衆議院議員 山本 幸三 氏

衆議院議員 山本 幸三 氏

自民党は日銀に潰された


聞き手 編集局長 島田一

――デフレを何とかしなくてはならない現状だが、今の日銀の金融政策をどう見るか…。

山本 自民党が選挙に負けた時、その元凶を小泉構造改革や竹中市場原理主義の行き過ぎとする意見が大勢だった。そして、公共投資や福祉の予算を減らしたことや、地域格差が広がったことの議論がなされた。しかし、5年毎に発表する文部科学省傘下の統計数理研究所の国民性調査では、一昨年の秋に国民の57%が「自分たちの生活は貧しくなっていると感じている」という結果が出ていた。今では6割を超える人たちがそう感じていることだろう。つまり、日本人の6割以上が自分たちの生活は貧しくなっていると感じてきたことが、最大の自民党の敗因だと私は思っている。国民は自分の生活が一番であり、それがデフレによって脅かされているということに対する反感が一番大きい。そもそも構造改革や市場原理主義にはマイナス面もあるがプラス面もある。しかしデフレは全てマイナスに働く。企業は商品が売れないためにリストラせざるを得なくなり、デフレで円高になると工場を海外に移す企業も出てくる。観光客も来なくなり、ますます地方が疲弊してくる。結果的にみんなの給料も減ってしまう。この根本を直すことが出来なかったのは、自民党の経済政策が間違っていたということだ。デフレを克服するには日銀を動かすことが不可欠なのに、その日銀を上手に動かせなかった。裏を返せば自民党は日銀に潰されたといっても良いだろう。今、私はその事実を世間に広く伝えて、二度とこのような失敗をおこさないように、私と日銀とのやり取りを赤裸々に綴った本を出版しようと考えているところだ。

――自民党の敗因は日銀との関係にあると…。

山本 自民党の歴代総理や財務大臣は金融政策が全くわかっていないため、日銀に好きなようにやらせてきた。そこが元凶であり、その部分を抜本的に変えない限り自民党の再生などありえない。私は今、党内でも与謝野馨氏と議論をしている最中だが、彼はインフレターゲット政策を「悪魔的だ」と言う。しかし、私はデフレの方がもっと「悪魔的だ」と思う。年金生活者にとっても一番困るのはデフレの物価スライドだ。さらに与謝野氏は「デフレは中国から入ってくる安いものに消費活動が移っていくから生じる」という考えだが、安い中国製品を買って余ったお金で他のものを買えば、差し引きはゼロになる。これは相対価格の変化と絶対価格の変化という、デフレ時における基本的理論だ。そういったことがわからないようでは日銀を論破することは無理だ。私はこれまでの議員生活の中で、経済産業副大臣や法務委員長などを務めていたこともあり、3年ほど国会で質問が出来ない時期があったが、ようやく野党になって質問時間が取れるようになった。これから毎回日銀総裁を呼んで質問攻めにしたいと意気込んでいるところだ。

――日銀に対してデフレを止めさせる具体的な政策案は…。

山本 例えば英米の中央銀行は、リーマンショック後1年間に資産を150%伸ばして各金融機関に資金を供給した。対して日銀は5%程度しか伸ばしていない。これは何もしなかったも同然だ。白川総裁は、他の国と比べて日本の金融システムが比較的安定していたことと、日本の金利が世界一低いということ、そして、GDPに対する中央銀行の資産比率は日本が一番高いということを理由に、日銀が金融危機に対してほとんどアクションをおこさなかった説明をしていたが、私は、その全てに異を唱えたい。この日銀理論は自分の庭先だけしか見ていないものだ。つまり、対金融機関とのことしか考えていない。そこから先は銀行が実体経済を見て資金を供給するかどうかを決めることであり、それに関しては日銀の知るところではないという意識が非常に強い。実体経済が落ち込んでいる時になぜ金融政策を使わないのか私には到底理解できない。また、日本の金利は世界一低いと言うが、これは名目金利が低いだけだ。実質金利を見れば各国マイナスなのに日本はプラス1.8%程度となっており、世界一高い。実質金利が高くて実質資金調達コストが高ければ需要が出てくるわけがない。もう一つ、資産比率がGDPより高いという話に関しては、この20年間名目GDPが全く伸びていないからこうなった訳だ。他の国は2倍にもなっている。それは日銀の責任だ。こういったことをきちんと追及できる人間が必要なのに、なかなかそういった人材がいないのが、今の日本における最大の問題点だ。

――日銀の本来の仕事である物価の安定について、詰めることをしていない…。

山本 まずは政府が責任をもって目標を決め、その手段は中央銀行が独立性をもって行うというのが正しい順番なのに、政府としての目標がわかっていないために、日銀の発言をもとにして目標を決めるようなことをしている。先日の衆院予算委員会で菅財務相は、消費者物価上昇率を1%程度とすることを政策目標にすべきと発言していたが、その理由としては、「日銀が適当な水準としているから」というだけの理由だ。ただ日銀のレクチャーにうなずいているだけではないのか。さらに、日銀が国債を買うと国債価格が暴落して長期金利が暴騰するという説も、大方の人間はそのまま鵜呑みにしてしまう。本当に自分で考えている人が一体どれだけいるのか疑問だ。そもそも長期金利が暴騰する理由は二つある。一つは、予想インフレ率が上がったことによって、名目長期金利が上がる時だ。もう一つは、政府の財政運営に不安があるときに、リスクプレミアムが異常に上がって長期金利が暴騰することがある。これに沿って考えてみると、もし、予想インフレ率が上がるから長期金利が上がると言うのであれば、日銀が今まで説明してきた「お金を供給してもデフレは止まらない」という説とは180度違うものになる。また、リスクプレミアムが上がると言うのであれば、これは鳩山政権の財政運営を非難するということだ。しかしながら、万一、本当に財政に対する不安が高まり、リスクプレミアムが上がって長期金利が上昇すれば、国債をもっている人たちは売りたくなる。それをどんどん日銀が買えば良い。そうすれば、市中では定期固定金利商品から株や外貨へと資金が流れていく。その結果、株が上がって円安になればそれが一番良い。韓国でもウォン安にしたからサムスン電子など、たくさんの企業が力をつけた。日本も株価が上がって円安にすれば景気も良くなる。今のように、いたずらに金利が低くて大量の国債を発行しても売れるからおかしくなる訳だ。いずれにしても、長期金利が上昇して株が上がり円安になることはデフレ脱却には良いはずなのに、長期金利が上昇することが悪いという風潮をつくるマスコミ報道は、一体何を考えているのかと思う。

――日銀の政策だけにすべてを頼るわけではないが、少なくとも今の日銀のスタンスは良くない…。

山本 白川日銀総裁は、市場を安定させるために量的緩和政策は効かず、唯一効果があったのは時間軸効果だったと自著で主張している。低金利を長く続けるというアナウンス効果が効いて金利に安定感を生み出したという訳だ。つまり、金利水準が低いレベルにあれば別にゼロにする必要はなく、それを長い間続けるというアナウンス効果が効くと論じ、それを実践している。私はかつて統計学的に量的緩和政策が効いたという大阪大学の本田祐三氏の論文を白川日銀総裁に説明したこともあったが「私は実務家なので、あるひとつの理論をドグマティックに捉えるわけにはいかない。」と言う。それでは名目金利をとにかく0.1%に据え置いておきながら、ゼロにしないということに固執しているのは何なのか。早く金利をゼロにして、国債買いきりオペや市場からの買い取りなど、当座預金をいたずらに膨らませることではない形での量的緩和を銀行や非銀行部門に行えば、お金は動き出す。大量の資金を継続して供給していけば効果を表すはずなのに、それを一年でやめてしまったのも間違いだった。

――日銀から各金融機関にお金が渡った後、そのお金が市中に出回るようにするには、金融庁との連携も必要だ…。

山本 最低預貸率を決めて守らせるようなことも必要なのかもしれない。もしくは、米連銀と同じように、日銀法を改正して、日銀の金融政策に物価の安定と完全雇用といった実体経済の分野に対しての責任を持たせるようなやり方もある。また、当座預金に0.1%の金利をつける意味が私にはわからない。そんなものは早くゼロにして、他のところにお金を回した方がいいというふうにもっていくべきだ。こういったことがわからないから自民党は潰れてしまった。ここで民主党政権でもきちんと立て直せなかったら日本はおしまいだ。銀行、証券、マスコミなど、金融に関わる人達がもっと勉強して、金融政策に対して自分なりの意見を述べて日銀を論破していくことが、今、求められている。(了)