衆議院議員 岸本 周平 氏

衆議院議員 岸本 周平 氏

民主党は大企業にも配慮


聞き手 編集局長 島田一

――新政権での予算編成をどう見るか…。

岸本 新政権にとっては今回が初の予算編成となった訳だが、財務省出身の私から見ても、初めてにしては見事なスタートだったのではないかと思う。マニフェストの問題を別にすると、景気の悪い中、税収は9兆円減り37兆円となったため、そこに1回限りの埋蔵金10兆円を補填した。そして、マーケットに安心してもらうためのぎりぎりのラインとして、国債発行44兆円という枠を守った。確かに借金額は大きいが、これは、いわば百年に一度の景気対策であり、一時的なものだと思ってもらいたい。景気にはプラスとなる予算だ。

――景気が悪い中では一時的に借金が増えても仕方がないと…。

岸本 新政権が始まってまだ4カ月であるため、本当の意味での無駄遣いのカットは出来ていない。11年度の予算では、菅財務相の下で予算の組み替えが行われるため、そこは期待してもらいたい。次の予算は各省毎の枠を大臣同士で決めて、その枠の中で優先順位の高いものを当てはめていくやり方だ。例えば、厚生労働省ならば子ども手当てや医療、介護などを当てはめていく。結果として、特殊法人や公益法人に対する補助金は、残ったお金がなければ出せない。そうすると、一定の枠内で予算を組むことが出来るという訳だ。11年度予算に向けて3月には再度事業仕分けを行い、今度は特殊法人や公益法人も総ざらいされる。

――マニフェストに盛り込んだ暫定税率廃止は見送りとなった…。

岸本 これは確かに公約違反だが、税収37兆円、借金44兆円の現状では、暫定税率の税収2.5兆円を使わざるを得なかった。市場の信頼を維持するために、この2.5兆円分をさらに国債発行する訳にもいかない。また、これは環境税への橋渡しという意味合いも持つ。暫定税率の取り扱いをあと一年限りとし、その間にもう一度よく考え、そこで環境税につなげていければ良いのではないか。リーマンショック後にこれだけ税収が落ち込み、9兆円の減収となるとは、正直なところ昨年7〜8月の段階では読めなかった。そこは虚心坦懐お詫びをするということだろう。

――一方で、事務次官等会議が廃止されるなど、マニフェストに沿った動きもある…。

岸本 事務次官等会議は明治時代の内閣制度創設以来、典型的な官僚主導の場だった。ご存知のとおり、定例閣議の前日の毎週月曜日と木曜日に行われ、各省庁の調整を行うというものだったが、実際に事務次官等会議がなくなった今では、副大臣や政務官が携帯電話ですりあわせを行っている。役人が一晩かけて行っていた交渉事をたった5分の電話で済ませ、その結論は同じだ。事務次官等会議が無くなり、記者会見が無くなったことで、事務次官も必要ないという論議にさえなっている。政務三役が働きすぎだとか、もっと役人を上手に使えとか、色々な意見はあるが、それはこれから調整を行えばいい。もう一つの革新的な動きとして、予算編成過程を初めて国民の前に晒した事業仕分けは非常に画期的だった。もちろん、科学技術予算のような夢のある予算は削ってはいけないと思うが、事業仕分けはプロセスをオープンにしたことに大きな意味がある。しかも、あの予算は財務省がこれまで削れなかった予算だ。もちろん私も財務省の主計局にいた時には削ろうとしたが、政治圧力で難しかった。族議員が役所の天下りを守っていたこれまでの構図を、政治主導で6千億円程度も削れたということは、規模こそまだ小さいが、今後に大きな意味を持つ。

――成長戦略と財政の中期的なフレームワークが見えにくい…。

岸本 12月にまとめられた新成長戦略はこれからの叩き台のようなものだ。これを5月までにもっとしっかりしたものにしていく。日本経済にとって大事なことは、大企業がそれぞれ持っている技術力を活かしてきちんと外貨を稼ぐことだ。民主党では内需に力を入れているように思われるが、同じように外需も大事で、バランスが良くなくてはならない。大企業が潤えば、そこで働く従業員も増えるし、そのパートナー企業も潤っていく。それが大切だ。その為には、やはり課税ベースを拡大しながら法人税率をきちんと引き下げていくことが重大なポイントになってくる。このことは新成長戦略には欠かせないものだと思っている。

――新成長戦略について、鳩山総理が言う「アジア内需」とは…。

岸本 もし、「アジア内需」というのであれば、アジアの国に対して日本のマーケットをすべてオープンにしなくてはならない。相手の市場だけを取り込み、自分の市場は守るというのでは公平ではないし、相手にもされない。「アジア内需」という言い回しをするのであれば、それなりの覚悟が必要だ。その上で、アジアの中に日本が位置する以上、広い意味での内外需を大切にして成長戦略を立てていくことは大切だ。

――製造企業の中には、民主党政権は排出権取引や最低時給1000円、派遣禁止や円高政策など企業にとってメリットの無いことばかりで、日本にいても意味が無いという声も聞く…。

岸本 海外で生産することは以前から進んでいた。また、時給1000円というのは、次の選挙の4年後には日本経済がきちんと回復して、景気が戻っている世界を目指すという宣言と捉えていただきたい。最低時給が1000円になるためには2%程度のインフレになることが必要であり、景気が回復しているだろう4年後までにはそういう風にしたいと考えているということだ。今すぐに実施したところで悪影響しか及ぼさないとわかりきっている政策をやる筈がない。また、派遣の禁止については、製造業の派遣を止めると昔のような請負に戻るという構図になる。大手は請負でも斡旋することは出来るのだが、困るのは中小の派遣会社だ。そういったところに対する経過措置などは必要だと思うが、結局のところ、派遣から請負に変えることで企業は対応するだろう。しかし、小手先の政策変更であるように思う。大事なことは、派遣で働かなくてはならない人たちの生活基盤をきちんと支えるための手段を考えていくことだ。状況が変われば、マニフェストも変えて良いのではないかと個人的には思っている。

――マニフェストをみると、民主党は社会主義的とさえ感じられるとの声も、外国人から聞かれる…。

岸本 外国人にとって民主党がやや社会民主的な色にみえるのは、マニフェストの直訳が非常に拙劣なものだからだろう。プレゼンテーションの仕方も良いとはいえない。しかし、2010年度予算の蓋を開けてみると、実際には企業サイドに大きく配慮したものになっている。また、今回、選挙で当選した新人143名のうち、過半数は元経済官僚や銀行、証券、大企業のOB、弁護士や医者など知的プロフェッショナルな人たちだ。その人たちは、大企業を疎かにすれば、そこで働く社員が困窮し、下請企業が流されてしまうだけということを理解している。もともと国民の側にいた人たちだ。そういう意味において、心配は要らないし、安心していただきたい。

――目玉となる「子ども手当て」には5兆5千億円が必要となる…。

岸本 「子ども手当て」には2つの意味がある。ひとつは政府の宣言だ。「子ども手当て」にかかる5兆5千億円というお金は、防衛費の4兆8千億円よりも多く、つまり「日本は防衛費よりも子育てが大事だと思う国に生まれ変わる」というメッセージが込められている。また、このお金が直接各家庭に届くということにもう一つの意味がある。今までの自民党の政治では天下り先などを通して届いていた補助金が、直接必要なところに渡される。そうすると、中抜き、つまり無駄が無くなる。農業の所得補償も同じだ。今後、給食費の滞納や保育所の待機児童問題なども含めて、政治主導で微調整を行っていくことも出来る。そのための枠取りができた。今から、子育て支援のスタートを踏み出したと思っていて欲しい。これから、私達新人が声を出しながら日本を変えていく。どうか期待していて欲しい。(了)