命やっていた。良いデフレ、悪いデフレといった議論もあったが、デフレには絶対なってはいけないという観点から色々な議論がなされていた。それは、あとになって「こうだった」という学者の議論とは次元の異なる、現場のプレーヤーとしての取り組みだ。もちろん、識者からの様々な議論も大切だが。

――当時、日銀が日銀資産の健全性を主張しすぎるのではないかという議論もあった。これに対し現在では米国が国債の買い切りや量的緩和を始めている…。

松元 中央銀行として資産を健全にしておきたいというのは当然のことだ。その辺が金融政策的な話とどう関係するかは、米国のケースも見ながら考えていけばいいのだろう。ただ、その際、米国はFRBというシステムを持っているが、これはシステムであり、『中央銀行』という日本の感覚で資本を持った銀行は米国にはないといった点は良く整理する必要がある。

――『大恐慌を駆け抜けた男、高橋是清』(中央公論新社)という本を出版されたが、この時代と比較して何か感じることは…。

松元 米国と日本が違うように、戦前と戦後ではまた違う。ただ高橋是清は大蔵大臣になる前に25年間日銀にいた人物だ。税や財政などについては一般的なことはわかっていたが、専門は金融畑だった。また井上財政といわれた井上準之助氏は日銀で初めて生え抜きで日銀総裁になった人物だった。当時、第一次世界大戦を契機として離脱していた金本位制にいかに復帰するか、それをどのように日本の経済発展につなげるかが大きな課題だった。井上が旧平価で金本位に戻すと主張した時、高橋是清はそれに反対だった。それは、明治30年、松方正義が金本位制を採用した時に、高橋が「新平価で半分に切り下げて金本位制にするべきだ」とアドバイスしたのと同じ考え方からのものだった。高橋は、旧平価での金解禁のためにデフレにする価値はないとの考えだったわけだ。基本的に金本位制論者だった高橋是清が、井上準之助のデフレを意味する金解禁に反対した原点には、彼が日銀で長い経験をもっていたということがあったと思う。なお、戦前の歴代日本銀行総裁の中で、日銀総裁を経験して大蔵大臣になった人と大蔵省を経験して日銀総裁になった人とはほぼ半々だった。経済のしっかりした運営のためには財政と金融の両方を理解している人物が必要だという考え方があったように思われる。

――円の国際化をもっと進めて国際通貨にしようという議論については…。

松元 もともと日本の金融機関は、産業が発展していくために企業に対して資金を低利で提供するということが得意で、金融工学を駆使して莫大な資金を操って利益を上げるという方面は苦手だった。そういった金融機関が母国とする日本の円が国際化するのは、これまでのグローバル化の流れの中では難しかったというのが、この10年だったような気がする。なお、これから数年内に中国のGDPは確実に日本より上になる。そういう世界経済の中で日本がどうしていくのか。追いつけ追い越せの段階ではなくなった日本の個々の企業がその持てる力を存分に発揮できるようにするためには金融政策はどうしたらいいのか、そういうことを一生懸命考えることが大事になってくると思っている。米オバマ大統領の一般教書演説にもあったが、どんなに苦しいときでも希望をなくしてはいけない。日本人はすぐに悲観的になると言われている。悲観論をバネにするのもいいが、やはり前向きに考えることが大切だろう。(了)