三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏

三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏

日本の景気、年後半に明るさ


聞き手 編集局長 島田一

――景気の動向について…。

宅森 景気ウォッチャー調査における現状判断DI(方向性)は12月に3カ月ぶりに上昇した。10月の現状判断DIが悪化したのは季節性が大きくあまり気にする必要はないが、11月は下げ過ぎと言えるほど大きく下げた。そのリバウンドが12月に出てきた。11月の下げの大きな要因は、デフレ懸念だ。政府が11月20日にデフレ宣言をし、その後、テレビなどが毎日のようにデフレに関する番組を流した。そういった報道を受けた国民は今の経済状況が本当に酷いという印象を持ったのではないか。それが11月末の景気ウォッチャーの判断にも影響したのだろう。11月はドバイショックや急激な円高もあったため、景況感が崩れた。景況感が悪くなると、日曜夕方に放送されている幅広い層に人気のお笑い番組「笑点」の視聴率が「その他の娯楽番組」部門週間視聴率ランキングで第1位になるが、11月末〜12月末まで連続1位となるなど、この辺りにも景況感の悪化が現れた。

――為替相場は円安方向に戻してきた…。

宅森 12月25日から月末に行った調査では、為替が円安に戻ってきたことや、エコポイントなどの政策が継続されることなどから少しは安心感も見られ始め、落ち着いてきたという印象もある。そうはいってもレベル的にはまだまだ厳しい。民主党の「コンクリートから人へ」という政策転換によって、1−3月期の公共投資は大きくマイナスになってくることが予想される。また、子ども手当てが配られるのは6月で空白時期がある。消費総合指数は11月にマイナスに転じており、さらにボーナスの減額の影響で12月も悪い数字になることが予想される。足元の個人消費は弱含みだ。設備投資も早くて今年中頃からで、1−3月期はかなり厳しい数字が出てくるだろう。しかし、輸出がしっかりしてきているため、景気が落ち込んだとしても1−3月期あたりまでだろう。

――輸出が良好な理由は、やはりアジアか…。

宅森 アジアに加えて米国が意外としっかりしてきている。米国経済はNYヤンキースが昨年7月21日に首位になって以降、鉱工業生産がプラスに転じてきた。設備投資の先行指標となる非国防資本財受注も基調的には上昇しており、雇用も今年は改善傾向が続こう。また、米国は民主党政権において中間選挙の年の就任2年目に高い成長率を示す傾向がある。就任3〜4年目には上がった物価に対し金融を少しずつ引き締めていくというパターンが多いが、今年はそのサイクルから見ても米国の成長率に期待できるのではないか。アジアと米国への輸出がしっかりしていれば日本の生産も増加し、稼働率上昇とともにやがて設備投資も出てくる。年後半には日本の景気には明るさが見えてくるだろう。

――中国では引き締め策を打ち出し始め、ヘッジファンドは上海万博の開始に合わせて売りポジションを作るのではないかというような話もある…。

宅森 アジアは基本的に今、成長している地域であり、一時的に落ち込むことはあっても目先10年間くらいは期待できるのではないか。万博などのイベントに合わせて売り買いの動きが出てくるのはどこでも、いつの時代でも同じことで、その動きが永遠に続くものではない。ましてやそれが100年に一度というような大きな落ち込みになる訳でもない。米国経済が今後、力強い動きを回復させるという可能性が下支えしていることもあって、楽観的に見ていて良いのではないか。

――日本の4−6月期以降の不安材料は…。

宅森 政局における心配事など、先行きが見えないことによる不安心理は大きいと思う。10月初めにESPフォーキャスト調査でエコノミスト約40人を対象に、政権交代のマクロ経済への影響を聞いたが、短期では成長率と物価が「下がる」、金利と失業率は「どちらともいえない」、為替は「あがる(円高)」、株価は「下がる」という答えが多かった。まさに11月末にかけてその通りになったわけで、コンセンサスは正しかった。一方で、長期では「わからない」という回答が全項目とも一番多かった。民主党が掲げている個々の政策はもっともなこともあるが全体としてみると矛盾していることも多い。一本一本の方程式を、連立方程式になると矛盾が出てきて解けない。例えば高速道路の無料化とCO2の削減は相反する問題であり、この折り合いをどうつけるのかが決まっていない。政権内での整合的なビジョンが見えないということだ。「解」が存在しないことには、連立方程式が解けず、政策は実現不可能という話になる。これが一番の不安材料だ。

――確かに経済政策は視界不良だ…。

宅森 今、高校の授業料の無料化を進めているが、公立高校の授業料だけで消費者物価全体の一万分の38を占めている。そうすると、この部分が無料化されるだけで消費者物価を約0.4%下げることになる。そこで物価が1%マイナスになったと言っても、実質的に下げたのは0.6%だ。デフレ宣言にしても、本来ならば政権をとった直後の10月時点の月例報告で言うべきことを、何も起こっていないときに敢えて1カ月後にデフレ宣言をしたことで、不安心理という副作用を与えてしまった。また、菅財務相による「円安が望ましい」という発言においては、丁度、日銀が新型オペを行った効果が表れ始め、円安への流れにのったタイミングだったので事なきを得たが、本当にこの流れを見据えた上での発言だったかどうかはわからない。基本的には今、「デフレ」という言葉はあまり良い意味では使われないが、公立高校授業料無料化などの「良いデフレ」もあると思っている。実質購買力が上がると考えれば、それは良いことなのではないか。

――今年の日本経済には期待できるのか…。

宅森 警察庁が公表を止めたので私が電話で確認したところ、毎年一番初詣客が多い明治神宮への今年の初詣人出数は320万人と昨年より一万人増えたが、2位・3位の成田山新勝寺、川崎大師は昨年と変わらずということだ。昨年はリーマンショックの影響からか、90年以降で最高の人出だったが、今年は昨年とほぼ横ばいだ。一般国民の景況感は厳しいものの、一段落といったところか。また、今年は冬季オリンピックやサッカーワールドカップなど注目イベントが多い。フィギュアスケートの高橋大輔選手や浅田真央選手などメダル候補選手は苦労を乗り越えて代表切符を手にしてきていることもあり、その感動の復活劇が実現すれば、国民にも元気を与え、自信喪失気味の日本経済にも良い影響を及ぼしてくれるのではないかと期待している。(了)