アイ・エヌ情報センター 取締役社長 岩瀬 一徳 氏

アイ・エヌ情報センター 取締役社長 岩瀬 一徳 氏

開示情報の活用が市場の課題



――御社は経済・金融データサービスの専門家だ…。

岩瀬 我々のビジネスベースは金融資本市場関係であり、各種経済統計や個別産業におけるデータなど経済や産業に関するデータにも力を入れているため、主力顧客はやはり大手の銀行や証券会社だ。今から8年前、私がこの会社に来て非常に印象的だったのは、大きなコンピュータがあること、そして、データそのものが充実していることだった。アイ・エヌ情報センターは1984年に設立した会社だが、当時の日本興業銀行グループと日興證券グループの共同出資によるものだったため、両グループから持ち寄った様々なデータや、新たに取材して開拓したデータを合わせると、資本市場をめぐる広範なデータには目を見張るものがあった。しかし、当時インターネットを用いた商品や営業活動には制約もあり、人材の勤務体制や、めまぐるしく変わるデータの更新のタイミングなど、課題もたくさんあった。そして、この8年間行ってきた365日24時間使えるデータベースの構築や、マクロ経済と産業データと資本市場データの関連付け、さらに、開示情報などの公表情報の取り込み等に対する取り組みが、もともとの素晴らしいデータベースと技術革新と融合し、今の我が社の姿になっている。

――バブル崩壊からメディアの数も激減し、金融データ会社も淘汰されつつあるこの時代だ…。

岩瀬 金融データ会社にグローバルな展開は欠かせないと思っている。日本だけにフォーカスしても、プロには物足りないからだ。一方で、日本のマーケットあるいは日本の居住者にかかる資本市場のアクティビティや、背景情報としてのマクロやセミマクロの動きには、当社のサービスは従来から定評があり、この強みは今後も生かしてきちんとカバーしていくつもりだ。もう一つ、日本の資本市場のしっかりした中身や細かいデータを、見易く、加工し易い形にして提供しているということも我々の特徴として取り上げたい。調べ物をする時にかけていた時間が短縮されれば、そのデータから見えてくるものにフォーカスすることが出来、今後の展開方法を考える時間や知恵も生まれてくる。我々はそのような活動の手助けをしたいと思っている。その点ではまだまだ伸びる余地はあるだろう。私は資本市場関係者の人達に、我々が提供している商品を通じて、よりレベルの高い仕事をしてもらいたい。そして、そのような商品を提供することを目指している。特に今、産業金融には、投資銀行と言われる分野の人達の活躍が非常に重要になってきている。そのために必要な色々なツールについても、我々が協力出来ることはたくさんある。投資銀行の人達がそれを通じてよりよい仕事ができるような商品を作り、一方でメディアの方々に資本市場の動きをお伝えし、とりあげてもらうことで、多くの人にそれが広まり、より正確な判断が出来るような流れをつくることが大切だと思っている。

――現在の資本市場をどう見ているのか…。

岩瀬 足元2年くらいを振り返ってみると、金融商品取引法改正により公正性や透明性は一層担保されるようになり、相当ポジティブな方向に動いていると思う。上場企業の資金調達額の推移を見てみると、07年上期にサブプライム問題が顕在化してからも、日本は対岸の火事のような受け止め方で08年上期ベアー・スターンズ破たんまで資金調達は順調に進んでいた。その後のリーマンショックではさすがに影響もあり、半期ベースで3割程度の減少はあったものの、直近の09年上期にはSBや普通株式のウエイトを高めつつ過去最高の6兆8000億円の資金調達が上場企業で行われている。資本市場は着実に活用され、機能しているということだ。プレイヤーは変わってきているが、資本市場そのものの信頼が揺らいでいる訳ではない。ただ、様々な規制などが課される中で、例えば四半期開示の義務化などに関しては、細かく開示するよりも、重要な部分だけを開示するようなシステムにしたほうが、簡単で、かつ実効性もあるのではないかと考えている。経営者が四半期開示を細かく意識し始めると、どうしても発想が短期的になり、それによって手足を縛ってしまうことにもなりかねない。内部統制も同じで、あまりにも細かくやりすぎると、却って実効性がなくなることも懸念される。

――情報開示の動きが進んでいても、その情報がなかなか必要なところに届かないという声もある…。

岩瀬 今は情報が氾濫していて、それに対する整理が大切になっている時代だ。その点、情報をどのように集めて、次のストラテジーにするのか工夫する人はまだ少ない。そういったところに関しては我々の腕の見せ所であり、そのようなニーズに応える商品も用意している。例えば、個別企業の株価一つ見るにしても、その会社の資本政策の実績がどうかが分からなければどうしようもないだろう。我々の商品には、すでにそういったことを盛り込んでいて重宝していただいているが、一般にはまだそういう道具立てがない。今後、必要と考えられる制度改革などもたくさんあるが、まずは、制度改革で整備されたものをどうやって上手く使うか、開示された情報を上手に使うことが出来る仕組みをどのように作るのかということのほうがむしろ重要だろう。

――今回のサブプライム・ローン問題で、いかにアメリカ方式が身勝手で、自分の儲けだけしか考えていないやり方だったのかというのが浮き彫りになった。その結果、そもそも企業は個人や会社だけのためのものではなく、社会のインフラのための存在であるという認識が改めて強まった…。

岩瀬 その通りだ。その意味で社会人教育、特に新卒の人をいかに教育してきちんとした社会人にしていくかということは、その会社、ひいては日本の発展の基礎を作るために非常に大切なことだと私は考えている。それは金融・資本市場業界のみならず、どこの業界でも同じだ。ここ数年来、終身雇用の崩壊や人材の流動化などで、会社としては人材育成、新人教育にお金をかけることが難しい環境になっていたが、最初にその教育のチャンスが与えられなかったり不十分だったりすると、その人達が中堅社員になり、幹部になってきた時に、日本の企業全体が相当弱くなるリスクがある。机上の勉強だけをしてきた学生が社会人になるためには色々な知恵や実地の勉強が必要だ。そこには公的な資金の補助があってもいいのではないかと思う。企業も、景気が悪くなると新卒採用を絞ったり教育費用を減らすこともあるようだが、採用や教育は企業としての社会的責任の一部と考えてもらいたい。そうしないことには今後の日本が心配だ。基本的な社会人教育や倫理観を植えつけることが、結局は内部統制などにもつながっていくのではないか。(了)