経済産業大臣 直嶋 正行 氏

経済産業大臣 直嶋 正行 氏

アジアの内需は日本の内需



聞き手 編集局長 島田一

――日本の製造業会社では日本から海外への脱出志向が強まっている。理由は、日本では税金や労働人件費が高く、少子高齢化で先行きの需要も見込めない。さらにCO2の規制や製造業派遣の禁止などコストアップ要因もたくさんあるからだ。メーカーが海外に出て行ってしまえば失業率は下がることなく、むしろ上がっていく…。

直嶋 国内での産業確保は重要な問題だ。日本における企業活動のコストが高いのは事実であり、法人税なども出来るだけ早く見直して行かなくてはならないと考えている。ただ、人件費についてはどうしようもない。実際に外国へ進出している企業は、基本的には国内マーケットが縮小し、アジアのマーケットが拡大しているからであり、マーケットのあるところで生産活動をするという原則に沿っている。この傾向はやむを得ない。アジアは今後、これまでの「輸出で稼ぐ時代」から「内需主導型のマーケット」に変化していくだろう。我々としては、成長センターであるアジアが内需主導に変わろうとしている今をチャンスと捉え、今まで輸出をして海外で現地生産をしていたやり方を少し変えて、アジアの経済発展をプロモートする政策を展開していきたいと考えている。

――アジアをプロモートする具体的な政策とは…。

直嶋 アジアで未だ整備されていない鉄道、高速道路、電力など、経済の根幹になるインフラ整備に対するサポートだ。すでに着手しているメコン地域の開発やデリー・ムンバイ産業大動脈構想の他、インドネシアでのインフラ整備と産業振興を推進するためのインドネシア経済回廊プロジェクトも動き出している。こういったところに日本の持っている技術を活用しながらアジアの成長を支えることによって、日本に成長の果実を取り込むような発想が必要だ。経済学的なことは別として、私はアジアの内需は日本の内需だと思っている。少子高齢化も今は日本の問題だが、将来的にはアジアの各国が同じ問題を抱えることになる。その時には、医療や介護に関するノウハウも提供していくことになるだろう。

――日本は一時期、政府が産業支援を止めた時期があったが、政府と産業界の関係とは…。

直嶋 この部分については、官民で改めて話し合いを持たなければならないと思っているが、経済界でも今の時代の動きはよく理解しており、「もっと政府が前に出て欲しい」という意見を表明している。政府がすべてを行うわけではないが、民間企業がその力を十分発揮できるように支援する。具体的には、政府系の金融機関を使って海外でのインフラ整備にかかる資金手当てを行えるようにする。そのために、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)などの役割をもう一度見直し、機能をさらに高めていく必要があると考えている。また、国の政策にコミットしていくということは政治リスクも伴うため、この辺りもきちんと念頭において進めていかなくてはならない。

――為替についての考えは…。

直嶋 直近の各企業の09年通期想定レートと現在のレートを比べると、対ドルよりむしろ対ユーロの方が円高傾向にあり、日本の産業に対する影響が懸念される。望ましい為替レベルについてはあまり言及しないほうが良いと思うが、やはり、短期間のうちに急激に変動することの影響を考えると、為替レートは安定していたほうが好ましい。

――経済産業大臣になられて、役所を見渡してみた感想は…。

直嶋 経済産業省は、どちらかというと役所の中でも民間に近い。生き物の経済を相手にしているため、世の中の変化に対しては敏感だ。実際にここで働く人達は私についてきてくれている。他方、日本では縮小した方が良いと思われている組織もあるが、この人たちが持っているノウハウは、日本の中での活躍の場は小さくなったとしても、アジアでは必要とされているものだ。特に、灌漑技術などは大いに期待されている。同じことをやるにしても、すみずみまで行き渡った日本国内ではなく、海外で力を発揮してもらう。これからはそういったことも視野に入れていかなくてはならない。

――金融のインフラ整備も、本来ならば金融先進国である日本が主導権を握るべきだと思うのだが、どうも韓国に先を越されているようだ。…。

直嶋 日本の金融面における地盤沈下は大きい。日本金融の護送船団方式が良くないという意識から金融庁を独立させたものの、規制だけを行っている役所では、生の経済の動きにはなかなかついていけないところがある。民間金融機関がもう少し積極的に動いていくことが、これからの大事なポイントになってくると思う。

――タイやシンガポールでは自国民の所得水準が高くなっているため、ラオス人などを低賃金で雇うなど給与構造の二極化を図っている。なぜ、日本でそういったことをやらないのか…。

直嶋 確かにそれは課題だが、日本国内では今、正規雇用と非正規雇用の格差が問題になっている。日本の成長やその他の様々なことを考えると、低賃金で雇える人たちを呼び込むよりも、むしろ高度な専門能力をもった人や、きちんと国際的なビジネスをこなせる人達を日本に呼び込むことの方が重要だと思う。日本の中でそういった人たちを確保するのは段々厳しくなってきており、人材が不足しているのが現状だ。そういった専門家集団を日本に取り入れることで、今後の日本の産業構造は、さらに付加価値の高いものを目指していくべきだろう。

――新成長戦略は6月の最終取りまとめに向けて、各省庁が一丸となって取り組んでいる…。

直嶋 新成長戦略は、経済産業省だけではなく、各省庁に横串を通すようなイメージで思い切ってやっていかなければならない。例えば労働力の問題にしても、女性に職を持って大いに頑張ってもらうためには、保育所の問題を改善しなくてはならない。あらゆる職業で女性が活躍している今、子育てに追われて職業から離れていくというのはもったいない。そうした損失のないように、これまで取り組んでいた社会福祉や社会保障から、今後は日本の成長を考えた戦略的な取り組みへとシフトしていく。

――2%成長というのは本当に可能なのか…。

直嶋 それを実現するために、今、成長戦略を進めている。社会保障財源の問題などを考えると、名目3%、実質2%くらい成長しないことには将来が大変だ。ポイントはアジアをマーケットとしてきちんと捉えていくことと、日本の企業が世界的に強いCO2など地球環境産業をより強化していくことだ。また、医療や介護、農業などはもう一度見直し、社会保障ではなく産業としての政策をきちんとたてていく。この環境・健康・観光で100兆円超の需要を創造しようという戦略だ。また、4月には第2弾となる事業仕分けもあるが、それだけで2%成長を実現できる訳ではない。国をもっとスリムにするために思い切って地方分権を進めたり、地方も行革するなど、制度改革も一緒に行わなくてはならない。少しずつそういう方向にもっていけば、必ず見えてくるものがある。今、民主党政権に対する失望の声や、批判の雰囲気が強くなってきているが、そもそも4年で計画していることを半年で判断するのは時期尚早だ。(了)