財務官 玉木 林太郎 氏

財務官 玉木 林太郎 氏

G20で議論・評価し、不均衡是正


聞き手 編集局長 島田一

――世界経済の枠組みが随分大きく変わってきている…。

玉木 世界経済は大きく変化しており、今次の金融危機の反省を踏まえつつ、望ましい世界経済の成長パターンに上手に移行していくための協力フォーラムとして、G20の役割が重要なものとなっている。9月のピッツバーグ・サミットでは「Framework for Strong, Sustainable, and Balanced Growth(強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み)」を始動することになったが、この枠組みのもとでは、各国が想定している経済政策や成長の姿を全体として捉えた場合に、世界経済の安定的な成長と整合的かどうかを検証していくことになっている。恐らく来年6月のカナダでの首脳会議、そして11月の韓国での首脳会議に向けて1年がかりの長い期間をかけてG20内で議論し、その後も定期的にレビューしていくことになるのではないか。G7では政策協調の長い歴史があるが、G7以外の新興国にとっては初めて政策の相互評価というプロセスを経験することになる。新興国は、世界経済に占めるそのウェイトが高まる中で、G7による決定の余波を受けていた存在から、G7と共に考える存在に変わってきている。

――「均衡ある成長」とは…。

玉木 昨年の第4四半期から今年前半にかけて世界中の生産と需要のレベルが大きく落ち込んだが、回復の過程で世界経済のバランスや持続可能性に配慮しようという意味が込められている。危機以前の世界経済の成長が米国の個人消費の伸びに大きく依存し、今後はそうした形での成長パターンが考えにくい中で、いかに今後の成長を実現していくかという問題意識も背景にある。また、「不均衡」にも色々な意味があり、多くの日本の議論のように「米国の経常赤字と中国の経常黒字をどうするか」といったような狭い問題に限られる必要はない。むしろ公的部門と民間部門のバランス、或いは、国内での投資と消費のバランスなどを含む、より広い概念なのではないか。さらに、これらの「不均衡」問題は相互に関係している部分もあり、例えば、中国で消費が増えれば輸入も増え、その結果、経常黒字が減ることになる。G20の議論では、中国がいつまでも輸出設備を増強するための投資を続けると、世界経済全体としてみた場合に資源配分が非効率となる、といった検討もできよう。世界経済全体を視野に入れながら各国が率直な意見交換をすることで、よりバランスのとれた持続可能な成長を促進できると考えている。

――日本では民主党が内需拡大を掲げているが、藤井財務大臣が円高介入をしないという姿勢を見せていることも内需拡大とリンクするのか…?…。

玉木 日本は昔のように突出した経常黒字を抱えているわけではないが、経済大国としてもう少し内需の振興を図ったほうがいいということは、長い間、誰もが日本のために考えていたことだ。新政権がそのような方向に向けて大きなステップを踏んでいるということは、G20での枠組みの議論とシンクロナイズしている。藤井大臣は、今般の経済危機からの回復を、日本が人為的な円安を通じて輸出主導で実現するという発想は、各国が通貨安のために為替介入を競って行った1930年代の二の舞であり、取るべき政策ではないという考えを強調されている。このことは、4月のロンドン・サミットでの合意に沿ったものでもある。また大臣は、為替相場は安定していることが重要だという点も強調されているが、これは円の水準について述べているものではない。介入については申し上げることはない。なお、不均衡の是正という問題を、為替相場の議論に直結させる、すなわち不均衡を為替の調整で解決しようと考えるのも適切でない。不均衡の是正に為替が無関係だと言うわけではないが、不均衡に対してはマクロの財政金融政策や構造政策といった政策で対応していくことが基本だろう。

――ガイトナー米財務長官は、ドル安政策を匂わせる発言もされたようだが…。

玉木 ガイトナー長官は、繰り返し「強いドルは米国の利益」と発言している。基軸通貨であるドルが不安定になることは、国際経済の安定という面から誰にとってもプラスにならない。米国がバランスの取れた経済政策を行い、安定した経済運営をすることで、結果的にドルが安定する。これが一番望ましい政策だという点は、長らく一貫した米国の立場だ。米国の赤字調整のためにドル安にしていこうという発想はないと思う。

――中国の変動相場制への切り替えについては…。

玉木 昨年の夏以来、米ドルにほぼ固定されている人民元の為替相場を、より柔軟なものとしていくことが、世界経済にとっても中国自身にとっても望ましいということは、G7を含め様々な場で議論されている。G20での議論は、中国に集中しているわけではない。新興国だけでなく、米国、EU、日本のそれぞれに取り組むべき課題があり、それを多国間で公平に議論する場だ。具体的には、他の国々の考え方を一国に強要するのではなく、危機からの脱却を目指す世界経済の流れの中で、他の国の視点から見た場合に、自分の国の経済政策がどういう評価になるのかを知ることで、各国の政策当局者がその後の政策判断に役立てることを目指すものだ。昔の「日独機関車論」のように、単純に数値目標を置いて議論を進めるようなプロセスでは、決して上手くいかない。G7も政策協調の長い歴史を経て、そういったことをしようという場ではなくなってきている。

――中国の外貨準備高が大量に金に変わってきているようだ…。

玉木 1970年代半ば以降、世界は金を準備通貨として持つことから卒業するという方針で合意しており、その後、米国、欧州、日本とも、金の買い増しはしていない。むしろ欧州の中央銀行などは定期的に金を売却している。供給が急増して金の相場がいきなり崩れないような配慮はしていても、外貨準備に占める金の比重を高めていこうという考えは、少なくとも先進国の公的な準備当局の間には無い。中国は外貨準備高が急増し2兆ドルを超える水準になってしまったという事情もあるが、もともと金の保有はそう多くはなかった。

――日本も先進国にしては異例の約100兆円の外貨準備金があるが、この中身を変更していくような案は…。

玉木 準備資産としての金は、金利のような定期的な収益を生まず、保管費用がかかり、介入通貨としてすぐに使えるわけではないという制約がある。また歴史的にも準備通貨としての役割は終えたというのが、1970年代に確立された考え方だ。また、外貨準備の通貨構成については、今後も米ドルを中心に運用していくという考え方に変更はない。今般の国際金融危機への対応として、外貨準備をIMFやJBICへの貸付に活用したが、それだけではなく、政策として国の資産をいかに有効に使うかという議論は、これからもさまざまな分野で必要だと思っている。(了)