野村ホールディングス 野村証券 取締役執行役社長兼CEO 渡部 賢一氏

野村ホールディングス 野村証券 取締役執行役社長兼CEO 渡部 賢一氏

世界に一つの野村流モデルを構築


聞き手 編集局長 島田一

――現在、野村ホールディングスのバランスシートの状況は…?

渡部 2009年9月末で連結の資産は約28兆円程度だ。当社の連結の自己資本は10月に行った公募増資後で3兆円弱となる。景気が順調に回復すれば来年にも導入される可能性があるといわれている金融機関の自己資本に対する規制強化も考えると、自己資本が大きすぎる水準とはいえない。ちなみに、増資後の当社の連結自己資本比率は概ね24〜25%、Tier1比率は約17%程度だ。

――世界中で金融機関の自己資本強化が叫ばれる中、日本では景気対策として中小企業への資金供与の圧力もあるが…。

渡部 中小企業への資金供与に関する議論は、日本だけではなく、世界中で行われている。もちろん、景気への効果を考えながら議論されているが、「誰が、どのタイミングで、どのような物差しで景気がよくなったと判断するのか」という肝心な部分が明確でないのではないか。各国は自国の金融機関を一番に考えて動いている。特にインターナショナル市場が暫くロンドンに移り、忸怩たる思いで影を潜めていたウォール・ストリートの人々は、英国FSAが流動性基準を強化するよう金融機関に求めたことで金融界からの反発や諦念が渦巻いていることを機に、再度、NY市場の地位を取り戻そうと考えている。今、世界中の金融を取り巻く状況がこのような戦いの中にあるということを、日本もきちんと理解し、もっと工夫をしなければ、さらに日本市場は取り残されてしまうだろう。

――野村は昔はポジションを持たないスタンスだったと思う。ある時期からポジションを持つようになった理由は…?

渡部 当社は常に時代の流れの中で変化している。現在の証券業務においては、ポジションを持たないことには売買も引受も出来ず、お客様に最適なサービスを提供することが出来ない。また、単純に取引所に上場されているものを、委託手数料を頂いて取次ぐブローカー業務だけでは、手数料が自由化され、インターネット売買が発達した現在では生き残りは容易ではない。そうすると、長期でポジションを持ち続けるようなことはしないとしても、やはり一定のポジションは持ち、お客様の取引に応えていく必要がある。ちなみに、来年以降はディストレス債(経営状況や財務体質の悪化などから著しく価格が低下した債券)のようなものもポジションに取り入れていくことを検討したいと考えている。来年は景気もまだ不透明で、取扱うことは容易ではないかもしれないが、再来年以降回復する可能性もあると考えているので、検討を進めていきたい。本当はもう始めてもいい頃かもしれないとも思っている。

――来年5月からは上海万博も始まるが、その後のマーケットの変化をどう予測するか…。

渡部 上海万博に焦点を当てて大きな相場の変動を睨んでいる方々もいるようだが、そういった影響は当社にはあまりないと考えている。

――野村のグローバル展開は今後どのように進めていくのか・・・。

渡部 我々はこれまでロンドンを中心にグローバル展開を行ってきた。しかし、世界の金融市場における売り上げの5割のシェアを占めているのが米国であり、グローバル展開するに当たって米国は無視できない。野村にとっては、米国は開拓の余地があるエマージング市場だ。ニッチなことは行わずに、売買を中心としたオーソドックスな証券業務を行い、米国でしっかりと存在感を示せるようになることがポイントだと考えている。来年には、旧リーマン・ブラザーズの出身者を含めた優秀な人材を獲得し、米国だけで2000人近くまで人員を配置する方針だ。そして、中国、インド、中東への取り組みをまとめあげ、国内のリテールとホールセールのビジネスの融合を完成させる。それが直近の課題だ。

――アジアに対しての具体的な取り組みは…。

渡部 中国やインドに関しては、もっとビジネスを拡大していく予定だ。中国でのM&Aアドバイザリー分野のリーグテーブルでは、今年もベストM&Aアワードをいただけるだろうと期待している。昨年リーマン・ブラザーズの人員を承継して以来、お互いの顧客基盤を融合させ、広げていった効果が現れていると思う。アジアはリーマン・ブラザーズの組織をまとめて承継したため、それによる収益効果が出ている。一方で、より効率的にビジネスが進められるよう、組織の見直しなどにも取組んでいきたいとも考えている。

――リーマン・ブラザーズを承継したことで、カルチャーの違いによる不和はなかったのか…。

渡部 確かに給与の水準の違いということに対する違和感はあっただろう。しかし、4月には新たな給与体系を取り入れた。その結果、その給与体系を選択できる部門の社員のうち、半分程度は新たな給与体系を選択した。今の時代からは当然の流れとして、そうした変革を望んでいた人間も多い一方で、逆にそれを選択しない人も半分いるということだ。また、日本の労働市場は大学新卒採用が圧倒的だが、旧リーマンの人事部長から見ると、日本の大学新卒者は非常に子供のようにみえるそうだ。新入社員の研修に関しても、海外の目から見れば、家庭や学校で既に終えているべきことだとなる。この、日本社会全体における未熟な部分を、プロフェッショナルな眼で率直に指摘しあえる環境が生まれることが、当社にとってもいい影響を与えてくれると感じている。国籍でいえば、70カ国以上の人々が存在している会社だ。職種と本人の趣向による色々な選択肢は残し、より良い労働環境を作るよう努力している。

――着々と世界戦略が出来つつある様だが、グローバル化で目指すところは…。

渡部 ゴールドマンサックスのようにトレーディング中心で猛進しているところや、モルガン・スタンレーのように自国のリテール市場へ回帰していくところなど、得意な分野はそれぞれだ。当局の規制が強化される方向に力が働きやすい今の環境においては、自社にあったやり方でビジネスを進めていくことが、生き残り策として非常に大事なことだと考えている。ただし、それを日本の中だけでやっていてもガラパゴス化してしまう。当社はあくまでもアジアから出発し、アジアをベースとしているため、力を入れるべきところは中国・インド・ASEANといったアジアだ。また、同時に中東やリビアなども注目している。さらにブラジルまで手が届くかもしれない。今後はこのようなところに力を入れてグローバル化を進めて行きたいと考えている。当社は、あくまでも当社が考えた投資銀行業務を軸にビジネスにまい進していく。いわば、世界に一つの野村流のビジネスモデルを作り上げていくということだろう。

――野村がグローバル化していくなか、リスク管理態勢は・・・。

渡部 日本以外のインターナショナルな取引については、アジアも含め全てロンドンに集中させるようにしているため、基本的なポジションは主としてロンドン、そして日本におくこととしている。昨年11月にアポイントした、CRO(チーフ・リスク・オフィサー)もロンドンにいる。今後はNYをどのように包括していくかが課題だろう。私も、リスク管理のために、すべてのポジションに目を通すのが日課となっている。

――日本においても野村の一人勝ちというイメージがあるが、それは、やはり銀行系証券ではないというところに違いが有るような気がする。銀証分離についての考えは…。

渡部 昨年の金融危機時にボルカー元議長が銀証分離を唱えていた。彼は現在、米オバマ政権における大統領経済回復諮問委員会の委員長に就任しているが、伝統的な商業銀行とインベストメント銀行は分けるべきだという意見は、最近は彼以外からも出てきている。例えば銀行業務、証券業務が同じ会社の中で制度上出来たとしても、銀行の立場でお金を貸している金融機関が、さらに株や債券を発行させたりする場合のコンフリクトのマネージメントはとても重要であるとともに、非常に難しいと思う。証券においては、販売する相手は投資家であり、第三者的な目があって初めて販売出来る。また、本来、銀行マンと証券マンの気質は全く違っていて、証券のことを銀行がやっていくのは簡単ではないだろう。利益相反という大きな問題もあるが、それ以前に、真に投資家の立場に立って証券を販売していくことは、第三者的な立場で関われる証券に一日の長があるのではないか。

――来年はどのような年になるのか…。

渡部 我々は年明けには株も景気も回復してくると予想している。世界中で中央銀行が紙幣を印刷して大量に資金供給を行い、各国政府はばら撒きともいわれるような景気対策を行った。そのような中で、信用力も高いはずの日本が、一番少ない戻りしか見せていない現在の状況を考えると、来年以降は日本市場も上向いてくることが期待できるのではないか。そうした判断も含めて、来年はより積極的にグローバル展開を推進していきたいと考えている。(了)