住宅金融支援機構 理事長 島田 精一 氏

住宅金融支援機構 理事長 島田 精一 氏

景気対策で積極的な役割を果たす


――緊急経済対策として住宅金融支援機構がますます重要な存在になってきている…。

島田 5月29日に補正予算が成立し、住宅金融支援機構に約4千億円が増資され、資本は約9千億円となった。我々の主力ローンである「フラット35」の制度も拡充され、これまで90%だった融資率(借り入れ限度額)を100%に引き上げ、住宅ローンの借り換えに対する融資も可能となった。また、長期優良住宅普及促進法が施行されたことで、いわゆる「200年住宅」といった、その法基準を満たした優良住宅に対し、0.3%の金利引き下げ期間が従来の10年間から20年間までの延長や、固定金利で返済期間が最長50年の「フラット50」も導入された。その他、金融機関が取り扱う住宅ローンに対する融資保険の保険料率の引き下げや、賃貸住宅に対する貸し出しの要件の拡充など、積極的な景気対策に向けて我々も取り組んでいる。

――住宅政策は内需拡大の目玉だ…。

島田 強いて言えばこれに加えて自動車産業もあるが、まず政府が一番重点を置いているのが、裾野が広く波及効果も大きい住宅産業ということだ。何千万円という住宅をキャッシュで買う人は滅多におらず、ローンへの需要が高く、現在は変動金利や10年以下の固定金利が中心だ。しかし今後、金利がずっと上がらないという保証はない。事実、米国では約2%だった長期金利が4%近くに上昇し、同様に欧州や日本でも上昇傾向にある。7月の赤字国債増発が、先述の商品の金利へどういった影響を与えるかは不透明だ。しかし、一つはっきり言えるのは、今が超低金利だということだ。このような状況下で今後35年間一定の金利を提供できる我々の長期固定ローンは、国民のためになる安心・安全なローンと言えるだろう。

――現在の「フラット35」の金利は…。

島田 長期金利プラス我々のリスクフィーや、MBSのスプレッドなど諸条件により月毎に変わってくるが、現在我々が金融機関に提示しているのは2.9%前後だ。もちろんそこに各金融機関が上乗せして最終ユーザーに提供される訳だが、3%前後で35年間のローンが組めるというのは歴史的に見ても他に類を見ないことだ。米国における我々と同じようなエージェンシーローンでは、30年固定で歴史的低金利といわれる時でも4.8%だった。これが最近少し上がって5%台となっているが、かつては6〜7%台だった。日本でも91年頃の変動金利では8.5%ということもあったが、日本の長期金利の過去50年間の平均値は4%弱だ。現在が約1.5%ということを考えると、中長期的に金利が上がることはあっても、下がることはないだろう。

――今後の経済への波及効果が期待される…。

島田 住宅産業は一昨年6月の建築基準法改正等の影響により、前年128万戸だった新築住宅着工が103万戸に減少した。昨年は103万9千戸と若干増えたが、今年3月と4月は前年比で減少している。これは、景気の悪化や株安に加えて、金利の見通しも影響している。金利が不透明となると、家を買いたい人や新築したいという人は、様子見の傾向が強まる。その状況は昨年の11月頃から続いており、4月になってもまだ回復していない。ただし、住宅購入を考えている人は5月のゴールデンウィークやお正月の休みに、住宅展示場やマンションのモデルルームなどを見学するパターンが多く、いくつかの住宅事業者によると、売り上げにはつながらなかったものの、今年1月の来場者は対前年で10%〜20%増加していたという。最大600万円に拡充した住宅ローン減税や、住宅購入のための贈与税の非課税措置が、現行110万円から610万円に拡大したこと(暦年課税の場合)等、政府支援に加えて、住宅金融支援機構からの融資制度も拡充していることを周知徹底させることで、その効果がどう現れてくるか7月以降に期待しているところだ。

――マンション在庫も底打ちしたようだ…。

島田 首都圏で1万2千戸以上あったマンションの在庫は、今では9千戸をきった。多少値下げしたことも理由としてあるが、在庫の売れ行きはかなり良好で、急ピッチで改善されているようだ。本格的に伸びてくるのは10月頃からだと思うが、その兆候が6〜8月に現ると期待している。マンションや一戸建の価格が下落していることに加え、住宅ローン金利はかなり低水準だ。あと2〜3ヶ月するとマンション価格の状況は違ってきているかもしれないが、とにかくマンションは今が一番買い時だといえるだろう。

――証券化商品市場が一時的に麻痺したことについての影響は…。

島田 昨年12月は債券市場全体が混迷した。企業が間接金融に走り、銀行の流動性にも問題が出てきて、地方債さえ発行が見送られた。我々は現在、主に月次債とS種債の住宅ローン担保証券(MBS)、その他、政保債やSBなどを取り扱っているが、昨年12月までは住宅ローン担保証券も順調に買い手がいて、多い時では4〜5倍の買い手があった。それがリーマンショック以降、非常に市場環境が悪化し、12月末に発行予定だった約480億円の月次債は発行を延期せざるを得なかった。結局、その月次債は1月に12月分と1月分をまとめて発行し、幸いにも比較的すぐに買い手がみつかったが、その時のスプレッドは105bp程度で、昨年のTプラス60bpに比べると約1.7倍ワイド化した。2月の月次債ではTプラス95bpと10bp下がり、3月は93bp、4月は92bp、5月は82bpと徐々にタイト化してきている。4月の1500億円のS種債と800億円の月次債、5月の月次債約500億円には買い手も増えて数倍のオファーがあり、一応ほっとしているところだ。投資家の皆様が絶対安心して買えるようなMBSを安定的、継続的に発行し続けるということが、我々の資金源の安定化を図る最大の要素であると思っている。

――現在、S種債の残高はどのくらいあるのか…。

島田 発行累計約5兆円で、今年度は1兆2千億円分を発行する予定だ。負債の内容が改善することで、今まで逆ザヤだったものが純ザヤに戻りつつあり、その債券を発行することで既往債権の収支が改善方向に向かう。ただし、証券化市場には種々の問題もあるため、むやみに発行する訳にはいかない。むしろ、我々が今一番関心を持っているのはセカンダリーマーケットだ。発行済みのMBSの取引はこの2〜3年で大体年間1〜2兆円になっている。最近では買い手はいるが売り手がいないという状況だ。もう少し発行量を増やせば、流動性ももう少し上がってくるのではないかと思っている。長期運用、一部短期運用、最初から短期運用、それぞれ投資家の運用運用目的は異なるため、市場に出る玉を増やすことで流動性も高まると考えてる。

――機構の黒字化のメドは…。

島田 既往債権は区分勘定で別会計となっていて、既往債権に関しては一般会計から補給金が措置されている。しかし、機構本体は独立行政法人一期(5年)内には政府から一銭も補給金が措置されることなく黒字化する目標をたて、現在改善努力をしているところだ。黒字化するための基本は経費コストを下げて、利益を増やすことだ。この独立行政法人がスタートした時の目標である「一期中に人員10%削減」「一般管理費15%削減に向け」着々と進んでおり、人員カットは今のペースで行けば目標以上に出来ることはほぼ確実だ。一方、問題は利益をあげるということだ。そもそも、この組織には収益という概念がなかった。政府系の機関は今でもそうだと思うが、それまでは毎年予算をもらって、それを使い切っており、そこに収益というものは存在しない。使うだけのお金を貰ってそれを使い切るような政府系の機関に生産性や効率性といったものを追求するのは無理があると思う。それが、官から民への流れをつくる元々の原因だと思うが、一方で、今回のサブプライム問題によって、全てを官から民に移動することへの問題点も明確になった。官で管理するものと、民に任せるもの、それを区別して考えなければならない。我々としては、政府からの支援により「フラット35」という商品をより改善し、住宅着工状況が今後上昇傾向をたどれば、単年度黒字も実現可能だと考えている。(了)