証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏

決算インフラがより重要な時代に



聞き手 編集局長 島田一

――日本の若者が内向的になってきている…。

竹内 確かに、若い世代の人たちが海外に派遣されることを嫌うような風潮にあると聞く。その理由は日本が裕福になりすぎたからだという意見もあるが、本当にそうだろうか。豊かになったからといって、現状に満足して、好奇心や向上心がなくなるようなことは、人類共通の現象とは言えないと思う。いつ破たんするか分からない財政状態で、年金・医療、介護といった福祉の分野が後退していくのではないかと考え、皆が自己防衛的になっているのが現状であり、それを解決するには、もっと本質的な問題の解決に向かった各論を前進させる必要があるのではないか。

――日本は島国であるため、競争に晒されていることが実感出来ない…。

竹内 欧州、米国、アジアといった各国のリーダーの関心は、必ずしも一般の人たちの生活実感を吸い上げる事だけに止まっている訳ではない。最も民主主義が進んでいるスイスで3年間暮らした事があるが、各界のリーダーがそれぞれのチャネルを使って、そこから実感したことを基に、社会全体として何が課題であるかを考え、それを実行していこうとしている。国民の民意を吸い上げるのが民主主義だということに間違いはないが、何について議論し、整合的で安定的な解決策をみつけるのか、そのテーマを決めるのはリーダーの仕事の筈だ。最近、外国人投資家の見方が、日本全体について、そうした問題解決能力が衰えているのではないかと感じているならば、日本市場にも影響が出てきかねない。

――財務省の情報収集能力も衰えてきている。例えば、今の日本の競争相手は欧米ではなくアジアなのに、法人税の話題等でも財務省から出てくる資料はOECDを中心とした資料だ…。

竹内 その点については財務省なりの反論はあるだろう。国家の活動は基本的に税によって支えられる。日本の諸々の社会制度は100年以上かけて欧米先進国家のスキームを取り入れて作り上げたものであり、それを金銭的な面でみた姿が公的部門の歳出である。国の歳出を欧米と比べると、日本では防衛費のウェイトが低く、公共事業のウェイトが高いという傾向があるにしても、全体的には類似している。歳出面で最もウェイトが高いのは、各国とも社会福祉と教育だ。日本がモデルとした欧州の福祉国家の歳入は所得税、法人税、間接税の3本柱で支えているが、日本の歳入は間接税の比率が低く、この歳入歳出間の構造上のアンバランスが国債に表れている。確かに、各国間での法人税率の比較という部分だけをみればアジアは低い。しかし、それは経済の発展段階の中で海外からの直接投資を招聘しているからだ。日本もそういう段階の時期はあった。ただ、欧米も、アジアの国と法人税率が同じでなければ国際競争を維持できないと考えているのかどうか。法人税率の問題は、財政の全体構造の問題の中で考えていく事になるのではないか。

――日本の税負担が大きくなる中で、その税金を支払わなくて済むような仕組みをつくる企業が増えている…。

竹内 もし、そういう実態があるのならば、国税当局も動くだろう。今回のリーマン事件についてもオフショアの問題が無関係ではない。そういった類の税の問題は、世界各国共通の問題として扱うべきだ。国際的な議論をすれば、ある程度の解決は見込めるものだし、現に各国国税当局相互間の協調が進んでいると聞いている。

――決済機関でも、各決済の動きをしっかり把握して、その情報をマクロ的に金融当局に流すような作業が必要になってくる…。

竹内 例えば、DTCC(米国の清算・決済機関)はデリブサーブというマッチングシステムを使って、リーマン絡みの複雑なデリバティブを分析し、約5000億ドルの債権債務関係を一カ月で全て整理し、解決させた。その後、この手法をFEDとSECの監督下に入れて、デリバティブ取引のマクロデータを公表している。このように、国内、世界の金融取引の動きをマクロ的に掴み、プレーヤー、監督当局、中央銀行でフォローし、国際協調の枠組みで分析、対応することが、市場の健全性につながる。我が国では株券その他有価証券の電子化により、関連した膨大なデータが集まるようになった。これらのデータを確実に管理、処理すると共に、その事実関係を基にして、より合理的な仕組みを更に追求していくことが必要だ。それは資本市場の共通の財産になる。この点、例えば、日本証券業協会が主催する「社債市場の活性化に関する懇談会」などで流通取引に関係する価格について話し合う際には、我々のデータを使えるように準備している。既にCPの発行額や発行レートは公表している。資本市場、金融市場から見て、電子化が社会的な資産だという意識が少しずつ芽生えてきている。そして、このように徹底した電子化と照合の仕組みは、国際的に見ても我国の得意分野になっている。こういった得意分野をたくさん作り、総合的に競争力のあるインフラとなることが、決済分野における我々のひとつの責任だと考えている。

――お金の流れの国際化が進むと、当然アジアをめぐる競争が起きてくる…。

竹内 証券業界を見ると、アジアではやはり欧州の存在が大きい。その中で、日本が少なくとも国力並みの存在感を出すためには、やるべきことが沢山ある。例えば、欧・米・アジアの各国に比べてまだまだ狭い日本の決済機関の業務範囲を将来広げていく必要が生じた時に、法律や制度がそれを妨げることにならないようにしてもらいたい。金融庁の制度整備に向けた最近の取り組みでは、店頭デリバティブ取引の国内清算機関への清算集中、国債取引の清算集中、貸株取引の清算集中またはDVP化、わが国の清算機関の整合性の整備という骨子を決めた。デリバティブに関しては、我々はあまりコミットする立場にないが、国債についてはマッチングサービスを行っている。また、貸株取引については、欧米では日本に比べてより厚みのある市場があり、貸株の管理の技術的な仕組みにおいてはCSD(証券保管振替機関)が種々サービスを提供している。貸株の場合、売買と少し違ったビジネス構造になるが、出来ればその構造に合った仕組みを構築出来ないか、今検討している。常に問題意識を持って研究したり、海外の動きをフォローしていくことが大切だ。関係者の中で問題の認識が高まることによって、議論もし易くなる。我々も検討課題を常時持ち、状況を見ながら問題提起していくような進め方をしていくつもりだ。

――国をあげて原子力発電や鉄道を輸出するような動きになっている今、証券の決済も輸出する勢いが必要だ。しかし、当局の腰は重い…。

竹内 去年、ベトナムとモンゴルを訪問したが、やはりそれぞれに革新の希望を持っていた。その中で、資本市場における日本への期待感は非常に強いものがあった。それに対して日本は、ODAというフィジカルな世界では積極的にバックアップしているのだが、社会的な仕組みにおいてはまだ期待に応えられるほどのものではない。このようなニーズには、それ程費用が掛かる訳でもないため、それに応える姿勢は日本側でもっと作るべきだと、金融庁や財務省にも話をしている。

――日本のポジションが段々と下がってきていることに対する心配も広がっている…。

竹内 国際競争力の問題は受験勉強のようなものだ。半年前から受験勉強をしたところで試験に受かることはない。普段の平和な時に先を考え、問題意識を持って、その問題について日ごろから他のビッグプレーヤーや外国のパートナーなどと議論していれば、外国人が何を考えているのか、発展途上国が何を期待しているのかがわかる。そういうことを把握しながら、常時革新のテーマを追求していく必要がある。日本のポジションが段々下がっていることに対する不安に対しても、総論で終わるのではなく、具体的な各論を検討し、それに行動が伴うことによって初めて意味をもつ。泣き言だけ言っていても何も解決しない。自分で動いて、外に出て、汗をかいてトライすることを若い世代の人たちにも学んでもらいたいと思っている。(了)