日本公認会計士協会 会長 増田 宏一 氏

日本公認会計士協会 会長 増田 宏一 氏

金融危機を契機によりよい基準へと見直しへ


TOPインタビュー総集編 ―09年6月〜11月期―

聞き手 編集局長 島田一



――最近では、欧州の大手金融機関が時価会計の緩和措置を利用して損失を回避する例が顕在化してきている…。

増田 サブプライム問題の影響は、発生元である米国よりむしろ欧州での被害が大きくなっていったため、欧州では会計基準の適用の仕方を少し変えたわけだ。これは時価会計を凍結するとか廃止するという議論ではなく、マーケットが異常な状態に陥った場合に、ただ同然の投売り価格を時価と考えてよいか、といった時価会計の中での適用すべき時価の議論である。日本では時価会計が景気を悪化させている、時価会計を凍結すべきだ、といった過激な言動もあったが、世界では時価会計自体を止めようというような議論はされていない。時価会計を止めることによって景気が良くなるというのであれば、止めることも考えればいい。しかし現実はそうではない。時価によって取引されているものが、時価とは全く関係のない10年前の取得価格で貸借対照表に計上されれば、それこそ財務諸表の利用者を惑わすのではないか。含み損があたかも価値があるかのように表示されているのであれば、財務諸表など誰も信じなくなる。

――時価会計に限らずいろいろな基準は、それが経済社会全体に及ぼす影響を考えた上で適用すべきだ…。

増田 中小企業にも時価会計を適用すると財務状況が悪化し、金融機関からの融資の打ち切り等の事態が予想されるため、公開会社でない中小企業については時価会計を適用すべきでない、というような議論がある。時価会計というと何でもかんでも時価で評価するというように思われる人もいるが、時価で評価しているのは貸借対照表のごく一部だ。有価証券やデリバティブなど時価で取引されているものを時価で評価するというもので、工場として使用している土地を毎期時価で評価しているわけではない。時価で取引されるものを時価で評価するというのはその実態を最も正しく表現しているわけで、これは大企業であろうが中小企業であろうが関係ない。中小企業であっても余裕資金を株式で運用し、運用に失敗したのであればその事実を財務諸表に時価で計上するという形で反映させるべきだ。もっとも自社の社債が時価で取引されているので負債も時価評価するといった論点は、今後多くの議論を行うべきと考える。会計基準は固定的・普遍的なものではない。経済社会の進展に伴って、もっとも実態を正しく表現する基準が絶えず模索されている。今ある会計基準は、業界の意見や世界経済の流れを見ながらできたものだ。20年前の米国貯蓄組合(S&L)危機が今の会計基準のきっかけとなったように、今回もサブプライム問題を契機としてよりよい基準への見直しが行われていくと考えるべきだろう。



――緊急経済対策として住宅金融支援機構がますます重要な存在になってきている…。

島田 5月29日に補正予算が成立し、住宅金融支援機構に約4千億円が増資され、資本は約9千億円となった。我々の主力ローンである「フラット35」の制度も拡充され、これまで90%だった融資率(借り入れ限度額)を100%に引き上げ、住宅ローンの借り換えに対する融資も可能となった。また、長期優良住宅普及促進法が施行されたことで、いわゆる「200年住宅」といった、その法基準を満たした優良住宅に対し、0.3%の金利引き下げ期間が従来の10年間から20年間まで延長。固定金利で返済期間が最長50年の「フラット50」も導入された。その他、金融機関が取り扱う住宅ローンに対する融資保険の保険料率の引き下げや、賃貸住宅に対する貸し出しの要件の拡充など、積極的な景気対策に向けて我々も取り組んでいる。

――住宅政策は内需拡大の目玉だ…。

島田 強いて言えばこれに加えて自動車産業もあるが、まず政府が一番重点を置いているのが、裾野が広く波及効果も大きい住宅産業ということだ。何千万円という住宅をキャッシュで買う人は滅多におらず、ローンへの需要が高く、現在は変動金利や10年以下の固定金利が中心だ。しかし今後、金利がずっと上がらないという保証はない。事実、米国では約2%だった長期金利が4%近くに上昇し、同様に欧州や日本でも上昇傾向にある。7月の赤字国債増発が、先述の商品の金利へどういった影響を与えるかは不透明だ。しかし、一つはっきり言えるのは、今が超低金利だということだ。このような状況下で今後35年間一定の金利を提供できる我々の長期固定ローンは、国民のためになる安心・安全なローンと言えるだろう。



――ガイトナー米財務長官は、ドル安政策を匂わせる発言もされたようだが…。

玉木 ガイトナー長官は、繰り返し「強いドルは米国の利益」と発言している。基軸通貨であるドルが不安定になることは、国際経済の安定という面から誰にとってもプラスにならない。米国がバランスの取れた経済政策を行い、安定した経済運営をすることで、結果的にドルが安定する。これが一番望ましい政策だという点は、長らく一貫した米国の立場だ。米国の赤字調整のためにドル安にしていこうという発想はないと思う。

――中国の変動相場制への切り替えについては…。

玉木 昨年の夏以来、米ドルにほぼ固定されている人民元の為替相場を、より柔軟なものとしていくことが、世界経済にとっても中国自身にとっても望ましいということは、G7を含め様々な場で議論されている。G20での議論は、中国に集中しているわけではない。新興国だけでなく、米国、EU、日本のそれぞれに取り組むべき課題があり、それを多国間で公平に議論する場だ。具体的には、他の国々の考え方を一国に強要するのではなく、危機からの脱却を目指す世界経済の流れの中で、他の国の視点から見た場合に、自分の国の経済政策がどういう評価になるのかを知ることで、各国の政策当局者がその後の政策判断に役立てることを目指すものだ。昔の「日独機関車論」のように、単純に数値目標を置いて議論を進めるようなプロセスでは、決して上手くいかない。G7も政策協調の長い歴史を経て、そういったことをしようという場ではなくなってきている。



――これからの課題は…。

渡邉 大きく分けて二つの課題がある。第一は資金調達の問題だ。地方財政はもっと厳しくなり、この2〜3年は我々の貸し出しのボリュームも今以上に増えていくだろう。それは、資金調達が今よりもっと増えていくということを意味する。今年度の市場から公募する機構債は6,000億円だが、来年度は私の予想では恐らく5割増し、再来年度は更にそれを上回る可能性もある。そう考えると、今以上に債券の多様化が必要で、同時に、今まで以上にマーケットの信頼を重視していかなくてはならない。もう一つは新しい取り組みである「地方支援業務」をしっかりと展開していくことだ。今後、この業務に関する具体案を1〜2年かけてじっくり練っていくつもりだ。例えば、人材育成や情報提供、それに加えてアドバイスなども行っていきたい。現在、地方の資金調達の大宗は縁故債だが、今後は自由化が進み、益々変わってくることが考えられる。こういった分野でのアドバイスも必要かもしれない。地方のニーズを良く聞きながら、この機構が非常に役に立つ、大切な機関だと思ってもらえるように、もっともっと積極的に活動をしていきたいと思っている。



――新旧の政策の仕分け作業にある程度の時間はどうしても必要だろうから、その間、どうしてもつなぎで国債増発が必要になってくる…。

野田 今年の税収は当初の46兆円見込みよりも減少し、40兆円を下回る可能性も出てきた。8月の課税実績を見てみると、法人税は入ってくる金額よりも還付金のほうが多いという事態になっている。また、所得税や消費税の状況も前年と比べて厳しい。既に麻生政権のもとでは44兆円の国債を発行してきたが、今回は世界同時不況の影響として、この税収不足分を新規国債で賄うということはやむを得ない状況だろう。

――税収減にともなう5兆円程度の国債増発は、麻生政権の時に市場は既に織り込んでいる。しかし、2次補正予算や来年度の一般会計総額を3兆円削減して92兆円にするという数字をマーケットが織り込み始めると、長期金利に影響が出てくる…。

野田 92兆円と言わず、さらにまだ削減すべく努力する。来年の税収や今後の経済見通しがどうなるのかは、もう少し指標をみながら判断すべきことだと思う。今回の予算編成の方針にもある「財政規律」と「国債マーケットの信任」という言葉を常に念頭において厳しく査定をしているところだ。また、マーケットの動向に細心の注意を払うと同時に、市場との対話を通じて円滑に国債発行が出来るような環境整備に取り組む努力も忘れてはならないと思っている。とにかく、財政規律をしっかり考えているというメッセージを出し続けていくことが大事だ。



――8月の全国消費者物価指数は4カ月連続で過去最大の下落率を更新。デフレ対策が求められる中、日銀は、年末に企業CPオペや社債買い取りオペを打ち切る方向で検討に入った…。

亀井 そのような話が正式に日銀からこちらに届いているわけではないが、もし、そういうことをやろうとしているのであれば、それはおかしな話だ。私はかつて運輸大臣、建設大臣の経験をしてきたが、これまで日銀が通貨の番人としてきちんとした役割を果たしてきたかというと、それには少し疑問がある。これは日銀にも、我々政府にも言えることだが、実体経済をきちんと見なくてはならない。そして、統計の数字の奥にあるものを読み取る力がなければ駄目だ。その奥にある動きを見なければ、トップとしての責任は果たせない。成長率にしても、率だけをみるのではなく、その中身が将来に向かって伸びていく力をもっているのかどうか、富の配分がきちんと行われながら経済が伸びているのかどうかをみることが必要だ。そのような眼を持つことが、特に政治家には大切だと思っている。

――大臣は国民の皮膚感覚を良くわかっていらっしゃる…。

亀井 わからない。わからないが、わかろうと努力している。わかっていると思ったら間違えてしまうから。

――モラトリアムの具体案は…。

亀井 これは中小企業・零細商店やサラリーマンに「頑張るぞ」という気力が出てくるように、頑張る気力のある人に対して当面の借金返済を猶予するというものだ。頑張る気力のない人に対しては、その場で整理をしたほうが本人のためになると考えている。また、借金返済を猶予した場合に新たな貸付けへの影響を心配する声もあるが、そういった配慮もきちんと行う。まずは仕事を出来るような状態にすることが大切だ。そして、今、現実社会の中で起きているような、大企業が下請けの中小零細企業に少しの儲けも出ないような値段で仕事を押し付けたりするのではなく、昔のように、下請けも孫請けも利益が出るような発注をしていかなければならない。そういう仕組みに向けてトータルで取り組んでいかなければ今の状況から抜け出すことは出来ないという考え方において、鳩山総理と私の考えは全く同じだ。



――長官として、新たな金融庁を切り盛りしていくために心がけていくことは…。

三國谷 まず、金融システムの安定、利用者保護と利便の向上、そして公正・透明で活力ある市場の確立という金融庁の3つの責務は永遠に変わらず、我々はこれを日々追及していく。次に現下の課題として、サブプライムやリーマンショック以降の経済情勢に対して金融仲介機能の円滑化を求める取り組みがあり、それはこれからも続けていく。あわせて中長期的な観点から取り組んでいるベターレギュレーション(金融規制の質的向上)は、この2年間で相当効果を現し始めた。また、市場強化プランも長期的なインフラ強化策として着実に進めていきたい。その上で、私は金融庁の機能である企画・監視・検査・監督の4種の連携を強化しつつ、さらにこれに国際という要素を含めて、情報交換やディスカッションを行い、マクロ的な健全性監督も含めた庁内の活動を展開していきたいと思っている。

――グローバル化への対応だ…。

三國谷 経済自体が多角化し、内外一体という要素は益々強まってきている。今回の金融混乱はまさしく世界的現象だ。それに対して、国際的な議論での様々な先端的な議論が必要な一方で、伝統的な地域における地域密着型金融や幅広い消費者政策なども忘れてはならない。ひとつ確実に言えることは、今回のように米国でおきたサブプライムなどの影響は、ただちに日本の地域金融、中小金融にまで大きな影響を及ぼすということだ。そのように時代が進化しているのだということを前提に情報を把握し、行政を考えていかなくてはならないと思っている。