衆議院議員 元官房長官 塩崎 恭久 氏

衆議院議員 元官房長官 塩崎 恭久 氏

日本は法律に頼りすぎ官僚化


聞き手 編集局長 島田一

――民主党の政策に大手企業から不安の声が出始めている…。

塩崎 企業からは、先が見えないために投資をする気になれないという声を多く聞く。確固たる方向性もないまま、民主党政権は新成長戦略でGDPの平均成長率を名目3%、実質2%と、実現不可能な数字を掲げた。5年後に2%の成長率に戻すというのならまだ分かるが、平均で2〜3%とは、労働人口が減っていく中で何をどのようにやるのか、どのような根拠があってこの数字を掲げているのか、無責任としか言いようがない。企業はこのような環境の中でターゲットや値段を絞っていかざるを得ず、このままデフレスパイラルに陥ることも十分に考えられる。一部では高くて品質の良い商品も売れていると言われているが、やはりボリュームゾーンは安くなっており、この状況に対して経済界は怒っているというのが実情だ。

――派遣切り対応やCO2の25%削減など、現在民主党が行いつつある政策では、大企業は国内から脱出し、失業率も大きくは下がることはない…。

塩崎 このままでは、失業率は間違いなく上がるだろう。リーマン・ショックから暫く経ち、企業もそれなりに戦略を立てているが、その戦略とは日本から出て行くというものだ。製造業はその代表たるもので、例えば私の地元のゲームソフト会社でも、いつでも日本から出て行きたいと言っている。すでに海外で数百人単位の外国人を雇っている会社もある。また、金融界でも日本人のディーラーたちが年に数百人単位でシンガポールなど海外に移っていると聞く。シンガポールでの日本株取引が増えている一方で、東京での取引自体が減っていくとなると、東京市場はいよいよローカル市場になり下がっていく。それが近い将来に現実に起こるだろう。

――日本が力を取り戻すには…。

塩崎 強烈な企業風土を作り出すことが大事で、そのためには、アグレッシブな取締役会になることが必要だと思う。民主党が出した公開会社法では、社外取締役の条件に株式持合い関係にある企業の外部取締役を認めないとしているが、これは、法律ではなく、東証のルールとして直すべきだ。現にNYやムンバイの取引所ではそういった独立取締役のルールがある。民間のルールで民間の企業風土を決めていくようにならなければ資本主義ではない。今の民主党政権では、日本は社会主義国家まっしぐらだ。

――経済成長戦略について…。

塩崎 中小企業を底上げするには、GDPの75%を占める非製造業の生産性を高めることが欠かせない。しかし、生産性を上げるということは人を使わないということに繋がり、結果、人はあふれる。そこで、余った人材を吸収してくれるものを別途用意しなければならない。それは、新しい科学技術や産業をどう育てるか考えることだ。民主党では介護や医療で経済成長すると言っているが、高齢者に関するケアは税金を充てないと成り立たない部分であり、そこに高い給料など出せるわけが無い。そうすると、雇用を増やすことはできても本当に生活水準を上げていくことにはならない。介護の専門学校があったとしても、給料が安ければ皆はそこを目指すことはなく、生徒がいなければ専門学校自体も潰れてしまう。ただ、今は、経済がこれだけ落ち込んでいるため、相対的には介護の所得水準も上がり、働かないよりは良いという方向になっているようだ。

――根本から生活水準を上げていくためには…。

塩崎 付加価値の低い産業でも日本人の雇用機会が増えればそれはそれで良いかもしれないが、やはり、GDPを大きくするには付加価値の高いところで勝負していかなくてはならない。しかし、民主党では研究開発費も減らしており、研究者など労働市場のアッパーエンドの人たちの日本流入は減っている。今、米国における科学技術分野の博士号取得者は、日本は200人で横ばいなのに対し、中国は4000人を超え、今なお伸び続けている。私の息子がペンシルベニア大学のウォートンスクールに通っているが、一学年800人のうち、インド人が80人で1割を占め、次が中国人の50人、その次に韓国人の30人、日本人は18人ということだ。ハーバードビジネススクールでも一学年800人のうち日本人は一桁という。日本人自体がハングリーではなくなってきたとも言えるだろう。某会社の社長の話だと、韓国から20人雇って日本人と一緒に研修を受けさせたところ、韓国人の方がはるかにヤル気もあるし優秀だと言っていた。韓国は先日、EUと自由貿易協定(FTA)の年内発効も確認した。日本はまだEUとFTAを結んでいないため、輸出する際に高い関税がかかり、そのため、今後、韓国とシンガポールをベースにグローバル展開していくという日本企業も多い。企業として、それは当たり前ともいえる戦略だろう。

――民主党政権では適切なお金の使い方がされていないと…。

塩崎 あらゆることは、全て、子ども手当て、農家の戸別所得補償、高校の無償化のためだ。しかし、特に今回、民主党がばら撒く子ども手当ては、使う当てのない現金給付だ。フランスやスウェーデンは子ども手当てを導入して生活が豊かになった国の代表的な例だが、その給付金の内容は、保育と幼児教育、出産・育児休業給付など、実際に使う当てのあるお金だ。日本のように当てのない家族手当を大量にばら撒くくらいなら、アッパーエンドの労働者が日本に流入してくるためにお金をつぎ込んだ方がよっぽど良い。エコポイントやエコカーもいいが、金融を含めた非製造業のことをもっと考えるべきだ。優良中小企業の3年間の返済猶予法案も、返済と同じ額を銀行に預金していくというシステムにすればいい。そうすれば企業にも銀行にもプラスになる。今のままの返済猶予法で中小企業の足腰が強くなるとは、私には到底思えない。中小企業を強くするためには、まずは大企業が強くならなければ駄目だ。先日の予算委員会では、企業の内部留保が膨れ上がり、大企業がいかにお金を溜め込んでいるかということが話題になったが、その原因は、国家ビジョンが無いために、企業経営者がどこに投資したらいいか分からないからだ。企業が自己防衛に走ると、雇用の弾力性が無い日本を捨てて海外に活動の場を移す。最終的に一番困るのは日本で働く人たちだ。このままのやり方をしていたら格差はもっと大きくなっていくだろう。(了)