大和証券グループ本社 執行役社長 鈴木 茂晴 氏

大和証券グループ本社 執行役社長 鈴木 茂晴 氏

アジアに強いグローバル企業に


聞き手 編集局長 島田一

――ホールセール・ビジネスで三井住友FGとの共同出資を解消する…。

鈴木 三井住友銀行は、イニシアティブを執り、銀行としてホールセール会社をコントロールしていきたいという思いが強かったのだろう。提携解消は残念な結果だとは思うが、当社は証券会社であり、ホールセール会社とリテール会社それぞれが車の両輪の役割を果たしている。それは、どちらが欠けてもいけないものだ。ホールセール・ビジネスはリテール・ビジネスと比べてボラティリティが非常に高いため、収益にも大きなブレが出てくる。仮にホールセール会社が当社の連結対象から外れるということは、我々がコントロールできない事業によって当社の利益が大きく左右されることを意味する。中核事業に対する責任を持つことが出来なければ、上場会社として大きな問題になってしまう。上場を維持できない可能性もある。そういった話し合いを重ねながら、どうしてもお互いの接点を見つけることが出来なかった。結果このような形になった訳だが、我々は10年前は自分達だけで独立系としてやっていた。そう考えると、これはセカンド・ベストに近い判断だったと思っている。

――銀行系証券ではないということで、逆に評価が上がったのではないか…。

鈴木 合弁によって得たものもあるが、失ったものもある。特に、注文規模の大きいメガバンクや地方の金融機関からは、これまでライバルの銀行との関係があるが故に当社に注文が出しにくかったということもあっただろう。それが、独立したことで色々な注文が出し易くなった。顧客にとっても独立系が増えることで複数の会社から相見積もりがとれるようになるなど、利便性も高まったのではないか。今回、三菱UFJフィナンシャル・グループが行った増資でも、我々は共同主幹事としてこれまでにない幹事比率をいただくことができた。

――銀証分離という意見について…。

鈴木 行き過ぎた融合には歯止めが掛かるだろう。極端な銀行と証券の一体化は利益相反となり得るからだ。例えばファイア・ウォール規制などでは日本でも垣根が低くなっているように見えるが、利益相反の防止という強い意志がむしろ盛り込まれ、きちんとした業務の分離を行うという法の精神は何も変わっていない。それは、一段の自制が求められているということであり、決して垣根を下げているという訳ではない。必ず、その後の検査を含めて、業務を分離して行う能力があるのかどうかが問われる。

――銀行と証券のカルチャーは一緒には出来ない…。

鈴木 実は先日のIRの際に「もう少しリスクをとらなくてはいけないのではないか」との投資家の指摘にあった。しかし、例えば我々は3〜4年の期間、三洋電機に1,250億円の自己資金を投資していた。この規模の自己資本の投資案件はかなり大きなもので、そのように思い切ったことをやった証券会社は、ここ最近では当社だけだった。今は何が起こるかわからないし、市場全体の傷も完全には癒えていない。投資銀行である以上、ある程度リスクを取らないことには利益が出ないことは十分に分かっているが、現在は、流動性の確保と安全性を重視すべき時期だと思っている。リスクをとって利益を上げよという投資家の声は理解できるが、今後を見守っていて欲しいと思う。

――銀行を設立するという話は…。

鈴木 現在、証券総合口座において、お客さまの現金はマネー・リザーブ・ファンド(MRF)で自動運用されるのが一般的だが、その金利が低いため、自前で銀行をつくり、証券口座と銀行口座間で自動資金移動ができれば便利なのではないかと考えていた。インターネット銀行ならではの低コスト運営による高金利預金の提供が可能になる。お客さまの利便性が向上するであろうという思いでやっている。

――リテールとホールセールのバランスやリンケージについては…。

鈴木 当社の強みは販売力を持ったリテール証券会社があることだ。その基盤の上に、事業法人、金融法人、個人にアクセスできる強固なチャネルを持っている。そういうバランスがきちんと取れた証券会社は限られており、そこが我々の証券会社としての最大の強さだと認識している。今まではホールセール部門が合弁会社ということで、色々な戦略的なことにしても合弁相手の意見や考えを尊重しなくてはならなかったため、なかなか思い切った動きが出来ずに制限されていた部分もあった。しかし、今後は人事・給与等も含めて、もっと大胆に物事を進めていきたいと考えている。将来的にはホールセール会社とリテール会社を統合するという話も出てくるかもしれないが、今のところ一緒にする必要性はないと考えている。

――今回の金融危機をきっかけに、昔のような、良い意味で日本的な証券会社に戻っていくのか…。

鈴木 もちろん企業として利益はあげなければならないと思うが、お金を借りて、レバレッジを効かせて、とにかく儲かれば良いというやり方は如何なものかと思う。今は、利益の大きさではなく、どうやって利益を上げたかに大きな意味がある時代が来ている。世の中に役に立っているからこそ、その企業は存在している訳で、役に立たない企業は淘汰される。いい仕事をして初めて存在が認められるという部分がないと駄目だ。無茶苦茶なことをして利益をあげ、その後のことなど全く考えない企業が、社会にとって本当に必要なのかと、個人的には強く思う。

――自己資本比率規制強化では、銀行と離れることによって、流動性等が今後の課題になってくる…。

鈴木 当社は今、これまでに無い程、財務的に余裕があり、自己資本比率も300%以上ある。三井住友FGから大和証券SMBC株式の40%分を買取るため2,000億円を払ってもなお、1兆円近い自己資本、約2兆円の短期流動性資金を保有し、安全性はきわめて高い。このため、エクイティファイナンスについては現状、必要ない。

――年明け以降の動きをどのように見ているのか…。

鈴木 今よりひどくなることはないだろう。少しずつではあるが米国の失業率も改善し、いい数字も出てきている。ドバイ・ショックもそれほど尾を引くようなことはなさそうだ。今回の金融危機の大きな引き金となったのは米国の不動産であるため、そこが戻らなければ本格的な回復にはならないとは思うが、来年の後半くらいは、その辺りも回復してくるのではないか。我々もその動きを先取りして、2〜3年のターゲットでアジア中心のビジネスを展開していこうと考えている。

――今後はアジアがキーになると…。

鈴木 我々は「アジア+α」と呼び、アジアとブラジルに力を入れていこうと考えている。アジアは競争が激しいが、まだまだこれから伸びていく市場だ。現在、当社には海外に2千数百名の人材がいるが、その内、アジアにいる約650名を、倍近い約1,150名に増やしていこうと思っている。まずは香港を第2本社として位置付け、役員も4人体制とする予定だ。香港とシンガポールには特に力を入れる一方、インドでは引受業務を行う予定になっている。現在アカウントの中心はロンドンで人員は約500名を構えているが、アジアのオペレーションのアカウントもロンドンにするとなれば、その部分の資本強化も必要になってくる。すべて含めて、今後1,000億円ほどの資本金の増強を考えている。我々はかつてシンガポールにDBS銀行という政府との合弁の銀行を持つなど、アジアにはもともと力を入れて色々なことをやってきた経験もある。また、ここ数年間、中国のIPOでのPOWL(売り出し先の取引所に上場せずに株式を販売する手法)については、当社がほとんどの銘柄を主幹事として行ってきた。中国は地政学的にも近いところであるため、今後はフルライン・ビジネス(現地引き受け、販売)をやっていこうとも考えている。

――大和証券が目指すスタイルは…。

鈴木 このビジネスをやっている限りは、やはりグローバルな企業として生き残っていかなくてはならない。幸い、我が社には2,000人以上の社員が海外にいる。主力はロンドンとNYだが、今、そこではなかなか大きなプレゼンスを出すことが出来ていない。だからこそ、アジアで高いプレゼンスを示すことで「アジアに強いグローバルな企業」として認められることになると考えている。マーケット部門で「2011年度アジア株TOP5ブローカー」、IB部門においては「2012年度の日本を除くアジア太平洋地域のエクイティ・キャピタル・マーケット・リーグテーブル・トップ10」を、各々の目標として掲げている。これは非常に高いハードルではあるが、頑張って達成したいと思っている。そのために、アジアにいい売り物があれば積極的にM&Aなどを考えていきたいが、今はなかなかそういうところがない。必ずしも100%出資で子会社化するということに拘らずに、いいものがあれば投資し、買収できるのであれば買収するという考え方だ。日本での買収や新たな業務提携については、今のところ頭の中には全くない。(了)