国立天文台 台長 観山 正見 氏

国立天文台 台長 観山 正見 氏

小氷河期入りの可能性を覗く



聞き手 編集局長 島田一

――長い歴史を持つ国立天文台だが、現在の活動は…。

観山 前身の東京天文台は約130年の歴史がある。もともと麻布にあったものを大正時代に現在の三鷹に移した。およそ9万坪の敷地に緩衝地帯も用意したのだが、観測するには暗くなくてはならず、今では周りを住宅に囲まれたこの環境ではなかなか研究用の観測は出来ない。そのため、ハワイのマウナケア山頂(標高4,200メートル)に世界最大級のすばる望遠鏡を設置、さらに現在、チリのアタカマ高地(標高5,000メートル)にもALMAという巨大な電波望遠鏡群を建設中だ。その他、国内各所にも色々な施設を設置して天体を観測している。特にハワイは海の孤島で暗く、大気も綺麗で揺らぎがない。そのため、世界最先端の研究成果を挙げることが出来ている。

――最近の面白い発見は…。

観山 星は、それこそ「星の数だけ」あるが、最近、一部の星の周りに惑星があり、そこに生命が存在する可能性を調べることが可能となってきた。直接写真で発見されたのは、ハワイに設置しているすばる望遠鏡で撮ったものを含めて2例だけだが、その他にも現在約450個の惑星があると考えられている。まずは、木星のように大きな惑星から発見されてくるが、あと10年もすれば、地球のように小さく、水を湛えた惑星も見つかってくるだろう。そして、そこに生命があるかどうかも望遠鏡で分かるようになる。

――望遠鏡で生命があるかどうかも分かる…。

観山 もともと地球の空気中には酸素分子がなく、二酸化炭素が主であった。そこに、海の中で生命が芽吹き、海藻などが海の中でたくさんの光を浴びて光合成を行い、二酸化炭素を吸って酸素を出した。その酸素はどんどん増え、上空でオゾンとなり紫外線を遮断した。そこで、生命は海から顔を出し、植物となり、動物となった。そう考えると、もし生命が地球外にいるならば、その惑星の大気中に含まれている色々な分子は、段々と変わってくることになる。酸素が出てきて、オゾンとなり、植物や動物が生まれる。動物がいると、メタンガスが発生する。つまり、望遠鏡で宇宙人や生命の写真は撮れないが、大気から来る光を分析することで、生命の進化が分かるという訳だ。生命の誕生の謎は、顕微鏡ではなく、望遠鏡が明らかにする。

――不思議な物質も望遠鏡が明らかにする…。

観山 宇宙の果ては137億光年(1光年は約10兆キロメートル)と言われているが、すばる望遠鏡では130億光年まで見ることが出来るようになった。そして、その中にある銀河などを構成する通常の物質はたったの4%程度で、その他の75%は「ダークエネルギー」、21%は「ダークマター」といった見えない力が存在し支配していることが段々と分かってきた。「科学がもっと発達して、137億光年先まで見えるようになった時、宇宙の果てには何が見えるのか」という質問も良く受けるが、無限に広がる宇宙で、我々に見えるのは宇宙が始まった137億光年までだと考えられている。

――そんな中で、「地球は小氷河期に突入した」という推論も出てきている…。

観山 最初にはっきり言うと、予想は全く出来ない。ただ、過去の例と事実を述べれば、2001年の太陽には黒点がたくさんあったが、2009年には黒点が全く無くなっている。黒点は、温度がまわりより少し低い部分で、活発な時に多数出てくるものだ。その黒点数の推移を表すグラフを見ると、通常11年周期を繰り返しているが、ここ最近は減少したままで、なかなか活発な状態を示さない動きを続けている。そもそも小氷河期とは、一定期間中に温度が一度未満下がっている時期のことを言う。これまでの中で特に有名なのは、17世紀、スイスにアルプス氷河が広がっていった時期だ。当時はNY湾や英国テムズ川、オランダの運河や河川が凍る程、異常な寒さだった。そして、太陽天文学者の研究で、この時期に太陽黒点の数がほとんど無かったことが明らかにされており「マウンダー極小期」と言われている。現在の太陽の状態がこの時期と似ているのではないかということで、今が小氷河期に入ったと言う類推が出てきている訳だが、それはまだ確かなものではない。

――太陽の黒点の数が少ないと、地球の温度が下がってくる…。

観山 黒点が多発している「極大期」は太陽の持つ磁力が強く、黒点が少ない「極小期」は磁力が弱くなる。太陽と地球を取り巻く太陽圏に強い磁気があれば、宇宙にある高速粒子(宇宙線)の動きは磁気によって遮断されて穏やかなのだが、磁気が弱ければ、高速粒子は大気中を自由に飛び回り、雲の種となるイオンを作る。つまり、「極小期」の弱い磁力の中で活発に動いた高速粒子がイオンを作り、大気中のほこりなどを集めて雲となり、日射量を減少させるという説だ。日射量が減少すると、当然、気温も下がってくる。しかし、これは実証されたものではない。確かに「極小期」に若干減るとされている太陽から地球への総エネルギーは、現在、通常平均の1平米当たり324ワットから0.3ワット程度減っていて、研究者なども多少心配はしているようだが、最近、徐々に黒点の数は増えてきている。色々な研究者が、あと数サイクルを見ながら、400年前の小氷河期と比べていくことになるだろう。

――もし、本当に「小氷河期」となると、経済活動や経済政策などにも影響を与えることになる…。

観山 今、地球温暖化の問題はCO2の量と相関していると言われている。確かに、世界の平均温度はこの100年間で約0.5度、日本の各所では平均1度程度上がっており、同時にCO2の量も増えている。CO2を出さないようにという京都議定書も結ばれ、今や環境は産業化している。それが、対極するこの「氷河期説」を逆手にとり、「小氷河期だから二酸化炭素も出しても大丈夫だ」などといった流れにはならなければいいと願う。

――太陽の磁気エネルギーによって、磁気データーなどへの影響も心配される…。

観山 それは、逆に黒点が多い時の問題点になる。磁気エネルギーが非常に活発な時に、太陽フレアと呼ばれる磁気荒らしが来ることがあるが、それがひどい時には、送電線に不具合が起きてしまったり、放送障害を引き起こしたりすることがある。太陽の活動は不活発すぎても問題だが、元気が良すぎても様々なところに被害を及ぼしてしまう。

――宇宙にはまだまだ分からないことがたくさんあり、天文活動はこれからも必要だ…。

観山 化石燃料なども、結局は太陽の恩恵を蓄積したものを使っている訳だ。私たちはそのおかげで生きている。「小氷河期に突入した」など、何かがあった時にしか我々のこういった活動は注目してもらえないが、太陽を含めた宇宙はまだまだ分からないことだらけで、研究することはたくさんある。直接、普段の生活に結びつくことは限られているが、研究をおろそかに出来ないことは確かだろう。(了)