地方公共団体金融機構 理事長 渡邉 雄司 氏

地方公共団体金融機構 理事長 渡邉 雄司 氏

地方分権の改革を先行


聞き手 編集局長 島田一

――機構(公庫)に就任されて5年。「地方公共団体金融機構」としての債券発行も定着してきた…。

渡邉 国の機関だった「公営企業金融公庫」から地方共同の機関となり、6月の法改正では貸付対象も広がった。資金調達の中心は政府保証債から政府保証の無い公募債へとシフトしたが、それに備えてこの2年ほど色々な手を打ってきたことが、着々と成果を上げている。政府保証から政府保証の無い調達に変わるということは、新しい機構自身の信用力で勝負をするということだ。そのために一番基本となるのは、最終的には地方の信用が背景にあるということを明確に説明するということだ。また、金融機関として、リスク管理がきちんとしていることが非常に大事だという考えから、体制を整備した。ディスクロージャーも積極的にやっている。このような取り組みで、新しく発行する債券が実態的に地方債と変わらないと認識されたことが、市場に信認される理由になっている。

――組織が変わる前後ではスプレッドも拡大していたようだが…。

渡邉 昨年10月1日に新しい組織として業務をスタートしたが、その頃はリーマン・ショック直後で、正直なところ心配していた部分もあった。10年債のスプレッドは昨年、29bpでスタートしたが、その後はマーケット全体が改善していることと、スーパー地方債のキャンペーンなどを積極的に行ってきたことで急速にスプレッドが縮小し、現在は10bp、あるいはそれを割る程度となっている。説明会や個別のIRには、各役員や資金部を中心に証券会社の方々のサポートも得ながら主要投資家の方々や地方を回るなど、相当力を入れた。やはり、きちんとやるべきことをやれば効果はあると実感した。

――きちんとした説明を行ってきたことで、商品もマーケットに定着してきたと…。

渡邉 当機構は、いわゆる地方債の共同調達機関だ。貸出債権が全て地方公共団体で、最終償還についても地方公共団体が責任を持っていることなど、説明をすれば皆様にご理解いただける。また、証券会社のインデックスでは、今まで財投機関債として区分されていたものを地方債の区分にしてもらっている。そういった、色々な積み上げの努力が功を奏したと思っている。債券の発行も国を除けば恐らく日本では最大級で、現在の債券発行残高は総額19兆円、今年度の債券発行額は約1兆8,000億円になる。10年債や20年債については早期にマーケットに定着するよう、大体同じ時期に、例えば10年債は、10年国債の入札の後に毎月250億円、20年債は隔月で安定して発行するようにしている。今後は債券発行額が増えていくことも展望して、債券の多様化を進めている。

――多様化の具体案は…。

渡邉 かねてから日本版ユーロMTNのような仕組みを創設したいと思っていたのだが、今上期から「FLIP(Flexible Issuance Program)」という債券の発行を試みた。これは、投資家のニーズに見合うような自由な商品であり、このような仕組みを作ったのは本邦初だと思う。今年度上期に620億円、下期に380億円、トータル枠は1,000億円としたが、すでに、下期の枠も消化された。期間は最短で7年、最長で28年と本当に多様化している。我々発行者コストとしては通常の債券より若干だが低く、投資家にとっては期間も金額もポートフォリオにフィットする。証券会社にとっても引き受けリスクなどが少なく、皆にとって好都合な商品になっていると思う。

――リスクコントロールについては…。

渡邉 マーケットの信用という意味で最も大事なのは、リスクをきちんとコントロール出来ているかということだ。その点、我々の貸出先はすべて地方公共団体なので、信用リスクは全く問題無い。最大のリスクは超長期の金利リスクだ。貸し出しは最長30年なのに対し、調達の中心が10年債であるため2回の借り換えリスクが出てくる。ここ20年間は金利が下がり続けており、結果として、現在は金利低下のメリットをフルに受けて金利変動準備金も手厚くなっているが、逆に金利が上昇してくると大きなマイナスが出てくる。我々は通常の金融機関が抱えている以上に巨大な金利リスクを持っているため、その辺りのリスクコントロールが最大の問題だ。10年債と30年ローンの金利リスクのギャップを縮小していくために、今年度から超長期のALM(Asset Liability Management)もスタートした。まずは調達方法を従来より長期化していくこと、そして、20年債のウェイトを高めたり、その他の債券を充実させていくことなどを考えている。それで不十分な分については、一部調達債券と貸出を、両建てでフローター化させることも考えている。目標としては、調達と運用のデュレーションギャップを現在の3年から2年まで短縮させることだ。また、民間銀行に適用されるアウトライヤー基準(金利リスク量の自己資本に対する割合の基準)では、我々は基準とされる20%に収まっていないため、20%以下に抑えていくことを目標としている。

――国から地方の機関になって一番変わったことは…。

渡邉 国の機関から地方の機関になったということは、形の変化以上に、経営者にとってメリットを感じている。国の機関として総務省と財務省という二つの省の直接的な管理下にあると、経営の自由度は著しく限定される。経営というのはヒト・モノ・カネを如何に効率的にオペレーションしていくかということだが、国の管理下では人員は定員制で80人、それを毎年減らすよう主務官庁から指示される。また、モノとカネにおいては国の予算の一部であるため、完全に縛られてしまう。実務面でも、債券発行など一本一本に国の認可が必要だった。それが地方の機関となり、オペレーションについては経営陣に任せられ、中長期のALMやスワップの活用、債券の多様化など、経営者の判断で機動的に出来るようになった。政策金融改革の中で、当機関の改革は地方分権という方向性が非常にクリアで、我々は先行的に理念に沿った改革を行うことが出来たと思う。民主党政権になってからも地方分権という流れは変わらないと考えている。

――これからの課題は…。

渡邉 大きく分けて二つの課題がある。第一は資金調達の問題だ。地方財政はもっと厳しくなり、この2〜3年は我々の貸し出しのボリュームも今以上に増えていくだろう。それは、資金調達が今よりもっと増えていくということを意味する。今年度の市場から公募する機構債は6,000億円だが、来年度は私の予想では恐らく5割増し、再来年度は更にそれを上回る可能性もある。そう考えると、今以上に債券の多様化が必要で、同時に、今まで以上にマーケットの信頼を重視していかなくてはならない。もう一つは新しい取り組みである「地方支援業務」をしっかりと展開していくことだ。今後、この業務に関する具体案を1〜2年かけてじっくり練っていくつもりだ。例えば、人材育成や情報提供、それに加えてアドバイスなども行っていきたい。現在、地方の資金調達の大宗は縁故債だが、今後は自由化が進み、益々変わってくることが考えられる。こういった分野でのアドバイスも必要かもしれない。地方のニーズを良く聞きながら、この機構が非常に役に立つ、大切な機関だと思ってもらえるように、もっともっと積極的に活動をしていきたいと思っている。(了)