セントラル短資 代表取締役社長 大西 義久 氏

セントラル短資 代表取締役社長 大西 義久 氏

中国、実質成長率が10%超へ


聞き手 編集局長 島田一

――マーケットでは中国の動向にますます関心が高まっている…。

大西 中国経済の先行きについて懸念を持っている人は多い。しかし、日本人の中で、実際に中国に長く住み、その特徴を知っている人はそう多くはいない。そのため、中国に対する理解が余り無いまま、ささいな出来事やマスコミ報道を過大評価して見当違いを起こすケースも多々あるようだ。中国は21世紀に入ってから沿海部を中心とした輸出加工を中心に、10年近く10%前後の実質成長を遂げてきた。産業も自動車やITなど先進的なものが中心になってきている。とはいえ、中国が例えば自動車一台をすべて自前で作れるようになっている訳ではない。自動車であろうがIT製品であろうが、製品を作るためには川上→川中→川下といった生産過程がある。その一番基幹的な付加価値の高い部分は、やはり日本等先進国製であり、例えば、日本から出発した製品(部品)がアジア各国でそれぞれ付加価値をつけて、最終的な組み立ての段階で中国に集められているという訳だ。最終的に部品を組み立てて完成品にするという作業には多くの人手が要る。その点、中国は細かい作業に欠かせない良い視力を持った若い人がたくさんいて、それを低価格でやってくれる。こうした製造過程は、各国の比較優位に基づく「垂直的産業内分業」と呼ばれている。このような体制で中国から全世界に輸出することによって、中国の実質GDPは、リーマン・ショックの影響を受けた08〜09年を除き、21世紀以降概ね10%以上を維持してきた。

――リーマン・ショックによって、中国の輸出もかなり影響を受けた…。

大西 一昨年9月のリーマン・ショックを契機とした世界的な金融危機の影響が各国の実体経済に波及するに伴い、全世界が不景気に陥ったため、中国の輸出も07年の前年比25.7%増から08年は17.5%増、そして09年は16.0%減と大幅に落ち込んだ。そこで、中国はかねてから掲げておきながら手をつけてこなかった内需刺激策を実践した。リーマン・ショックの2ヶ月後の11月には、中国のGDPの17%にあたる年間4兆元の財政支出の追加を2年間に亘って行うことを決定し、すぐに着手した。社会主義というのは危機管理に非常に有利な体制であり、スピーディーに物事を決め、実行することが出来る。今回はその効果が如実に現れた。リーマン・ショックが起こった08年第4四半期の実質成長率は前期比年率プラス4.3%。ここがボトムとなり09年第1四半期はプラス9.5%、第2四半期プラス11.4%、第3四半期プラス11.0%、第4四半期プラス11.3%と、第2四半期以降年率10%台を回復した。私は一定の経済レベルの国にとって、開発独裁体制は有効だと思う。中国は、社会主義体制を上手に利用して成果を上げている良い例だと思う。中国では3月に開かれる全国人民代表大会で毎年8%以上の成長を目標に掲げているが、これは2030年頃まで人口が増え続けると見込まれている中で、学校を卒業して新たに就職する人たちにスムーズに働き口を提供するために必要な成長率ということだ。この高い成長率目標をクリアするに当たり社会主義体制が有効に働いている。ただ、現在の中国の成長の中身はこれまでとは全く異なっており、沿海部を中心とする輸出は以前に比べて大きく落ち込む半面、上海万博関連を含む内陸部のインフラを中心とする公共投資が伸びている。したがって、日本の輸出も建設資材や建設機械が増えており、自動車やIT関連部品を中心とする従来の姿とはかなり異なっている。

――上海万博後の中国に注目している人も多い…。

大西 日本人の中にはオリンピックや上海万博といったイベントが終わった時にどうなるかと騒いでいる人もいるようだが、中国にとってこれらのイベントの規模はさほど大きい訳ではない。中国経済は目先は内需中心の成長を遂げていくだろう。ただ、内需の中身が、公共投資を柱とする投資の寄与度が高くなっている反面、個人消費の寄与度がさほど高まっていないことが現状の問題点だ。09年成長率8.7%の内、投資の寄与度は8.0%、消費の寄与度は4.6%(外需の寄与度マイナス3.9%)となっている。21世紀に入って内需中心の成長に変えようとしてきた中国が、沿海部で売れてきた家電製品などを内陸部の人たちにも買ってもらおうとしたが、なかなか売れなかった。この理由のひとつは、内陸部にはまだ電力が十分に供給されていなかったからだ。笑い話のような話だがこれが実態だ。裏を返せばここが中国の魅力でもあり、まだまだ伸びる余地がたくさんあるということだ。

――不動産投資バブルに対する懸念は…。

大西 中国経済は、ほぼ政府の目論見通りの成長を遂げ、全世界が不況に沈んでいる中で中国の威信を高めることが出来た。一方で、不動産投資を中心としたバブルが少し起こっており、それに関連して上海の株式指数が昨年は前年比80%上昇と2倍近くまでになっている。株式指数が大きな動きを見せることはそう珍しいことではないが、中国ではこうしたバブル的な動きに備えて昨年末頃から色々な会議が開かれ、財政・金融の今後の枠組みについての議論をしてきた。そして、財政部工作会議では「拡張的な財政政策の継続」を掲げ、去年同様財政を緩和し景気を第一に考えるということを打ち出した。一方、中国の中央銀行である人民銀行では、「適度に緩和的な金融政策を継続する」とし、貸出総量規制と預金準備率の引き上げを打ち出している。実は昨年3月頃、中国当局が不況対策として銀行融資増加額を年間5兆元以上とする方針を打ち出したところ、中国の商業銀行による融資額は4月末時点ですでに5.2兆元もの増加となった。そこで昨年7月、人民銀行が新規融資を抑制する指導を始めたのだが、結果的に12月末には10.5兆元になり貸出の増加は止まらなかったという経緯がある。今回の貸出総量規制はこのような無茶苦茶な貸出に対して再度警告するものだ。また、預金準備率の引き上げについても、引き上げ前の値は14.5%だ。それを0.5%ずつ2回引き上げて15.5%にしたにすぎない。かつ、今回の引き上げ前の14.5%という預金準備率は、リーマンブラザーズ証券破綻前まで続いた過熱経済に対処して数次に亘り引き上げてきた(最後の引き上げは、08年6月25日)結果であり、リーマン・ショック後の金融緩和期においても引き下げることなく不変であった。つまり、中国において、預金準備率の上げ下げはさほど金融機関の行動を変える効果をもたらしていないということであり、今次発表は単にバブル的現象が生じていることに対し、中央銀行として警告を発する意味合いに過ぎないと思う。年明け後に「中国が引き締めに入った」という情報がマスコミなどで大きく取り上げられているが、前述した財政政策の基本方針等を併せ考えると、本年は引き続き景気重視が基本線であり、金融については昨年の野放図な緩和を微調整しているというふうに把えるべきであろう。そういう意味で、最近の報道はバランスを失しているように感じている。

――今後の中国の景気動向は…。

大西 中国の政府中枢にとって重要なことは景気回復を持続させることだ。年後半には日米欧の景気が今よりは良くなることが見込まれており、輸出も回復して沿海部中心の輸出サイクルが戻ってくるだろうが、少なくとも年前半は引き続き財政を中心に景気を刺激することが必要だろう。李克強副首相も「極めて微妙な経済情勢にあり、引き続き景気に配慮するように」との発言を行っている。中国の09年12月の輸出額は前年比プラス17.7%で、08年10月以来初めての前年比増加となっている。そのうち広東省はプラス23.5%で最も目覚しい回復を示している。年後半には今の内需のエンジンに沿海部輸出のエンジンも加わり、今後の実質成長率も10%を超えていくだろう。中国の景気については何の問題もないと考えている。

――人民元の切り上げについては…。

大西 人民元相場は05年7月から切り上げを開始して、3年間に亘って累計約20%の切り上げを行ってきた。しかし、リーマン・ショック直後からは介入で1USドル=6.8人民元台で固定し、この状況が約1年半続いている。このため、米国を筆頭に先進国の間では、中国を始めとする現在成長段階にあるアジアの国々に対し通貨切り上げの要請が強まっており、今年のG20等国際会議の主要テーマとなることが予想される。現在は、中国人民銀行がドルを買って人民元を市中に大量に放出して為替相場を一定の水準に維持している訳であるが、これが過剰流動性としてバブル発生の一因になっているのも事実だ。昨年12月頃から温家宝首相が「絶対に通貨の切り上げを行わない」と発言したということが報じられているが、裏を返せば、内部で色々と議論されているということだ。私は、前述した年後半に期待される米国経済の回復とそれを映じた中国の輸出動向如何ではあるが、米中経済会議等の議論を通じ、今年中に再び人民元の切り上げが始まるのではないかと予想している。人民元や他のアジアの通貨が高くなることは、日本にとっては対各国通貨で円安となり輸出に有利となるほか、物価も下がりにくくなる。それは非常に良いシナリオであり、日本としても期待したいところだ。(了)