大阪証券取引所 代表取締役社長 米田 道生 氏

大阪証券取引所 代表取締役社長 米田 道生 氏

24時間体制の総合取引所へ


聞き手 編集局長 島田一

――取引所間の競争がますます厳しくなっている…。

米田 我々の主力デリバティブ商品となる日経225先物・オプション取引は開始から約20年経つが、シンガポール証券取引所にも同じような時間帯、同じ円建てで上場しているため、この間、シェアを奪い合ってきた。シンガポールは金融立国で、国をあげて金融市場を育成する体制があり、世の中の動きに対しても機敏に対応している。こういった動きが最近一段と激しくなってきており、取引時間ひとつ見ても、シンガポールでは日本時間の午前8時45分から翌日0時55分までという、我々より常に長い時間取引をしている。客観的に見れば、それぞれが競争することで良い市場が出来上がり、全体として日経225先物市場のパイが大きくなって行く好ましい動きであるが、互いの競争は熾烈だ。世界でも日本国内でもデリバティブは成長分野であるため、競争は避けられない。また、我々は為替も取り扱っており、商品取引所や金融取引所等とも同じ土俵の中で競争をしていかなくてはならない。

――その競争に勝ち、生き残るためには…。

米田 いかに特色を出していくかがポイントだ。我々は株価指数先物・オプションの取引時間に、現在午後4時半から8時までのイブニングセッションを設けているが、これを今年半ば頃には11時半まで延長する予定だ。イブニングセッションでの取引は拡大を続けており、今では対日中取引高比率で16%に達している。しかし、現在の午後8時までという時間ではニューヨークの取引時間には重ならないため、さらに取引時間を延ばすことを決めた。

――イブニングセッションでの取引が増加している理由は…。

米田 個人投資家と海外投資家の取引拡大が寄与している。先物商品というのは現物市場のヘッジ手段であるが、グローバルな経済において、取引が午後3時に締め切られ、翌朝9時まで身動きが取れないと、その商品は顧客に不安を与えてしまう。リーマンショック以降、海外の動きからの影響が強まっており、何かあった時でもすぐに取引ができるような状態にあることで、商品としての安心感も高まっているのではないか。

――日経225miniやFX取引の動向は…。

米田 日経225miniは約3年前に始めた商品だが、短期間に急成長した。海外で同様の商品のミニサイズを導入した例はいくつかあり、それを参考にしながら取り入れたのだが、正直なところ、ここまで成長するとは思わなかった。当初は従来サイズの2割の金額くらいにとどまると考えていたのだが、昨年の実績では半分近くになっている。一方、FX取引は昨年7月に開始したばかりで、まだ参加者は少ないが、今後は大手のネット証券の参加も見込めており、市場として少しずつ育っていくのではないか。為替の動きをみていると、出来高が一番多いのは夜の10時から翌朝2時までのNY市場が開いている時間だ。取引所としては、こういった市場の参加者のニーズに迅速に対応して、よりよい市場を作り上げていきたい。FXは基本的に24時間取引になるため、職員の勤務体制も3交代制にして対応している。我々は、先物・オプションも24時間取引を考えているため、今回の取り組みは勤務体制や取引の管理体制という面でのワンステップになる。

――今後、力を注いでいくところは…。

米田 日経225miniの導入や取引時間の延長のように、ニーズに応えていくということが第一だ。商品ラインナップとしては、既に証券からFXまで広げており、いずれは金などの商品の世界にも取り組み、総合取引所になることを構想している。まずは、どういった形で取り組んでいくかということを考えていかなければならない。資金はボーダレスに動いている。投資家も国内だけではない。グローバルな視点も取り入れながら、取引所のやり方や上場している商品を変えていく必要がある。大証はそんなに大きい規模ではなく小回りも利くため、出来るだけ早く変化に対応することが大証らしさだと認識している。そうしないことには大証の存在意義はない。今後、力を入れるべきところはデリバティブの分野と新興市場だ。新興市場はナスダック・ジャパン以前から力を注いできた分野だが、現在では信頼性に絡んだ色々な問題が出てきているため、今回ジャスダックと統合した上で、再活性化を図っていく。

――統合したJASDAQの拠点はどこに…。

米田 大阪証券取引所は登記上大阪に本社を置いており、コンピュータシステムも大阪にある。このため、実は昨年9月からJASDAQの取引は全て大阪で行われている。ただし、市場を運営監視したり、上場企業のサポートをするなど、人の面に関しては東京が中心となっている。何をもって拠点というのか難しい時代だが、JASDAQ市場に上場している会社は全国津々浦々あるため、プロモーション活動などは、東京、大阪を拠点に全国展開していくつもりだ。

――「新JASDAQ」のコンセプトは…。

米田 信頼性、革新性、地域性・国際性の3つだ。新興市場はこの10年間、多くの上場企業を生むことが出来たが、信頼性をなくしている面もある。2000年の新規上場会社数は、全国で200社だったが、昨年は20社を切っている。経済動向もあるが、取引所としては信頼性の回復に努めるのが第一だ。次に、革新性であるが、新興市場であるからにはエコやバイオのような革新性のある企業に上場いただきたい。また市場の運営自体も従来にない革新的なことをやっていきたい。例えば、新興市場は個人投資家が中心のため、場合によっては取引時間の延長も考えている。最後に地域性と国際性だ。ジャスダックに上場している企業は、マザーズ市場やヘラクレス市場に比べると全国津々浦々色々なところにある。日本の経済を支えている地域の優良企業に対して、資本市場の調達の場を提供していくことは、我々の大事な使命だと考えている。また、そういった企業が国際展開していくためのサポートも必要だ。さらに、アジアを中心に出てきている色々な新興企業が日本の市場を使って上場していただけるように、ゆくゆくはアジアの新興企業を扱う市場にもしていきたいと考えている。

――リーマンショック以降、グローバルな連携に向けた動きはあまり進んでいないようだが…。

米田 海外の取引所との連携はそう簡単な事ではない。法律制度が違うため、より実のある形を求めていこうと思えば相当壁が高くなる。基本的に単独で出来るところは自分たちで行い、単独では非効率になる場合に国内外の取引所と連携していくというスタンスだ。例えば、これからデリバティブ分野を広げていこうと考える中で、その世界に明るい国内の商品取引所と何らかの形で連携していくことはベストな選択だと思っている。現在でも東京工業品取引所や中部大阪商品取引所、関西商品取引所とはMOAなどを結び、連携できるところは連携していこうと進めている。本格的な連携はないとしても、例えばETFなどに関しては商品取引所の指数を使わせてもらうなどといったような連携はあり得る。さらにその先には、総合取引所化していくことも考えられる。デリバティブの機能においては、商品も為替も株も全て同じだからだ。

――一方で、レバレッジを効かせた商品に対する規制は益々厳しくなってきており、日本では不招請勧誘禁止の議論も出てきている…。

米田 デリバティブ取引は1部に大きなレバレッジを効かせているため、確かにリスクはある。ただ、デリバティブが現物取引のヘッジ手段として非常に有用だという商品特性を十分理解していただきたい。今回、リーマンショックでデリバティブ取引が問題になったが、これはOTC(店頭)に多くの問題があった。デリバティブは取引所外での取引が非常に多いのだが、OTCで行われている取引は透明性が欠けていて、カウンターパーティ・リスクがある。透明な場での取引と、証拠金問題を含めた決済の安全性が必要だ。不招請勧誘にしても、現実に今顧客と業者の中で起きている問題であり、それに対する規制を取引所取引にまで広げる必要は無いと思う。ヘッジ手段がなくなると市場自体が衰退してしまう。特にデリバティブ取引は海外との関係が非常に強いため、海外の取引所でどのような動きになっているのかをよく見ながら議論を進めていけば良いのではないか。

――日本の金融行政は政治家主導になってきている面もあるが…。

米田 私は、世の中の方向を大きく変えていく時には、政治主導で行われるのは当然であり、尊重すべきと思う。また、経済が危機的な状況の時は、緊急的な特例措置も必要で、それは決して否定しない。ただ、どういう状況であれ、市場の機能は重要だ。市場というものは、現物取引だけでなくデリバティブ取引もあって一体としてその機能を果たしている。それを損なわない形の規制を考えていく必要がある。また、資金はグローバルに動いているため、一国だけかけ離れた規制を作ってしまうと、資金は他の国へ流れてしまう。国際的な整合性を踏まえて色々な制度を作っていくということに尽きるのではないか。その辺りはもちろん政治家の方々も良く分かっていらっしゃると思う。

――新しい新興市場の持ち味は…。

米田 次世代を築く新しい企業に資金調達の道を提供するということだ。常に日本経済が変わっていく中で、新しいビジネスを掘り起こしていくような場にしていきたい。投資家にもそういった企業に投資したいというニーズはある。それを叶えられるような市場にしていきたいと考えている。現在の新興市場は、1部、2部市場の通過市場のような形になっているが、「新JASDAQ」という市場をしっかりさせることによって、そこに企業が長く留まり、その市場で企業が成長していく形に変えていきたい。米NASDAQはその典型だと思うが、そういった市場に一歩でも近づくような取り組みを進めていく。

――長く留まりたいと思える市場の条件は…。

米田 現在の市場自体の問題点として、流動性が少なかったり、アナリストレポートのカバレッジが少なかったりということ等が挙げられる。この為、例えば、取引所として広範囲な企業にアナリストレポートを書いてもらうような仕掛けを考えていく。また、ETF(指数連動型上場投資信託)や先物等といった新しい市場の指標を対象とした商品も出すなど、色々な事を工夫しながら進めていくつもりだ。新しいJASDAQ市場が名実ともに日本の新興市場の代表になってくれば、今の乱立した状態も自から解消していくはずだ。それには我々がきちんとした市場の在り方を示せるかどうかに係っている。

――これまで色々な悪条件が重なり新興企業の上場数は減少していたが、来年は40社くらいだとの予想も出ている…。

米田 潜在的に上場したいと考えている企業は数多くあると思う。今後、市場環境が改善していくと考えられる中で、我々としては「新JASDAQ」が魅力あるものだと感じてもらえたら嬉しい。そのために、今回の新JASDAQ市場は、実績のある企業が上場する「スタンダード」と、成長性を秘めた企業が上場する「グロース」の2つに入り口を分けた。各区分の特性を踏まえた上場基準にすることで、多様な企業を入りやすくしている。また、投資家にとってもその企業の特性が判別しやすい魅力的な市場となるだろう。

――最後に、新年の抱負を…。

米田 今年の我々の抱負ということでは、まず秋の新興市場の統合をスムーズに行うことだ。さらに市場取引の高度化や高速化に対応すべく、世界最高水準の機能と処理性能を有するナスダック・OMX製の新しい売買システムの構築に取組んでいるが、2011年1月から3月の確実な稼動にむけて、全力を挙げる。常に時代環境は大きく変わっている。私も大阪証券取引所に来て10年になるが、年を追うごとに変化が激しくなってきている。そういう変化をいかに早く捉えて機動的に対応していくか、その繰り返しだ。東京証券取引所では新しいシステムを導入されたが、日本の現物取引の活性化が予想され、非常に良いことだと思う。これが日本の市場にどういう影響を与えていくのかというところにも注目していきたい。(了)