第一生命保険 社長 渡邉 光一郎 氏

第一生命保険 社長 渡邉 光一郎 氏

新創業で内外の市場開拓



聞き手 編集局長 島田一

――4月1日、第一生命保険は相互会社から株式会社へと変わり、上場を果たした…。

渡邉 4月1日の新たなスタートは6万人の入社式から始まった。取締役会によって新しく確立された役員と第一生命グループ全体の職員が新たにもう一度入社し、本社と全国の支社一斉に入社式を行った。今回の株式会社化は、創業者の原点に立ち返り、起業精神に回帰して新創業することを目的としている。「お客さま第一主義」という我々の理念は変わることなく、持続的成長や価値創造といった志をスタート台として、環境変化に対応する戦略をしっかり作っていく第一歩を踏み出したという訳だ。

――新創業として掲げる新たなビジョンは…。

渡邉 新創業をスタートさせるこの時期は、戦略以上に、理念やビジョンの認識の共有が重要だと考え、社の若者たちに新たなビジョンを作ってもらった。それは「いちばん人を大切にする会社になりたい」というものだった。この言葉には「いちばん品質の高い会社」「いちばん生産性の高い会社」「いちばん従業員の活気あふれる会社」「いちばん将来の成長する期待の高い会社」という意味が含まれている。私はここに、将来に向かう若者の志を感じ、この多くの意味が込められた「いちばん」を大事にしていきたいと思った。これまでの「日本で最初(第一)の相互会社」 という「いちばん」 の意味から、「いちばん人を大切にする」という意味の「第一」に変えて、第一生命保険株式会社を新たに創業していきたい。

――株式会社化し、上場したことの意味は…。

渡邉 上場日には東証で鐘を撞かせてもらったが、実はその代表5人の内、2人は新入社員にお願いした。それは「次の世代にもこの鐘を引き継いでいってもらいたい」という願いからだ。株式会社化することで経営戦略の手段を次世代に残すという意味もある。我々はすでに、インドやベトナムで小規模な事業買収を行っているが、もともと、相互会社における自己資本は社員(契約者)のものだ。リスク性資本に関しては本来マーケットで調達するというのが一般的な中で、大規模なM&Aを行う場合には、総代会や社内取締役会などでの説明が難しくなる。そうなると、国内外において成長戦略を描ける会社にするには、相互会社よりも株式会社や持ち株会社にして、経営の柔軟性や資本調達の多様性を使った展開をした方が良いと考えた。最終的に我々が目指しているものは持続的な成長を描くことであり、それが出来なければ「お客さま第一主義」という約束は果たせない。この経営理念やビジョンを後世に伝えるための戦略手段が株式会社化するということだった。

――今後は、海外戦略が重要になってくる…。

渡邉 欧米の生保会社が株式会社化を始める直前の日本の相互会社は「ザ・生保」と言われるほど元気が良く、我々も総資産で世界第2位の会社だった。その頃の総資産規模ベストテンは世界の相互会社が占めており、欧州も米国も多くが相互会社だった。それが、15年前から欧州の大手が、10年前から米国の大手が相次いで株式会社化していく戦略をとった。大手が変わると業界は変わっていく。我々も随分前から株式会社化することを検討し、そこから戦略展開を始めてアジアやオセアニアへの展開を始めている。アジアにはすでに欧米の生保会社が数多く進出しているが、これは貯蓄マーケットとしての進出だ。一方で、我々は成功モデルとして「保障性」があり、現在成長している分野として、第三分野の「医療・介護」がある。このビジネスモデルは、貯蓄マーケットである程度の保険の普及があって、国民所得が一定水準を越えるところから普及する。それを考えると、我々の参入タイミングは悪くない。むしろこれから十分間に合うものだ。さらに、我々の財団では戦後からアジアの研修生を受け入れ、日本のビジネスモデルを教えるなど、アジア各国と近い距離を築いてきた。こうした中で、日本のビジネスモデルをアジアに普及させることは十分可能だ。ステップ・バイ・ステップで戦略を描いていけば、欧米の生保とも十分伍していけると考えている。その結果として、世界の保険会社の中で、時価総額10位以内になることを目指している。

――国内での展開は…。

渡邉 これから3年間は、基盤整理期間として日本の中核事業の競争力を強化していく。IFRSによる会計制度変更や様々な規制の改正が予想されるこの3年間に、持ち株形態なども含めたインフラの整備をしていくつもりだ。その中核事業の競争力の原点となるものは営業職員の育成だと考え、「人財」の育成カリキュラム体制も強化していく。実は、今回の株式会社化のプロセスの中で、必然的にお客さまとのコミュニケーションが密になったことで、お客さま満足度は過去に無いほど高いポイントをつけ、トップラインの業績も非常に良くなった。これは中核事業の強化という視点において我々に非常に重要なヒントを与えてくれた。まずは、当社が持っている色々なリソースやチャネルをお客さまとの対話につなげて、足元を固める。そして、2012年に海外戦略の次なるマイルストーンを置いて、着々と持続的成長を進めていく。

――国内には色々な生保会社があるが、会社による商品の差はほとんど無いように感じる…。

渡邉 確かに、商品という面での差別化は非常に難しいと思うが、色々なチャネルと商品をどうミックスさせてお客さまのニーズに対応していくかということで、差はついてくる。当社にはそのリソースがたくさん備わっており、それをコラボレーションしてお客さまに対応することでサービスの強化を図っていく。また、株式会社化することによって商品開発の幅も広がってくる。従来のような有配当商品も販売できるし、新たに無配当商品も販売できる。商品が多様化出来る事でお客さまのニーズにもフィットしやすくなり、競争力は益々増していくだろう。

――株式会社化によって財務体質は強化されるのか…。

渡邉 株式会社化すると基金をすべて償却するため、一時的にソルベンシー・マージン比率は下がる。しかし、これは全く問題ない健全的な財務レベルだ。法律的には200%を超えていれば安全な会社とみなされており、特に日本においては破綻生保が出た時に、ディスクローズ資料としてこの指標が出されたため、報道などでも高ければ高いほど良いとされることが多かった。しかし、例えば、当社の子会社であるフロンティア生命のように資本を投下して間もなく、まだ保険契約があまり獲得出来ていない時には、リスクが殆ど積み上がっていない状態になって、その比率は非常に高くなる。一方で、業績が伸びていくとリスクも高まっていくため、ソルベンシー・マージン比率は低くなる。また、忘れてはならないのが、ソルベンシー・マージンがやたらに高いということは、資本効率が低いということでもある。資本が有効に使われていないような過剰資本状態は許されない。我々は、資本効率と契約者保護の両方の視点を大切にしながら、ソルベンシー・マージンのターゲット化をしていく。

――海外の投資家は、日本の生保業界の発展性に対して大きな疑問を抱いている…。

渡邉 確かに、死亡保障など保障概念で出来ている新契約高や保有契約高は急激に減っている。しかし、その一方で、医療・介護といった第三分野は伸びてきており、非常に安定している。さらに、変額年金保険の銀行窓口販売にも期待が持てる。これは現在28兆円規模のマーケットだが、10年後には50兆円規模になるという当社シンクタンクによるシミュレーションが出ている。一部の日本の生保会社には、この最低保証機能付きの変額商品をTOPIXが非常に高い時に、しかも銀行手数料も高い状態で売ってしまったため、リーマンショックの影響からリスク上維持することが出来なくなり、撤退したところもあった。しかし、当社のフロンティア生命保険などはTOPIXが下がりきった状態から参入したため、リーマンショック後も大きく業績を伸ばしている。最低保証のリスク管理を、再保険やダイナミックヘッジという手法を使ってコントロールし、なおかつ、ポートフォリオに定額年金なども入れて、リスク管理がし易い形に仕上げている。こうしたことで、日本は少子高齢化社会ではあるものの、まだまだ生保業界が発展していく可能性は十分にあると見ている。

――生保業界はこれからも成長していく…。

渡邉 人口構造が変わることによって、それを支えなくてはならない何かがあれば、それはマーケットになり得る。そういったことを創造していくことで、生保業界の将来は十分にあると私は考えている。国内で保障性商品をマーケット創造してきたのと同じように、人口構造の変化に伴って医療・介護分野もマーケット創造していけば良い。医療・介護というと、つい、官と民の役割を考えることから始まってしまうが、そうではなく、官と民が共同して、人口構造の変化に沿った形で医療・介護のマーケットを支えていくことが今後のポイントになってくるだろう。(了)