財務省 理財局長 川北 力 氏

財務省 理財局長 川北 力 氏

市場との対話を重視し国債発行



――今年7月から理財局長となられた…。

川北 この7月まで総括審議官を務めており、財政金融政策運営の調整を担当していたため、その立場で経済情勢・金融情勢をみてきたが、理財局の仕事は、より直接的、具体的にマーケットにかかわっている。これから新しい大臣の方針の下で国債管理政策等を進めていく。その中で、これまで理財局が培ってきた「市場との対話」の考え方は今後とも大事にしたいと思っている。今後とも国債市場特別参加者会合、国債投資家懇談会を開いて、国債市場の現状や今後の見通し等について意見交換を行っていく。

――7月に国債が増発された割には、マーケットは非常に安定している…。

川北 経済対策に伴う補正が行われて国債発行額が17兆円弱増加したため、平成21年度の国債発行予定額は借換債や財投債なども合わせて150兆円に上っている。こうした増発は国際協調という中での経済対策への対応として必要なものであり、それ自体が、経済や金融市場の安定化にも寄与しているとも言える。そのような中で7月以降実際に発行額が増額されているが、今のところ安定的に消化されている。もちろん経済情勢や金融情勢によるが、理財局としても「市場との対話」を進め、市場のニーズがどの辺りにあるかをしっかり把握するとともに、市場の予見可能性に留意して、どのゾーンにどの程度の額を発行するかといった方針を示しているということも一助になったのだろうと思っている。

――増発では発行形態として主に中期ゾーンが増えた…。

川北 今回の増発に当たっては、市場のニーズ等を勘案して各年限バランスよく配分している。中期債や長期債はもともと発行額が多いゾーンであるが、最近では生保等を中心に超長期債のニーズもある。このような様々なニーズを視野に入れて、今後も必要なところに発行していきたいと考えている。

――来年度から個人向け国債を多様化するという話もある…。

川北 なるべく幅広い、厚みのある国債保有の構造が望ましいとの考えから、個人や外国人による保有の促進にも取り組んでいる。家計の国債保有割合は、個人向け国債の導入後徐々に上昇し5%台になったが、最近は横ばいで伸びていない。個人向け販売分の動向は金利水準次第の面もあるが、やはり家計にも直接国債を持っていただくことは大事なことであり、現在、3年物の個人向け国債を発行する準備をしている。現在発行している5年物の個人向け国債の償還が平成23年から始まることになるが、それを再投資するに当たって、もう少し期間の短いものを求める声もあったことから、3年物の個人向け国債の来年夏からの導入に向けて準備することとした。

――非居住者向けの残高を増やすということで、海外でのIRも実施している…。

川北 現在の日本国債の保有構造は日本の金融機関が中心であるが、異なる投資行動をとる投資を促進することで保有者層を多様化したほうが市場は安定する。海外投資家の保有を促進するため、05年から海外でIRを始めたが、それまで4%程度だった海外投資家の保有割合は徐々に上昇し、08年9月には7.7%にまでなった。これは海外IRを実施した成果でもあり、今後も続けていきたいと思っている。08年末からは世界的な金融危機の影響もあり保有率は減っているが、今後は、海外投資家の中でも短期の売買ではなく、比較的長期保有を目的とした海外投資家、つまり海外の年金や中央銀行などに重点をおいて訪問するなど工夫しながらIRを展開していくことになるだろう。

――昨年はリーマン・ショックでレポ市場が不安定になったが、発行当局としてセカンダリーマーケットに対する問題意識は…?

川北 発行当局として、国債発行を如何に円滑に行っていくかということが我々のメインの役割であり、流通市場をどうしていくかは基本的には民間での話だと考えている。ただ、流通市場の状況が発行コストにも反映されるという面もあり、危機で大きく国債市場の流動性が低下した際には流動性を供給するなどの取り組みを行っており、市場からはそれなりの評価を受けていると思う。今後もそのような取り組みがどこまで必要かについては、絶えず市場動向をチェックしながら判断していかなければならない。

――物価も下がり、失業率も高くなっている今、デフレ対策として日銀が国債をもっと買ったらどうかというような意見もあるが、現在のマーケットをどのようにご覧になっているのか…。

川北 この1年を振り返ると、金融危機の中で、日銀は政府と協調しつつ、「非伝統的」と呼ばれることも含め、機動的に金融政策を行ってきたと思う。今後の日銀の政策について具体的にコメントすることはできないが、日銀はその時々の経済・金融情勢に対応して適切な政策をされると思う。

――最後に一言…。

川北 リーマン・ショックからほぼ1年経ったところであり、この金融危機の下での国債管理政策の様々な対応について、よくレビューをしながら今後の取り組みを考えていきたい。
また、毎日のように国債の入札を行っているが、市場関係者の方たちとコミュニケーションをとりながら、幸い今のところ安定的な発行が続いている。しかし、国債を発行することだけでなく、その償還までを考えれば、それはとても長いスパンの仕事だ。そうした長いスパンの中で問題が生じないよう、日々緊張して取り組んでいきたい。(了)