金融庁長官 三國谷 勝範 氏

金融庁長官 三國谷 勝範 氏

3つの責務は永遠に変わらず



――金融危機が表面化してから約1年…。

三國谷 リーマンの破たんから間もなく1年が経つが、今回のサブプライム・ローン問題は金融のあり方や金融規制の考え方に大きな影響を与えた。私どもは昨年5月、中小企業にアンケート調査を行い、夏には全国へ出かけて、借り手・貸し手双方に話を聞く機会を何度も持ったが、そこで感じたのは、今の時代には地域密着型金融が求められているということだった。地域金融機関には地域密着型金融を標榜していくとともに、主要行に対してもきめ細かな融資要請をしていったが、9月15日のリーマンショック以降は世の中がめまぐるしく変貌した。振幅の幅の大きさもさることながらスピードも速く、その影響は製造業を含めた実体経済や直接金融にまで、瞬く間に広がった。

――金融システムの安定が必要だ…。

三國谷 我々の任務の一つには金融システムの安定があるが、これは金融セクターだけで成し遂げられるものではなく、実体経済とお互いに好循環を満たすことによって成り立つものだ。今回の危機では世界全体を見渡しても金融セクターと実体経済の両方が落ち込んでいる中において、我々は金融仲介機能の円滑化を図るため、貸す側のリスクテイク能力を高めることを考え、改正金融機能強化法の法案を提出するとともに、自己資本比率規制の弾力化や貸出条件緩和債権の条件の見直しなどに力を入れた。これらの中にはあくまでも臨時異例の措置もある。一方で、借り入れる側の信用能力を高めるという意味で中小企業庁が緊急保証制度を敷いた。我々も中小企業庁と協力して色々なところに全国行脚し話を聞いた。日銀もCPや社債買入れなど様々な政策を講じた。いろいろな施策が組み合わされた。

――グローバルな規模でも金融規制の再構築が行われている…。

三國谷 日本では90年代の経験を踏まえ、これまで様々な取り組みを行ってきた。私はそういった制度の整備や運用の改善を大きく4つに分類している。1点目は個別の不良債権処理や破たん処理だ。2点目はセイフティーネットの整備だ。これも90年代の経験の故に、今や日本は世界の中でも相当な整備がなされている。3点目は先々を展望したインフラ整備だ。代表的なものには金融商品取引法改正や証券決済制度がある。今回の資金決済法も、実は先々を展望したインフラ作りだ。証券決済制度での有価証券の電子化をみても、この点では、日本は最先端にいると言えるだろう。4点目は消費者の視点からの制度整備と運用改善だ。FX取引に係る規制の整備や金融商品取引法における包括的な仕組みの導入、市場の公正性を保つための課徴金制度の充実等に取り組んできた。しかし、時代が変わり複雑化した部分に関しては、それに合わせた対応をしていかなくてはならない。今回の国際的な金融混乱は21世紀型で市場型だ。業態もボーダーレス化しており非常に複雑であるため、今後は国内での部分と国際的な部分のバランスを考えながら、適正な規制体系を作り上げていかなくてはならないと考えている。

――業態規制については…。

三國谷 業態間の業者規制はアクセスの多様化という観点からむしろ緩和される方向だ。具体的に、金融商品取引法、金融商品販売法、担保不動産の流動化のためのSPC法や証券決済法は垣根を低くしていくという方向のものだ。そうしなければハイブリッド型のものには耐えられないという背景もある。一方で、行為規制、つまり個々の顧客に対する説明義務やディスクロージャールールは強化してきている。要は規制にもバランス感覚が必要だということだ。これまでの歴史を振り返ってみても、規制緩和の要素と規制強化の要素を組み合わせて規制に取り組んできている。

――国際的な議論の中で、自己資本比率規制を強化するという議論もあるが、一方で、この時期にそんなことをしたらむしろ金融収縮になってしまうという意見もある…。

三國谷 自己資本比率規制の重要性に変わりはないが、こういった議論を中長期的に行うにあたっては、ビジネスモデルによるリスク特性の違いを考慮する必要がある。一律の規制は、特に短期的な局面で信用収縮につながる可能性もある。また、資本にはそれなりにコストもかかる。重い規制は、逆に過剰で複雑なリスクテイクを促進しかねないという懸念もある。そこは商業銀行や投資銀行など、様々なビジネスモデルの違いを考慮した上でバランスのとれた議論をすることが必要と思っている。

――海外では時価会計においても弾力的な対応をしているようだが、その結果、不良債権という膿はまだ出きってない…。

三國谷 会計については古来様々な議論があるが、金融危機の場合に大切な3要素は、正確なバリュエーション評価、オフバランス、そして必要に応じたリキャピタライゼーションだ。日本はこれを過去においてやってきた。それは90年代、日本の金融セクターの不良債権が非常に大きな問題だったからだ。当時の日本は比較的シンプルな商品が多く、今回のケースとは違う点もあるとは思うが、国際的にも様々な対応がなされることが大事だ。いずれにしても会計は適正に行うことが必要だ。しかし何が適正なのかは非常に難しく、この点、また議論を重ねていかなくてはならない。

――長官として、新たな金融庁を切り盛りしていくために心がけていくことは…。

三國谷 まず、金融システムの安定、利用者保護と利便の向上、そして公正・透明で活力ある市場の確立という金融庁の3つの責務は永遠に変わらず、我々はこれを日々追及していく。次に現下の課題として、サブプライムやリーマンショック以降の経済情勢に対して金融仲介機能の円滑化を求める取り組みがあり、それはこれからも続けていく。あわせて中長期的な観点から取り組んでいるベターレギュレーション(金融規制の質的向上)は、この2年間で相当効果を現し始めた。また、市場強化プランも長期的なインフラ強化策として着実に進めていきたい。その上で、私は金融庁の機能である企画・監視・検査・監督の4種の連携を強化しつつ、さらにこれに国際という要素を含めて、情報交換やディスカッションを行い、マクロ的な健全性監督も含めた庁内の活動を展開していきたいと思っている。

――グローバル化への対応だ…。

三國谷 経済自体が多角化し、内外一体という要素は益々強まってきている。今回の金融混乱はまさしく世界的現象だ。それに対して、国際的な議論での様々な先端的な議論が必要な一方で、伝統的な地域における地域密着型金融や幅広い消費者政策なども忘れてはならない。ひとつ確実に言えることは、今回のように米国でおきたサブプライムなどの影響は、ただちに日本の地域金融、中小金融にまで大きな影響を及ぼすということだ。そのように時代が進化しているのだということを前提に情報を把握し、行政を考えていかなくてはならないと思っている。(了)