年金積立金管理運用独立行政法人 理事長 三谷 隆博 氏

年金積立金管理運用独立行政法人 理事長 三谷 隆博 氏

低金利、キャッシュ化など課題山積



聞き手 編集局長 島田一

――現在の運用資産残高は…。

三谷 平成21年度第3四半期末の時価ベースで122兆円。これは、郵便貯金の約180兆円に次いで日本のファンドでは2番目に大きい金額だ。世界中で見ても、市場でこれだけの資産を市場で運用する年金ファンドはない。この莫大な資産を運用するには、長期的観点で安全・効率的かつ確実を旨としなければならない。そのため、予め基本となるポートフォリオが、国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%というように、きちんと定められている。ある程度の乖離許容幅は認められているが、それを越えて勝手にポートフォリオを組みかえられるような仕組みにはなっていない。

――運用の仕組みは…。

三谷 年金積立金の管理運用については、まず、5年ごとに厚生労働大臣から中期目標が与えられる。それを踏まえて、我々が中期計画を作成する。その中期計画に基本となるポートフォリオを組み込み、大臣に提出して認可をもらうというものだ。この計画を変更する際も認可が必要になる。厚生労働大臣が示す中期目標では、資産クラス毎にベンチマークを決定し、それを確保するような運用が求められている。また、基本的にはパッシブ運用中心で、アクティブ運用は適切に確たる根拠を説明できる場合に限るものとされている。実際に、市場運用資産の8割程度がパッシブ運用であるため、アクティブのリスクは抑制されている。しかし、現在のような低金利の状態で、且つ、株式市場や為替市場のボラティリティが高いと、ベースになる債券運用のリターンは極めて少なく、株式市場や為替市場の動きにかなり振り回されてしまう。一昨年のリーマンショックでは、約9兆3千億円ものロスを被ったが、その後、株が回復したため、昨年度は第3四半期までで約7兆6千億円を取り戻した。そういう意味では、この運用形態は極めてマーケットに影響され易い形となっている。

――これだけ大きなファンドになると、運用そのものが非常に難しい…。

三谷 例えば、株が下がったからといって、大量の資金をヘッジに出せば、マーケットに多大な影響を及ぼしてしまう。もちろん、このような巨額の資金の運用の個々の判断をこの組織内だけで行っているわけではない。現在、マーケットで運用している資金の1割程度は、国内債券や一時的な流動性をキープするために我々の組織内部で管理しているが、残りの9割は外部の投資顧問会社等に運用を委託している。アクティブ運用はもちろんだが、国内債券などのパッシブ運用も、一つの所に任せることなく幾つかに分けて委託しているため、現在は77ファンドに分れている。つまり、我々の仕事の中心は、運用委託先の運用をモニターし、必要以上にリスクが高まっていないかチェックするほか、運用委託先ごとの運用成績をフォローしながら、定期的に見直しを行い、運用委託先を必要に応じて入れ替えていくというものだ。個々のファンドに関しては、過去の運用成績はもちろんのこと、運用体制や哲学までかなり細かく調べて選択している。アクティブ運用に関しては、例えば3年やってみて駄目だったがその後2年でびっくりするような好成績を出すというような例も珍しくないと言われており、なかなか判断が難しいところがある。

――財投預託もなくなり、団塊世代への年金の支払いも始まっているが、その影響は…。

三谷 昨年度から年金特別会計に資金を戻すようになっている。景気が悪くなりサラリーマンの賃金が少なくなると保険料収入も減るが、それとは関係なく、団塊の世代の受給開始によって年金の支払いは増えている。今年度、年金特別会計の予算書上では積立金から年金の支払いのために資金を引き揚げる額は、これまでのピークの約6兆7千億円程度に上るとみられている。今後はこの巨大な額を、如何に円滑にキャッシュ化していくのかが課題になってくる。かつて引き受けた財投債は満期まで保有することとしており、その元利相当額についてはマーケットでの売却は不要だ。つまり6兆7千億円全てをマーケットで売却する必要はないが、それでもかなりの金額をマーケットで売却しなくてはならない。マーケットに影響を与えないように、また、2カ月毎の年金の支払いを滞らせることのないように、流動性や相場を考慮し、資産構成割合を見ながら確実に売却を進めることが重要だ。これは、今まで買い手だった我々法人が売り手にもなるという、新しい枠組みでの業務になる。

――現在の中期計画について…。

三谷 3月に厚生労働省が示した第2期中期目標には「透明性の向上」がある。具体的には、有識者により構成される運用委員会での議論をより充実させるほか、今までの「議事要旨」に加えて、「議事録」も一定期間を経た後に公表することとされている。ただ、我々が四半期ごとに行っている運用状況の報告に関しては、長期的に行う運用についての国民とのコミュニケーションという観点で少し難しいと感じる部分もある。例えば、現在、我々の運用資産の3分の2程度は国内債券であるため、仮に金利上昇局面に入ると厳しい状況になる。もちろん、上昇した後は運用利回りが改善するが、金利が上がる過程においては、国内債券で時価評価でのロスが出てしまう。その途中経過を3カ月ごとに判断されてもどうしようもない。その辺りを如何に説明していくかが重要だろう。

――今後の運用上の課題は…。

三谷 我々の資金の運用の仕方について、国債の金利が超低水準になっていることもあり、「本当にこれでいいのか?もっとアジアなどの途上国やインフラ投資などに向けるべきなのではないか」というような意見もある。厚労省において昨年11月から「年金積立金管理運用独立行政法人の運営の在り方に関する検討会」が設置され議論されているが、その中では「運用は全額国債が一番望ましい」という声や、「120兆円のうちある程度の部分はSWF(ソブリン・ウエルス・ファンド)のようなやり方をすればいい」など、色々な議論がなされていると聞いている。こういった議論が我々の外部で活発に行われるのは非常に良いことだと思う。しかし結局のところ、われわれの運用のあり方は保険料として預かった積立金をどのように考えるべきかに帰着するのだろう。

――現在の職員の数は…。

三谷 80人程度だ。外部の運用機関への運用委託を多用し、また、中期的な観点からのリサーチなども外部の研究機関等に委託するなどして、今の人数で何とかやっている。私としては、もう少しリサーチや運用管理機能を充実させたいと思っているのだが、現在の独立行政法人に対するコストや人員の一律削減の枠組みの中で、なかなか例外を認めるわけにはいかないようだ。このような状況を踏まえ、現在のマーケットの状態で如何に上手く運用していくかを考える、それが私に与えられた役目だと思っている。(了)