金融庁 総務企画局長 内藤 純一 氏

金融庁 総務企画局長 内藤 純一 氏

海外にビジネスチャンスを



聞き手 編集局長 島田一

――現在、金融庁が取り組んでいる主なテーマは…。

内藤 「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が5月12日に成立したので、今後は段階的に施行される関連政令・内閣府令づくりに取り組む。続いて国会に提出した「保険業法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律案」の国会審議にも対応していかなくてはならない。同法案は、現在、公益法人等が運営する共済事業を、保険会社などに移行することなく、当分の間、一定の監督の下で継続可能とするものだ。6月18日に完全施行となる「改正貸金業法」については、そのソフトランディングを図るためのさまざまな対策を具体化するほか、一般の方々の混乱がないよう、制度の趣旨や仕組みの周知に全力を挙げるつもりだ。

――「貸金業法」についての誤解とは…。

内藤 例えば、「年収の3分の1を超えて借りている人は、速やかに借入残高を減らさなければならない」というように、総量規制の理解の仕方に誤りがある場合がある。総量規制とは、限度額以上の借入残高をいきなり減らせではなく、新たな借り入れが出来ないということだ。また、個人事業者の事業資金については、簡易な事業計画などを作成さえすれば、総量規制外の扱いを受けて上限なく借り入れ可能となる。改正貸金業法を円滑に施行するため、我々は「借り手の目線に立った10の方策」を作った。目下、各方面から色々な意見を頂戴しているところで、完全施行に向け、全力で取り組んでいるところだ。

――ギリシャ問題などによるマーケットの不透明感も懸念される…。

内藤 日本の金融機関によるギリシャ国債保有額自体はわずかだが、注意を要するのは間接的、マクロ的影響であって、なかでも通貨ユーロの動向には目が離せない。最近の株安は直接的にはユーロ安、円高の影響によるものだが、その背景にはユーロ圏各国の考え方の対立からくる市場の不安定性がある。EUならびにIMFによる金融支援策やECB(欧州中央銀行)によるユーロ圏各国の国債買い入れなどによって当面の危機は乗り切ったが、より本質的にはギリシャなどの財政健全化を着実に進められるかどうかにかかっている。これらのいずれもが、日本として対応しがたい要素を多々含んではいるが、金融資本市場はグローバル化し、その変化が瞬く間に日本にも伝播してくる事態は2年前のリーマン・ショックですでに見たとおりだ。日本市場の基調は強いと思うが、当面、高い警戒度をもって状況を注視していく考えだ。

――これから先、金融機関への影響は…。

内藤 6月にはG20サミットなども開かれ、本年中には自己資本比率規制(バーゼル?)とともに、銀行に対する特別税などの構想も議論されることになる。また、銀行や保険会社などにも大きな影響を及ぼすと考えられる国際会計基準の動きにも目が離せない。今後とも、基本的な規制や政策のあり様は、こうした金融外交面の問題を中心に展開していくのではないか。言うまでもなく、各国の考え方や事情は実にまちまちだ。米国は、今後二度と金融危機を起こさないため、また、国内に渦巻く銀行批判や行政対応の遅れへの批判に応えるためにも規制強化に積極的だ。銀行批判は欧州も同様だが、さらに、ヘッジファンド、信用格付け機関、デリバティブ取引などへの批判はさらに高まる傾向があるようだ。こうした事情を抱えた欧米は国際的合意を形成することにより、事態の収束を図りたいようだが、一方、一昨年以降の金融危機を米国・欧州発だと見る日本は、異なる事情にあるといえるかもしれない。10年以上前の日本の金融危機時には、各国がおおむね規制緩和の方向に進む中、日本では公的資金を投入し、自己資本規制を強化し、さらに各種の監督規制を導入した。こうした日本の立場から見れば、グローバル化した環境の下にあっても、単純な一律規制ではなく、世界各国のおかれた状況や金融機関それぞれのビジネスモデルの多様性に十分配慮したものでなければならないというものであろう。こうした考え方にどう説得力を持たせるかが今後の議論の鍵の一つとなるだろう。

――政府が進める経済成長戦略の中で、金融絡みではどういったことを検討しておられるのか…。

内藤 未だアイデア段階だが、政務三役中心に話が進んでいるものの一つに、「金融資本市場の使い勝手をより良くすること」などがある。例えば株式市場について、現在の東京市場は同じアジアの香港、シンガポール、上海などと比べ大きく見劣りがするが、これをいかに活性化させるか。国内新興市場の今の沈滞状況をどう打開するか。さらに、社債市場についても関係者の間で検討が行われているが、要するに、より低いコストで使いやすい市場にするためにはどうすればよいか。ユーロ市場で円債を発行している日本企業などを日本市場に回帰させる方策は何かなど、課題はより具体的で、検討には一層のスピード感が求められている。

――海外の金融機関が規制緩和を行う中で、日本は規制を強化したため、資本効率が悪いという問題もある…。

内藤 国内における企業金融や資産運用の資本効率、資金効率が悪いという状況は今でも続いており、それは大きな問題だ。しかし、これは必ずしも規制だけにかかわる問題ではない。日本の機関投資家、例えば年金や生保、銀行、郵貯などの資金は海外に出るリスクを嫌い、その大部分を国債中心に日本国内で運用している。日本国債は日本の資金で安定的に消化され、金利はきわめて低く、財政には大きな恩恵を与えているといえるだろう。他方、日本の機関投資家やその資金の委託者から見れば、資金が効率的に使われず、十分な利回りが取れていないことになる。このような時、仮に、日本の金融機関や投資ファンド運用業者などが海外の有利な投資先に関する的確な情報を提供したり、新たな運用手段を開発したりするだけの能力があれば、随分違うはずだ。その場合には資金の効率も上がり、結果的に今のような極端に低い国内金利という異常な状態も是正されていく。日本の金融業がもっと知恵を出し、アンテナを張って海外のビジネスチャンスを積極的に掴むようになっていけば、収益構造も変わるに違いない。

――金融庁、消費者庁、証券監視委員会そして日銀など、それぞれが規制ばかりを考えている。民間からは「もっと金融業を発展させるというベクトルに向かうべきだ」という声もあるが…。

内藤 私から言わせて貰えば、残念なことだが、「自分たちは金融業として経済・産業の発展のためにこうしたいから当局もこう対応してほしい」といった声を、彼らから率先して聞いた事はほとんどない。規制問題でもいい、税制でもいい、「こうしてほしい」という要望は出してもらえばよい。特に、国際的な次元で「こういう規制が、自分たちが海外進出する上でネックになっている」などという話は、それが本質的なものであるなら是非聞かせてもらいたい。かつて行われた日米経済協議というのは、米国の金融機関が日本に進出する際に、日本の制度が障害になっているからこそ行われた。このように、民間企業の色々な声が出てくれば、経済金融協議にまで発展することも大いにあり得ることだ。ぜひ、金融機関から国レベルでお願いするというような具体的な声を出してもらいたい。現状では、どちらかと言うと、自分たちの今後のビジネスを国に示してもらいたいと考えているのではないかという感じすら受ける。それでは駄目だ。ある意味、日本では産業の中で金融が一番遅れているのではないかとさえ思ってしまう。

――日本の金融機関には自立心が足りないと…。

内藤 国が出来るのは補完的なことだけであり、基本は全て個々の金融機関が自らの知力を振り絞って考え抜くことだ。自分たちで戦略を描き、その戦略を進める上で重大な障害が出てきた時、そこではじめて外交的解決もありうるということだ。国内問題でも、規制緩和要望は沢山聞くが、その多くは技術的であり、ポイントが何なのか、本当にどうしてほしいのかが必ずしも見えてこない。我々は、国内の大手事業法人にはアジアで競争する基盤を強化してもらいたいと思っているが、日本の金融機関が80年代のように日本法人の背中を追いかけているだけではその将来はほとんどないといっても過言でない。海外に進出するということは、海外の金融機関を傘下に置くことも含め、現地化するプロセスを重視するということだ。これは、日本の金融機関にとっては未知の領域ともいえるものだが、欧米の大手金融機関ははるか先を走っていることを肝に銘じておく必要があるだろう。(了)