格付投資情報センター 代表取締役副社長・CCO 鮫島 正大 氏

格付投資情報センター 代表取締役副社長・CCO 鮫島 正大 氏

企業金融のていねいなチェック必要


――景気は回復してきたのか…。

鮫島 輸出や生産の状況を見ると、底は打ったという感じだろう。昨年の秋以降、急速かつ大幅な在庫調整が行われたため、それが一巡して通常の状態に戻ってきている。加えて、中国を筆頭に各国で大胆な政策を打ってきた効果が徐々に現れている。しかし、企業経営者は、厳しい在庫調整を終えて暫くは回復すると見ているものの、その先の持続性については自信が持てないようだ。最終需要がどこまで回復してくるのか見極めがつかないのだろう。経済の循環メカニズムが前向きに働いているかどうかを掴みきれないでいる理由は、例えば、米国で住宅価格がまだ下がっていたり、金融システムに不安視される部分が残っているからだ。米国では銀行の資産査定が行われ、不良資産の処理プロセスは進み始めているが、それを終えるにはまだ時間がかかりそうだ。また、米国の家計債務が膨大であることも調整を長引かせる材料だ。

――一部商品市況は上がってきているようだ…。

鮫島 景気がまだ軟弱である一方、原油を始めとする原料品市況は一部かなり上がっており、この辺りの判断は非常に難しい。一般的な見方としては、資金が潤沢にあることから投機資金がマーケットに流入していると言われているが、その背景には景気が底を打ったということがあるのだろう。中国の大規模な財政出動などにより、新興国需要が伸びて、原料品市況が上がっている面もあろう。ただ、こうした商品市況上昇の背景には、すでに何らかの供給面の制約が影響しているとすると厄介で、今後注視していく必要があると思う。

――先行きも見通しにくい一方で、政策てこ入れ効果が長く続くとは思えず、来年二番底をつけるという見方もある…。

鮫島 財政収支面の余裕度は国によってばらつきがあり、景気回復がはかばかしくなければ、引き続き次の手を打ってくる国もあるだろう。その際、支出規模の議論もあるだろうが、どういう財政支出をしていくかも重要だ。潜在的な需要を喚起し、供給面の底上げにつながるような政策が打てるかどうかがポイントになるだろう。米国では「グリーン・ニューディール」という施策を打ち出している。その当否はともかく、先行きの経済・社会の方向性を示すような政策が打てれば、経済活動を活発化させることにつながるかもしれない。

――日本について言えば、GDPギャップが最大という話もあるが…。

鮫島 GDPギャップには色々な計算の方法があるが、確かに昨年10〜12月期、今年1〜3月期の需要の落ち方は非常に大きかった。足元では景気はリバウンドしていて、GDPギャップの幅も縮まっているだろうが、いずれにしてもかなりマイナスのギャップになっている。特に日本は、輸出に対する依存度が相対的に高かったため、世界経済の同時かつ急激な悪化で相当大きく落ち込んだ。海外景気の先行きが不透明な中で、日本では内需拡大を求める声も聞かれる。この点は、長年叫ばれてきたことであり、今後内需拡大に向けて工夫、努力をしていくことは必要だと思うが、人口が減少する経済の姿を前提にすると、即効性のある手を打つのは結構難しい課題で、やはり海外経済が回復してくることが日本経済が成長軌道に戻る条件になると思う。


――金融政策の金利政策については…。

鮫島 まだ、景気の先行きは不透明で、不安視する見方もある。まずは、一頃深刻な状況にあった企業金融について、丁寧にチェックすることが必要な局面ではないか。もちろん、景気はリバウンドしており、金融市場の機能もかなり戻ってきているが、まだ手放しで機能が回復したとはいえないだろう。たとえば、社債のマーケットでは、発行は増えているものの、前向きの資金需要があって発行されているというより、優良企業でも手元資金を厚めに持っておこうというのがまだ強いのではないか。また、BBB格の発行は電鉄会社など数えるくらいだ。投資適格の範疇にあるBBB格がまだ敬遠されているとすると、投資家は信用リスクに対し非常に慎重な姿勢にあるということだろう。加えて、中小企業の資金繰りもまだ要注意だ。金融機関の貸出スタンスは、株価がボトムだった3月頃に比べれば幾分緩和されているかもしれないが、中小企業の財務は、景気が少々リバウンドしたといっても、クレジット・サイクルとしてはしばらく悪化傾向をたどる可能性が強く、資金繰りは楽観できないだろう。一方で、TB、CPといった短期金利の形成を見ると、企業金融支援策によるゆがみが感じられ、そうした点にも目配りが要るが、企業金融の状況については幅広くチェックしていかなくてはならないと思う。

――証券化市場は随分と冷え込んでいて、次に拡大していく兆しも見えてこない…。

鮫島 証券化商品といっても、仕組みが比較的シンプルなものから複雑なものまで色々あるが、リース債権の流動化など分かり易い商品のマーケットに関しては、現在も動いていないわけではない。しかし、全体としてみると、市場が縮小しているのは事実だ。認識してほしいのは、日本の証券化市場は、米国のように大幅な格下げが頻発するといった状況にはなっておらず、これまでのところ基本的な健全性は維持されているということだが、投資家はリスク負担にかなり慎重になっており、足元、市場が力強く回復していく状況にはない。しかしながら、リース債権やオートローン債権など種々の資産流動化ニーズはなくなったわけではないし、仕組みが理解し易いものであれば、証券化商品への運用ニーズがなくなるとも考えにくい。今後、情報開示などの努力を積み重ねて、マーケットをしっかり育てていくという視点が重要だろう。

――格付機関としてこれから力を入れたいところは…。

鮫島 一言でいえば、マーケットの信認を勝ち得るということに尽きるのではないか。現在の市場では、投資家はより慎重な投資判断を志向し、リスク&リターンについてより厳格な判断を求めている。質の高い分析に基づく評価、中立性の確保などの基本ポリシーやルール・手続きに忠実な業務運営を行っていくことがますます大事になってくるだろう。先日成立した改正金融商品取引法では、格付会社に対して登録制や監督の仕組みが導入されることになった。R&Iは、かねてから、IOSCOの「基本行動規範」に沿った行動規範を定め、業務運営体制を整備してきたほか、米国SECによる認定格付機関(NRSRO)としてSECルールにも対応してきたが、今後もまずは自主的な努力を積み重ね、市場の信認をより堅固なものにしていきたいと思う。また、経済・社会の変化への対応も引き続き欠かせないだろう。新興国経済の台頭、環境対応の進展、産業技術の進歩といった変化は今後さらに進むだろう。大きな流れを見極め、しっかりした経営分析や、当社の業務展開の備えをしていかなければならないだろう。