カドタ・アンド・カンパニー 代表取締役社長 門多 丈 氏

カドタ・アンド・カンパニー 代表取締役社長 門多 丈 氏

インフラファンドは日本に不可欠



聞き手 編集局長 島田一

――この度、「ポートフォリオ戦略とインフラ投資」というセミナーを開かれた…。

門多 年金基金や生命保険といった機関投資家のポートフォリオの中で、インフラファンドに投資する時代が日本にも来ている。欧州ではすでにインフラファンドが活躍しており、米国でもグローバルな金融危機を背景に徐々に始まっている。特にイギリスでは、サッチャー政権下の民営化プログラムで92年にPFI(プライベート・ファイナンス・イニシャティブ)手法が導入されて以来、インフラセクターへ投資するという概念が出来上がっており、機関投資家にとって長い歴史がある。PFIとは官から民へという意味で、民間にできることは民間にやらせて政府の事業を可能な限り小さくする考えで始まった。アジアでも、90年代通貨危機前に一度インフラファンド構想が浮上していたのだが、危機の影響もあってなかなか前に進まなかった。また、インフラファンドには、もうひとつ、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)という手法もある。これは官と民が一緒になって事業を行い、事業の企画段階から民が参加するもので、今回のセミナーでは、このPPP手法のインフラ投資も紹介している。

――今後は、日本がインフラファンドの重要なプレーヤーになってくると…。

門多 現在、インフラファンドの需要供給は世界中にいろいろな形で広まっている。何よりも、アジアなどでは成長するためにインフラ投資が必要だ。一方で、年金や生保といった機関投資家はここ5〜6年の間、インフラ投資を魅力的な運用対象として急速に注目して来ている。我々はここで、日本の色々な技術やノウハウを応用できると考えている。年金運用に関して言えば、このグローバルな金融危機の中、従来、流動性が高いと考えられていたヘッジファンドでは、売却や償還が困難な事態が生じた。一方、インフラファンドでは、ファンド自体の流動性は低いが、その代わりに投資している事業からのキャッシュフローがある。ここが重要なポイントだ。キャッシュフローを確実にとれるということは、年金にとって大きなメリットだ。

――年金運用でキャシュフローが確実にとれる投資といえば、今までは債券だった…。

門多 債券投資の信用リスクから展開する戦略もありうる。PPPは官民協力の形態であるため、根底にガバメントや自治体のリスクがある。一方、PPPの利回りはガバメント債の利回りを3〜4%上回ることがあるので、一種の裁定投資(クレジットアービトラージ)になる。この切り口での投資を関係者はボンド・プラス運用と言っている。ストレートな債券投資の一部をインフラ投資にシフトするとの考えだ。PPPは複雑だが、仕組みさえしっかりしていれば確実にキャッシュフローはとれる。先進国では株式リターンの低さが顕著になっており、BRICsへの株式投資のリスクは未だ高い現在の環境において、インフラ投資という選択肢は年金運用の多様化にもつながるだろう。

――日本はそういった概念が遅れている…。

門多 日本の政府や自治体の財政難問題は深刻だ。そこで国債や地方債を出すか、PPP手法を使ってインフラファンドを進めるか。政府などから見ればオフバランスになるこの手法は、いずれ日本でも重要な検討課題となるに違いない。しかし、民間の知恵を入れて、経営や事業オペレーションを効率化するという概念で成り立つこのインフラファンド投資は、日本において、マッコーリーの箱根ターンバイクの買収など以外、殆ど前例がない。海外では最近、GIPファンドによる英ガトウィック空港の買収があり、これはその後、韓国政府年金(NPS)とアブダビ投資庁(ADIA)が株式を取得したと聞いている。一方で日本では、政府が民間の飛行場保有を実質禁止するなど規制だらけの状況だ。さらに、英国などにはお互いの良いところを持ち合うという「パートナーシップ」 の概念があるが、日本では、自治体を含めて、政府がPPPに対してパートナーとして主体的に参加する姿勢と能力があるかは、現状では疑問だ。それは試行錯誤しながら、一歩一歩進んでいくしかない。

――世界的な金融危機が起こり、一年半前から世界中が公共投資に力を注いでいる流れの中で、今後はグローバルに投資するチャンスが出てくる…。

門多 米国でインフラファンド投資があまり広まっていなかった理由は、インフラ資金がこれまでほとんど債券(インダストリアル・レヴェニュー・ボンドなど)で調達出来ていたからだ。しかし、この金融危機で、米国政府や州などの自治体の財政は非常に厳しい状況になっており、インフラファンドの期待が高まっている。米国の公的年金も、今後のポートフォリオ戦略上、大きな興味を持っている。

――ギリシャショックなどから、ユーロに対する警戒感も広がっているようだが…。

門多 機関投資家は、投資の不確実性を避けるためにインフラ投資の内容をきちんと吟味することが重要だ。事業の主体がどこなのかは、しっかり検討すべきだろう。例えば、成長性があっても、今、アジアのファンドに投資を行うかといえば疑問がある。かつて、インドの電力事業にエンロンが進出した際、インド地方政府が突然電力料金を変えたように、アジアには事業リスクや規制の問題があるからだ。一方で、欧州の場合はきちんとした仕組みが出来ていて、契約もしっかりしている。また、欧州のファンドには長期間の投資で継続的にキャッシュ・フローを得ようとする考えの下、期間25年などスパンが長いものがある。欧州の銀行や生保も、長期の融資には前向きだ。期間が長ければ、それだけ金利も入ってくると判断している。

――まず、欧州から始めて、今後は米国、アジア、さらには日本のインフラ投資という流れを作っていくということか…。

門多 その通りだ。そのためには、機関投資家から見て信頼できるプロフェッショナルなファンドマネージャーの存在が重要だ。インフラファンドのマネージャーは通常の上場会社のファンドマネージャーやプライベートエクイティよりも、さらに高度で複雑なスキルが必要になる。例えば、グリーンフィールド(新規開拓)の投資においては、エンジニアリング、建設、オペレーション、メンテナンス、そしてパブリックとのリレーションシップなど、今までの色々なファンドと比べて幅広いノウハウが追加的に求められる。

――日本の銀行はインフラファンドをどう考えるべきか…。

門多 銀行にしても、日本国内にはマーケットがないため、海外である程度こういったところを経験することは必要だ。一方で、かつてこの分野で積極的に活動していた欧米の有力銀行の中には、グローバルな金融危機の中で撤退した銀行もある。特に、アジア地域などにおいては、そういう隙間に日本の銀行が進出していくことが期待されている。

――年金などの運用では、ポートフォリオの多様化は真剣に考えなくてはいけないことだ…。

門多 グローバルな金融危機以降、先進国の成長停滞による投資のリターンの低さとリスクの高さが目立ち始め、株式と債券の相関も上がってきている。そういったことを考えると、今後の年金運用は、過去のインデックスに基づくのではなく、将来を見通す眼とキャッシュフローに着目してポートフォリオを作る時代に来ていると思う。インフラ投資や経済成長を反映する不動産への投資、さらにプライベートエクイティ(非公開企業投資)は、この環境にちょうどマッチしており、その中でも、インフラ投資へのニーズは今後急増すると考えられる。個別事業の規模も大きく、1件1000億円以上の案件もある。機関投資家としても、こういったタイプのファンドに投資することで、ポートフォリオの多様化と、投資収益の向上の機会があるのではないか。(了)