みずほ証券 代表取締役社長 横尾 敬介 氏

みずほ証券 代表取締役社長 横尾 敬介 氏

エクイティ、特にアジア株に注力



――新光証券とみずほ証券が合併して、新しい「みずほ証券」となった…。

横尾 旧みずほ証券は、グローバルなホールセール専門の会社だった。一部でわずかに富裕層の取り扱いも行っていたが、銀行をバックにしているみずほフィナンシャルグループ全体の規模からお客様のニーズを考えると、非常に多岐にわたっているため、業容の拡大を図り、大手証券という世界に入っていかなくてはならなかったというのが実情だった。そもそも日本の資本市場では、公募増資などエクイティ・ファイナンス案件の投資家の7〜8割が個人の投資家層で、2〜3割が機関投資家となっている。これは、欧米とは全く逆だ。欧米の場合はホールセールだけで運営していく事が出来る素地があるのだが、日本のマーケットでは個人が圧倒的に主流を占めているため、日本のマーケットでそれなりのプレゼンスを維持するには自前でリテールを備えた総合証券化が必要だった。旧みずほ証券では専門のホールセール分野ではそれなりの規模まで拡大できたが、リテールやミドル法人のネットワークがないと大手証券というには難しかったということだ。一方、旧新光証券では大手企業の引き受けやM&Aはほとんど取り扱わず、国内99拠点に営業基盤を持つミドル・リテール中心の業務を行っていた。しかしこちらにも限界点があり、この両社を合体することでシナジー効果が現れてくるのではないかと考えた。これが合併の狙いだ。

――金融界に合併の波が押し寄せ、違和感のある合併も目立つ中で、旧みずほ証券と旧新光証券の合併については無理がないように思える…。

横尾 2社とも同じグループの兄弟会社であったため、新みずほ証券の発足から2カ月経った今でも「合併した」という意識はあまりない。昔から良く知っていたもの同士だったこともあり、スタートはうまくいったのではないかと思っている。地味な統合だったとも言えるが、そのおかげで両社の社員の人心をあまり乱すことなく、大きなアイドル期間もなかった。また、これは意図した訳ではないが、合併して総合証券化することが前提になっていたためか、合併の翌日から次々と大型の案件をいただき、皆でその仕事に向かってひたすら取り組んでいたような環境だった。運にも恵まれていたのだと思う。

――ところで、サブプライムローン絡みの不良債権処理は終わったのか…。

横尾  CDOに代表されるサブプライムローン関連の商品の整理は完全に終わった。CMBSなど不動産絡みの証券化商品については、ここにきてまた格下げなどが行われており、その価値下落による影響は少しはあるが、全体で見るとたいした比率ではない。サブプライムローン関連とは桁が違う。また、サブプライムローン問題に端を発して、インベストメントバンクではレバレッジを効かせた業務展開が環境的に難しくなっていると思う。私は1年程前、イギリス金融サービス機構(FSA)の長官にお会いして話をしたことがあるが、その時、彼は私に「投資銀行を今後もやりたいのであれば、従来のビジネスモデルではなく、ビジネスモデルの大きな変更をしなければ生き残れないでしょう」と言われた。これは今でもはっきりと覚えている。当時、金融界でもそれをはっきりと認識していた人はそう多くはなく、私は日本に戻って投資銀行業務のモデルチェンジを唱えた。過大な資本を使い、レバレッジを効かせて利益をあげるようなビジネスモデルを止め、引き受けやシンジケーション、M&Aという伝統的な投資銀行業務に回帰する舵を切ったのが昨年の秋だ。そして、ちょうどその頃、リーマンショックが起きた。今後は、莫大なリスクをとって儲けるというビジネスは、もう許されないということだろう。

――レバレッジを効かせるビジネスが下火になっている一方で、金融当局は資本の規制を強化している…。

横尾 民間業者が利益を追求するのは当たり前で、それを監督管理として規制するルールを事前に作れなかったという当局の責任は各国ともに感じていらっしゃるようだ。そういった監督する側の反省をもとに、今後は「過大に資本を使うことに対しての強化」になっていくことが考えられる。現在、我々はビジネスモデルの変更を行っており、当局の規制強化の影響はあまり心配していない。そのためにモデルの方向転換を行ったと言ってもいいだろう。

――色々な商品がある中で、これから一番力をいれていくところは…。

横尾 やはりエクイティだ。特にアジア株にどのようにして参入していくかを考えている。中国やインドでは現在、内需が拡大しており、中国においては財政を投入しながらインフラ整備や民度を高める政策も打ち出している。それが行き過ぎてバブル経済だという批判もあるが、こういったところが成熟段階に入れば、かなりの成長を維持できる国になると思う。中国とインドを合わせた人口は約25億人。この中のたった1割としても、2億5000万人というマーケットがそこにはある。一方で、日本は1500兆円台の個人の金融資産があるといわれているが、その資産はこの3年間伸びていない。少子高齢化の問題などで頭打ちになっているというのであれば、あとはシェアを競うしかなく、そこには限界がある。そうなると、やはり、アジアの大国に進出することが今後の課題になってくる。そして、その商品の中心となるのがエクイティだ。

――「みずほ証券」のカラーとなる考え方は…。

横尾 まず、銀行とのリンケージを深めていかなければならないと考えている。顧客ビジネスにフォーカスしていく上では、世界のみずほのネットワークで銀行と証券の連携を始め、銀行の顧客ベースを証券業という立場でどう捕捉出来るかを考えることが非常に重要だ。そして、そのために銀証連携は、一つの有力な手段だと考えている。もともと日本では銀証分離が定められており、それは基本的には今後も変わらないと思うが、銀行や証券会社として、お客様への満足度や利便性を考えると、今後の体制作りとしては、銀証連携を好まれるお客様、好まれないお客様それぞれに合わせて自然体で対応していきたいと思っている。実際に兼業するとなると、利益相反などのルール違反には厳しい罰則が課せられており、業務を行う側も慎重になる。そういう環境も、むしろ健全で良いのではないか。

――最後にひと言…。

横尾 私の理念をひと言で集約すれば「いい会社をつくろう」だ。今回の合併にしても、兄弟会社だったとはいえ、これまで行ってきた業務の守備範囲は違い、価値観の違いは当然ある。このため、お互いの立場を尊重し合うことが大切だ。そして、お互いを理解するためにはコミュニケーションをよくとることが必要不可欠だ。これらは当たり前のことなのだが、その当たり前のことを当たり前に出来る会社にしていきたいというのが私の当面の目標だ。みずほ証券に対して、親御さんが自分の子供を入れたい会社と思うかどうか、また、先輩諸氏、あるいは今後入ってくるであろう後輩諸氏が、自然と「いい会社だね」と思える会社になれるかどうか、それが非常に大事なところだと思う。(了)